「中国専門家のウクライナ戦争の見解」とする情報の拡散と東野、細谷らの嘘

 まず、東野篤子氏や細谷雄一氏らがこのエコノミストの記事を引用する際、冯玉军教授を「北京大学教授(その前は复旦大学)」としているが、これはXの元ポストの誤りを鵜呑みにしたミスで、教授の所属は今でも复旦大学国際問題研究院副院長である(北京大には特約客員教員で所属しているのみ)。中国語で北京大や复旦大のホームページを調べればすぐに分かることである。このことから東野、細谷らは当該教授との交流はおろか、中国語もできず、中国の国際政治学界との交流もほとんどないことが分かる。

 次に、当該論説は中国国内の学界や世論空間でほとんど話題になっておらず、どちらかというと日本語のX空間でKOLによる紹介が頻繁に行われている(肩書ミスもそのまま伝播)。

 中国の国際政治学者はイメージされているほど発信が締め付けられておらず、親露親欧米の学者が各々好きに発信している。ロシアメディアに頻繁に出演するロシア寄りの学者もいれば、米欧の有名紙に寄稿をする欧米寄りの学者もいる。日本経済新聞など日系紙へ寄稿する中国社会科学院の学者もいる。そういった発信も教員としての実績や評価に繋がるので、エコノミストのような有名誌への寄稿は冯教授が自身の実績作りのために行っているのでしょう。ただし、これが中国政府から漏れ出た公式なウクライナ戦争への見方として捉えるのは無理がある。自分が知る限りウクライナ戦争に批判的な学者は一定数いても、「ロシア敗北論」は中国の戦略学術界ではかなり傍流意見である。中国は昨年6月のウクライナ反転攻勢が開始される前から、反攻が大きな戦果を上げることなく、戦線がこのまま膠着して妥協和平で終わるという見立てを立てている。実際ウクライナの反転攻勢が失敗した今、この見方が主流である。

 今回の情報拡散から分かることは、実名で発信する東野篤子や細谷雄一らのような大学教授でも、都合の良いナラティブを取捨選択し、場合によっては偽情報すら拡散することである。細谷氏に至っては、自身が「中国の若手研究者との交流から…」という発言をX上でしているが、実際の所細谷氏と交流があった中国側の研究者はほとんどいないことが分かっており、完全に嘘である。

ウクライナが現状どうなっているかは、最近のポリティコの記事(Ukraine is heading for defeat)のように、現場の現実を伝えている情報を見たほうが適切であろう。

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