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映画と車が紡ぐ世界chapter131

インセプション フォルクスワーゲン カルマンギア 1960年式
Inception Volkswagen Karmann Ghia 1960

カルマンギアを見たカノジョは 
ようやくニコリと微笑んだ・・・

休日出勤・・・そして 毎日続く残業の中 奇跡的にポカリと空いた一日
久しぶりのデートだったのに 
ヒュプノスに慕われた僕は 
フワリとした霞がかかった 夢の中を彷徨っていた
永遠に続きそうな深淵の森が 優しく僕を抱きしめる
あぁ ずっとここに居たい・・・ そう思った瞬間
強烈な太陽の日差しが 僕を照らした
目の前が 真っ白に ホワイトアウトしたとき 
背筋にツウと いやな汗が流れた

僕のベッドは南向きの窓際
この季節 僕の顔に太陽があたるのは・・・正午

Gabaaaaaaaaaaaaaaa!
勢いよく 布団を飛び出した僕は 充電中の携帯をもぎ取るよう掴んだ

着信10件 すべてがカノジョから・・・

大脳の中に浮かぶ カノジョの優しい額から 2本のとんがりが出ていた
怖くなった僕は ショートメールで お詫びをすると
昨日のうちに友人に借りていた 
カルマンギアを駆ってカノジョの家に向かった

 「ホントに ごめん!」

カルマンギアを見たカノジョは 間違いなく ニコリとしていたのに
僕の顔を見た途端 再び Pun Punモードに切り替わった

「3ヶ月ぶりの 一日デートだったのに・・・」

「おいしい ランチビュッフェの店・・・調べておいたのに・・・」

「ディズニーランドにも行きたかったなぁ・・・」etc

カノジョの口から出るのは 愚痴の嵐・・・
そこまで言わなくたって・・・と 少しだけむっとした僕だったが
助手席の カノジョを見ると 瞳が潤んでいた

「ごめん・・・」

改めて謝る

「それじゃあ 今日は真夜中までドライブね!」

一瞬・・・ 嵌められたと思ったけど 勢いよく”もちろん!”と答えた
と その時・・・

Ps・・・・・・・・・・・・・・・・・・・n

空冷の勇ましいエンジン音を奏でていたカルマンギアは 
突然逝ってしまった・・・

「ごめん・・・」
ため息のデュエットが車内に木霊した

「あっ! あれ見て!」
ふと 外を見ていたカノジョが指さしたのは
100mほど先の 色あせたゲームセンター『インセプション』の看板だった

「今日のデートは あそこになりそうね!」

「仰せのままに!」

JAFに応援を頼むと 僕とカノジョは 『始まりの国』に向かった

朽ち果てた外観とは異なり
”インセプション”の室内は絢爛豪華 大勢の来場者で賑わっていた
設置されているゲーム機は 
僕が小学生のころ遊んだ古参ばかりだったが
僕より7つ年下のカノジョには どれも初経験のゲームばかりで 
目が輝いている
それでは・・・と 僕は 子供の頃の記憶を呼び覚ました
インベーダーゲーム・パックマン・ドンキーコングに
エレベーターアクション・・・ 次々に新記録を出す
ゼビウスの隠れキャラを出す頃には 
カノジョの気分は最高潮になっていた!
そして・・・クレーンゲーム
これも昔取った杵柄
巨大なホワイト&ブラックのぬいぐるみを一発でゲットした

「ほらパンダだ!」

「かわい~ ありがとう ?」
心から喜ぶカノジョを見て 僕も最高のデートを感じていた

ずっと ここに居たい そう思ったとき
ポケットからカルマンギアのキーがポトリと落ちた・・・

「あっ JAF・・・」
一気に現実世界に引き戻された僕は 気付いた 
あんなに賑わっていたのに 
いつの間にか 店の中は僕とカノジョだけになっていた 
時計の針は・・・ 
!! 
間もなく午前0時を迎えようとしていた

まだ遊び足りないというカノジョの手を引いて 
車に戻ると 丁度JAFが到着した
グッドタイミングなんだけど・・・ あまりにも到着が遅くないか・・・不思議に思う僕の隣で JAFのお兄さんが言った

「こりゃ ガス欠ですよ!」

「えっ・・・」

ガソリンなら 500m手前にガソリンスタンドがあったじゃないか・・・

「ごめん・・・」
今日 何度目の”ごめん”だろう・・・

「いいよ! 今日はホントに楽しかったもの
 でも 明日は絶対に遅れないでね!」

??

不思議な一言に戸惑う僕に 突然 カノジョが抱き付いてきた
そして・・・
僕たちは久しぶりに キスをした・・・

♪ I'll See You In My Dreams Joe Brown ♪

「あっ! 君たち!!
 今ガソリン入れてる最中だよ! そんな熱いことされちゃ・・・」
JAFのお兄さんが叫んだ その瞬間!!

Bachi!DoooocaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaN


♪♪

携帯が鳴っている
慌てて 電話に出る

「起きてる?」

カノジョだった 時間は・・・a.m.7:00
あれっ・・・ 
今までの全部 夢? ホッとしながら僕は言った

「うん もちろん!」

「よかった! 久しぶりのデートだから 朝一番から動きましょう!
 ホントに楽しみ!」

「僕もさ! すぐに向かうよ!」
そう言って 電話を切ろうとしたとき カノジョが言った

「ガソリンのCheck しっかりね!
 それと・・・あれは・・・パンダじゃなくて マレーバクだと思うよ!」




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