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しがらみから逃れたいのに、なぜコミュニティ回帰しようとするのか

 最近のトレンドとして、古民家を改修して住もうという若者が増えてきたように思う。

彼らは、仕事上の人間関係に傷ついたり、資本主義的な価値観に疲弊したりしたのだろう。

田舎の、時には限界集落の、タダ同然の古民家を買い取り、DIYリノベをして生活を築いていく。

上司や顧客にペコペコしないでいい人生は、いかに豊かで自由に満ちているものであろうか!

...........なんで、気づかないのよ!!

田舎の方が、人間関係がキツいんだって!!

そんな当たり前のことを!

人間って学ばないというか、歴史はぐるぐると繰り返すというか。

その昔、日本に「核家族」という単語が頻出されるようになった時代があってだね。その核家族で育った子供の第一世代が私の年齢あたり。

私は昭和40年生まれで、大阪にある某ニュータウンの団地の抽選に当たった両親が、喜んで引越して住み始めたのがニュータウン&核家族の初代世代。

その頃から「核家族の専業主婦」という属性が発生。

それまでの主婦と言われる人は、大家族全員にとっての「嫁」であり、あらゆる責務と実務を背負わされる割には、リターンがほとんどないような酷いポジションに置かれていた。そして専業でもなかった。家業の労働力としてタダでこき使われて、愚痴を言う暇もなかったような時代が長くあった。

ところが、核家族の主婦の責務は、少人数の家族の生活を整えることのみ。そして、ちょうどその時代から家電製品がドンドンと市場に投入されていった。

掃除機、電気炊飯器、冷蔵庫、洗濯機、オーブン、電子レンジ..........。

以前なら、手を荒らしながら手洗いするしかなかった洗濯もマシンに丸投げできるようになり(しばらくは二層式で、洗濯と脱水が別、その前は脱水はローラーでぐるぐると回す作業が必要だったりもしたが)、薪をくべる必要もなく、料理時間も短縮された。

ヒマな主婦が増えて、趣味の講座なども大盛況になると同時に、子供の一挙手一投足を監視し、過干渉する専業主婦ママも増殖。

誰もが舅や姑、地域に住む親戚達の柵(しがらみ)から、逃れたいと思ったわけよ。そして都会に若い人が集まっていった。

各家庭の中の個人的な責務について、暇になった云々と事細かく批判するつもりはないのだが、言えることは、核家族というものは、誰もが憧れた自由で平和な家族のあり方であったのだ。

都会で仕事を見つけ家庭を持ったら、そこは自分だけの自由な城で、親戚などの人間関係に煩わされない人生は、なんと平和なことか。その代わりに、サラリーマンとして仕事をしている人たちは、会社においては自由を奪われるけれど、それはそれで一歩外に出れば自由な時間が戻ってくるという生活であったわけだよ。

でも一生を捧げるわけでもない、一日のうちの8時間、起きている時間の半分を過ごす場所に自由がないと思い、上司に怒られない人生を求めて、都会を離れて自由な生活を希求する若い人たちがいるのも、分からないではない。

カナメとよく話す言葉で、「アノニマス(anonymous)でいられる」というものがある。anonymousというのは匿名性を指す形容詞で、我が家では「アノニマスでいられる規模感」「適度にアノニマス」などと、その街の人口規模を表する。大都会のアノニマス感がMAXとすれば、限界集落のそれはゼロである。

例えば、地元のカフェにフラっと入った時に、隣に座っている人が知り合いかどうか、というようなことだ。田舎だと、知らない人はいないので挨拶をしないといけない。そして場合によっては自分の席に呼び寄せて話をするハメになるかもしれない。カフェワークなどできないのだ。が、私が住んでいるエリアは、そこそこの規模の地方都市なので、カフェで隣の人が知っている人だったことは一度もない。

なので、若い人が移住しようと思うなら、限界集落ではなく、適度にアノニマスでいられる地方都市が良いと思うのだ。ちゃんとカフェでPCワークができる規模の街感(人口規模)がないと、快適で自由な生活は実現しない

自由とは、自分一人でなんとかなる環境があって初めて成り立つ。どこかに行くにも、何かをするにも、近所の誰かを頼らないといけない生活は、シェアリングエコノミーと書くとカッコ良さそうに見えるが、実態は人間関係がセットになっている世界である。そしてその人間関係は、会社を一歩出れば離れられる職場の人間関係とは異なり、プライベートな関係であるため、そこから逃れるにはコストのかかる引っ越しを伴うのである。

