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記号過程、システム、意味

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人間と自然、人間と機械、人間とAI 対立するふたつのもの それらはなぜ対立するふたつのものになったのか? その答えを「記号過程」という用語を手がかりに考える
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2020年8月の記事一覧

詩的言語における意味の生成とはどういうことか? ―萩原朔太郎 「死なない蛸」を例に

(このnoteは有料に設定していますが、全文無料でお読み頂けます) ※ 萩原朔太郎さんに「死なない蛸」という詩がある。 「死なない蛸」が収められた詩集『宿命』は、青空文庫にも公開されており、読むことができる。 ぜひ実際に読んでいただきたいところであるが、どういう話の構造になっているかというと、次のような具合である。 ◎蛸が生きている、水槽の中で。 ◎水槽に食べ物が供給されなくなる。蛸は食べるものがなくなる。 ◎蛸は自分を食べてしまう。全部食べてしまう。 ◎水槽は空っ

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神話的思考は日本の神話にも―渾沌と三者

神話的思考とは神話は、ある事柄の起源、由来を説明しようとする。 その説明の仕方は、次のような手順になる。 1)まず「区別」が語られる。  対立関係にある二つの事柄、項目が、ペアで登場する。 2)区別された二項の対立関係が危機に陥る。  二項が近づきすぎて「ひとつ」になったり、区別不能になってしまう。あるいは二項が離れすぎてしまい、その間に結びつき、関係が無くなってしまう。これはどちらも対立関係が成立しなくなること、項が対立関係から外れてしまうことである。 3)神話的思考

意味は「線」である―ティム・インゴルド『ラインズ 線の文化史』(3)

ティム・インゴルド氏の『ラインズ 線の文化史』。 人類とは?、人類の文化とは?、特に来たるべき文化についての知とは? 「線」ということに映し出して、そうした問いを立てる試みである。 インゴルド氏が「線」ということで何を考えようとしているのかは、こちらのnoteに書いた。 線には「まがりくねった徒歩旅行の軌跡」のようなものから、「透明な直線」まで、様々なものがある。 そして多様な線の中で、特にどういう線が、あるべき理想的な線なのかという線についての理念が、ある時代、ある

子どものことばは神話的思考 ―昼寝と草取りと深層意味論

最初にレヴィ・ストロース氏の『神話論理I 生のものと火を通したものの』の冒頭の一節を読んでみよう。 「生のものと火を通したもの、新選なものと腐ったもの、湿ったものと焼いたものなどは、民族誌家がある特定の文化の中に身をおいて観察しさえすれば、明確に定義できる経験的区別である。これらの区別が概念の道具となり、さまざまな抽象的観念の抽出に使われ、さらにはその観念をつなぎ合わせて命題にすることができる。それがどのようにして行われるかを示すのが本書の目的である。」(クロード・レヴィ・

「線」としての言葉。声の線、手書き文字の線、印刷文字の線 ―ティム・インゴルド『ラインズ 線の文化史』読書メモ(2)

ティム・インゴルド氏による『ラインズ 線の文化史』の読書メモ、先日のnoteの続きである。 ラインズとは線のことである。 ご存知、ペンを紙の上に走らせた時にできる、あの線である。 線には二種類があると、ティム・インゴルド氏は書く。「軌跡」と「連結器」である。これについてはこちらのnoteにも書いたが、改めて整理すると、次のような具合である。 まず「軌跡」とは「踏み跡を追跡する徒歩旅行」の途上で刻まれる線である。一方、「連結器」は、「地図を与えられた航海」が辿る線である。

徒歩の軌跡と透明な連結器―ティム・インゴルド『ラインズ 線の文化史』

人類学者ティム・インゴルド氏の『ラインズ 線の文化史』である(Tim Ingold(2007)"LINES A Brief History")。われわれ人類とは何かを「ラインズ=線」ということに映し出して考える試みである。 線とはなんだろうか?線とは、紙に鉛筆で引いた一本の線のことか? あるいは道や鉄路のことか? 線について、インゴルド氏が書いているところを読んでみよう。 ラインは生命のように終わりのないものなのだから。重要なのは終着点などではない。それは人生も同じだ。面