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キミにプラス(+)。

 韓国のソウルにそこそこ長い間住んでいたので、子供たちにテコンドーを習わせようと考えた。家の徒歩圏内に道場を見つけたからだ。

それまで別の格闘技もやっていたことがあったのと、私自身がなぜか興味を覚えてしまい、子供の通訳として入るという体で、子供達と一緒に道場通いが始まった。

数日後、長男のギン(吟)がやってきて、話があると言う。

彼はほとんど親に話しかけることはないし、話をしても会話は短いし(ほぼ単語だけだし)、一日一言も話さないことも多々あり、私が一方的におもろい話をふっかけて、彼が「ふっ」とほっぺたを膨らませてニヤッとする顔をみて、私が一人で萌えるだけの日々を送っていたので、彼から話があると言うと、私は全力でそれを迎え撃つのである!!!

私「なになになに、なになに、ギンくん、なになに。何の話?」

と思いっきり食い気味で返事をする。

ギン「思うんだけど、オレがテコンドーをやるのって、意味なくない?」

私「え?」

ギン「どうせ、レン(蓮)には勝てないんだし。」

次男のレンは、自他共に認める類稀な運動神経を持っておる。それを言っているのだろう。対するギンは、そこまで運動神経に長けたタイプではない。

私「え、勝ち負けの話?」

ギン「え、だってそうでしょう。レンだけやれば良くない?」

私「ちょ、ちょっと待って。なんでそういう話になるねん。いい?ギンくんは、数学も物理も化学もぶっちぎりやん。」

ギン「まぁ。」

私「日本語の本も読めて、英語もできて。ルービックキューブもすぐにできちゃうし、手先が器用で折り紙とかすごいやん。」

ギン「まぁ、そうやね。」

私「でさ。そんなギンくんに、『テコンドーもできる!』がプラスされるのって、すごくない?」

ここでギンの顔が、少し引き締まったような気がした。

私「レンくんは、まぁサッカーができて、バレーボールができて、走りも早いし、まぁお勉強はちょっとできないところもあるけれど、それにプラスしてテコンドーができるようになるだけだし、ギンくんは、物理化学数学…..にテコンドーがプラスされるだけのことやん。めっちゃええやん。めっちゃカッコええやん。絶対にやったほうがええよね。健康にもなるし、筋肉もつくしさ。」

ギン「分かった。」

その後、ギンはテコンドーを辞めるという話をすることはなく、高校卒業までずっと続けていて、高いパフォーマンスを見せてくれた。大学進学の際には、館長先生(韓国の某大学の現役教授)の推薦状までもらって、無事進学をした。

テコンドーの師範先生は、そんなギンのことをこう称していた。

師範先生「ギンの場合、あれは100%努力。努力だけであそこまでいけるという好例。一方、レンの場合は100%才能。もちろん努力もあるんだけど、後天的についたものよりも、生まれ持った身体能力が、もう他とは違うんだよね。」

マジか…….。これを最初に言われたら、さすがのギンも辞めてたかも(汗)。

さてさて、レンはというと。

レン「ママさんに勧められたから、一応やってはいるんだけど、武道ってオレの性格には合わないというか。だって、相手を傷つけて、蹴りまくって勝つ競技なんて、訳がわかんないじゃん。オレ、そんなことしたくないし。もっとピースフルな競技があるんだから、そっちの方がいいよね。」

さいですか。

どんなことも、やってみれば経験値が上がり、自分の持駒が一つプラスされる。

あんまり難しく考えないで、色々とトライしてみるのがいいよね!

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