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【小説ワンシーン集】ほうき星の魔女と妖魔の王子④

思いついたシーンだけを書きました。作品として完成させるかは未定です。

 もはや鳩美は道具を必要としなかった。コンプリート・ジャケットもスペルホイールも、それどころか宇宙戦闘服すらも不要だった。
 真の魔女として覚醒した鳩美はその身一つで宇宙空間に立っていた。彼女の黒髪は銀色に輝き、風もない真空で揺らめいている。
 それを見た妖魔の王子コースターは歓喜の思念を発する。

「おお! さらに強く美しくなったな鳩美! ますますお前が欲しくなったぞ!」

 もしコースターが音声で意思を伝えたのならこのような言葉を発していただろう。
 鳩美はコースターを見ると彼女の姿が一瞬消えた。そして次に姿を見せた時、彼女はコースターの妖気を孕んだ美顔に拳を叩きつけていた。
 ふっとばされるコースターを鳩美は無感情に見る。

 魔法が発動した。炎の魔法・鳳の型と電撃の魔法・龍の型だ。音声による呪文詠唱はなかった。
 妖魔人ですら、地球人の呪文詠唱に相当する思念の生成が必要であるのに、鳩美はただ、そうあれと望んだだけで魔法を発動させた。
 
「やるな、鳩美」

 コースターは魔力の盾を生成する。しかし鳩美が放った火の鳥と電撃の龍を防ぎきれるものではなかった。
 妖魔人最強と言われるコースターは初めて自分の防御を貫通されるのを体験した。
 
「そんな! 馬鹿な!」 

 怪我をするのも初めてだったコースターは冷静さを完全に失ってしまう。
 鳩美は光球を生み出した。魔力球とは異なる輝きだ。
 この様子を観測していた白百合号の艦橋内では、夜子が警告を出していた。

「艦長先生! 早くワープを! 鳩美が今使おうとしているのは、創造の魔法・反物質の型よ! 巻き添えを食らうわ!」

 夜子の言葉に青木はモニターに映る鳩美を見る。真の魔女は直径1mに及ぶ反物質の塊を生成していた。

「総員に伝達! 本艦は緊急ワープを行います!」

 白百合号がワープしたのと同時に、鳩美は反物質の塊をコースターに投げつける。

「うわああああ!!」

 コースターは悲鳴を上げた。これも生まれて初めてだった。彼は慌てて魔法で瞬間移動する。
 放たれた反物質はそのままコースターの背後にあった無人惑星に当たった。
 圧倒的な破壊の嵐が起きた。反物質によって発生した膨大なエネルギーは、地球の約80%に相当する質量を持つ惑星を跡形もなく粉砕したのだ。
 
 白百合号がワープアウトした。緊急ワープだったのでさほど距離を稼げず、爆発の余波を受けて激しく船体が揺さぶられる。
 船体の揺れが収まり青木は各所に被害状況の報告を求めた。幸いにも揺れで転んでしまった生徒が出ただけだった。

「艦長先生、只今戻りました」

 いつの間にか鳩美がいた。

「赤木さん……」

 鳩美は夜子をみる。

「夜子さん、ありがとうございます。あなたのお陰で私は誰にも負けない力を手に入れました。私の心から戦いへの恐怖が全部なくなりました。これなら妖魔の国に勝てます」

 鳩美はにっこりと微笑んだ。その表情はいつものように見えて、しかし鳩美と親しい者であるのなら絶対に違うとわかる。人と分かり合うかのように見えて、決定的にすれ違ってしまう存在のような笑みだった。

(違う、私はここまで強くしようとは思っていなかった。私は自分の後継者じゃなく、恐ろしいものを生み出してしまったのかもしれない)

 夜子は体の震えを必死に隠していた。

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