学生時代に、長野県川上村のレタス農家に住み込みバイトをしていたことがある私は、ある売店に初めて立ち寄った時に「あああ、○さんところの新しいバイトの子」と初対面で言われて衝撃を受けた。その後、料理補助でバイト先の奥様とキッチンで作業している間に、それまでの人生での壮絶な嫁いじめの実態を聞かされ続けて背筋が凍ったものよ。他の家庭の冷蔵庫の中身まで知ってると言われて、どういう仕組みをつくればそれが可能なのか、脳内が???になったことも。

バイト先のファミリーにはよくして頂いて、「バンリちゃん、こっちに残らんか?ダンナ探してやるから。」と何度も何度も懇願されたけれど、丁重にお断りしたのは、こんなところの嫁になったら人生終わると心底思ったからだ。

キレイな空気、美しい景色、とれたての美味しい新鮮な食材、冷たくて衝撃的に美味しいお水、農業のさらなる可能性、一年の半分は悠々自適のレジャー生活のどれをもってしても、えげつない人間関係が一生引っ付いてくると思うと、絶対にお断りしたい案件であった。

つまりだ。

都会の仕事上での人間関係から逃れたいなら、人間関係がさらに濃いところに行ってはいけないのだ。そして田舎の人間関係は、仕事が終わったらおしまいなんていうドライなものではない。

経済的に不安があるから、田舎のタダ同然の家に住めばなんとかなると思うのかもしれないけれど、そんなことより地方都市に行くのだよ。それなりの人口規模のある地方都市であれば、その都心部のど真ん中に住もうとも、都会に比べれば、びっくりするほど安く借りられる。そしてどこも人手不足なので、正社員、アルバイト、パート職もたくさんある。さらにどこに行っても知り合いばかりということがなく、実際にアノニマスでいられるのだ。

都会で高所得を得られる仕事をしていたなら、フリーランスになって東京や海外の仕事を受注して在宅で働けば全ての問題は解決する。

さて。

こういった記事を読むと、「あれ、賃料って東京と地方で、それほど変わらないやん」と思うかもしれない。が、平均値というのは時には実態を示していないことがある。有名な大学がたくさんあり、学生が集うエリアに小さな部屋が大量にある都会に比べると、地方にはそんな「学生向け物件」が大量にあるわけでもない。だから都会のアパートの賃料の平均値は低く見えている可能性もある。かつ東京都内にも都心部へのアクセスが異常に悪いエリアもあり、そこの不動産の賃料はやはり安いのだ。

そしてさらに特筆すべきは、地方の時給は安いと行っても、都会の半額になったりはしないということだ。不動産の賃料は半額レベルでも、時給は最大差でも2割も下がらないのである。

地方にないのは、いわゆる高所得サラリーマンの筆頭に挙げられる外資系ホワイト企業(実は中身は深夜残業当たり前の超絶ブラックなこともあるが、ペイが良いからなw)なのだが、その仕事もリモートでできる可能性はなきにしもあらず。

まずはいきなりど田舎に移住する前に、休みの度に色々なエリアにショートステイしてみることだよ。

アノニマスでいられる規模感の地方都市をいくつかセレクトして、その細かい数字を見ていくことをオススメする。どの自治体でも、人口動態(人口の推移)が公表されているので、日本全体の人口の減少率から乖離して減っているような地域は、今後のインフラの維持が難しくなることが予想される。中には人口が増えているような勝ち組自治体もなきにしもあらずなので、そういう場所を目ざとく見つけてみてね。

まずは、いきなり地方に行って、そこで仕事を探すのではなく、フルリモートワークができる仕事にシフトするのがおすすめ。どの業界も超絶人材難なので、意外とジョブチェンジできる可能性は高いよん。

フルリモートが可能になったら、めぼしをつけた場所に一か月くらい住んでみること。移住支援が手厚いところに行きたいと思うかもしれないけれど、「めっちゃお金を出さないと人が来ないところ」とも言える。

どうしても今すぐ都会から離れたいということなら、荷物を一旦レンタル倉庫に預けて、身一つで行ってエアビーしてみてもいいかも。まずはタイミーなどで単発バイトをしながら、情報収集するのもいいね。肉体労働系なら、今の単価はうなぎのぼり。田舎でもそこそこ稼げるで。


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