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新型コロナウイルスの抗体検査は受けるべきなのか?

例年とは全く異なる様相のGWを終え、全国的にもひとまず新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の新規感染者数は減少傾向にあります。徐々にですが緊急事態宣言も解除され、今後は人の動きが少しずつ再開されていくことになります。

そんな中、最近のニュースではCOVID-19の検査に関する報道が相次いでいます。「5月13日抗原検査キットが承認(保険適応)」「5月15日、抗体検査を1万人規模で実施へ」などなど、めまぐるしいスピードで動いている領域です。しかしNews PicksのコメントやSNS上での議論を見ていると、これらの検査の『違い』について正しく理解している人はごく限られているように思います。

最近では、『抗体検査勧められたんだけど、受けたほうがいいの?』という質問が増えてきました。実際どうなんでしょうか?

この記事では、検査を行うケースごとに選ばれるべき検査の種類や、実施の妥当性について簡単にまとめました。

『色々検査がでてきて、よく分からないよ〜』という方におすすめです。では、みていきましょう!

COVID-19の検査法は3種類ある

現在COVID-19の検査として行われているものは、『PCR検査』『抗原検査』『抗体検査』の3種類です。シンプルに考えると、PCR検査と抗原検査は「今感染しているかどうか」をみる検査で、抗体検査は「今までに感染したかどうか」をみる検査です。

PCR検査ができるなら、それに越したことはない

PCR検査も抗原検査も「今感染しているかどうか」をみる検査ですが、同じ検査ではありません。PCR検査は抗原検査よりも面倒臭く、できる数も人員も限られていますが、精度が抗原検査より高いという特徴があります。抗原検査のメリットは、簡単に設備の整っていない医療機関でも実施できることや、PCR検査よりも検査実施数のキャパシティが高いことです。

どちらもできる状況であればPCR検査を行いたいところですが、医師が必要と判断した時でさえ保健所に断られてしまうケースの報告があったことからも分かるように、実施の基準は厳しくなっています。医療資源は無限でないため、これはごく当たり前のことです。PCR検査が難しい場合に、ファーストステップとして抗原検査が行われるようになっていくでしょう。(ただし、精度はPCR>抗原検査なので、臨床的に強く疑っていたのに抗原検査を行って陰性の場合には、結局PCRをやることになるかもしれません)

何のために検査を行うのか考えよう

そもそも検査をするときは、「何のために」行うかを十分に考えることが大切です。あらゆる検査は、結果を踏まえて何らかのアクションが変わる時に行うべきであって、何となく行うものではありません。

COVID-19の検査については、「診断をつけるために行うケース」「すでにかかっているかどうか知りたい、不安解消や好奇心を満たすために行うケース」「特定の地域における感染状況(無症状感染の割合等)を把握することで国の施策決定に活かすために行うケース」が想定されます。

大切なのは、検査を行うことによって本当にこれらのニーズが満たされるかどうかを慎重に判断することです。

では、一つ一つ見ていきましょう。

①医師が診断をつけるために行うケース

症状や一般検査(採血や画像)からCOVID-19が臨床的に疑われるケースに対して確定診断を下すために検査を行う場合です。医師が強く疑っている状況なので、少しでも感度が高い検査で、「今」感染していることを示したいはずです。診断がつけば、承認済みの治療薬を使用したり、感染対策を強化したりできます。よって、このケースで検査を行うことは超妥当です。

この時、PCR検査が最も良い適応になります。感染がすごく拡大してしまってPCR検査の人員や設備が追いつかないときは、止む無く抗原検査を使うことになります。「今感染しているか」を知りたい状況なので、抗体検査を選ぶことは基本的にありません。

医師が診断をつけるときは、PCR検査>抗原検査>抗体検査です。

②個人が不安解消・好奇心旺盛のために望むケース

このケースは、さらに3つに分けられます。

a, 軽い症状があって不安なケース:咳や発熱といった症状がある場合、まず保健所に相談をして、受診を推奨されれば病院にいくことになります。医師がCOVID-19を疑えば①のケースになりますが、症状が軽いことやハイリスク因子を持たないことから、自宅で様子を見ましょうと言われるケースも沢山あります。無症状・軽症状感染が多数を占めることを分かっている医師は、「100%新型コロナを否定できる訳ではないので、せめて14日間は自宅で安静にしましょう。症状がひどくなったり、息苦しくなったりしたらすぐ連絡してください」などと言います。そんな時、不安を解消するために検査をしたいという方もいるでしょう。
b, 症状はないけど不安なケース:『知り合いがコロナにかかって急に身近に感じ怖くなった』など、症状はないけど不安な場合、保健所に相談しても病院受診は推奨されません。症状がない人が病院に行くことは医療崩壊に繋がるとともに、むしろ自分の感染リスクが増加してしまう危険があるからです。
c, 「すでに抗体を持ってる説」を確かめたい好奇心旺盛ケース:『あの時の症状はコロナだったんじゃないか』『特に問題ないけど、実はもう感染してるんじゃないか』といった好奇心旺盛な方が検査を望むケースです。もはや誰もが感染していておかしくない現状において、自分がかかっているかどうか知りたいというのは自然な感情とも思います。

これらのケース(②-a〜c)で検査を行うのは妥当か?

では医師が医学的に検査不要と判断する方々が、自分の意志で検査を受けたい場合どうなるでしょうか?現状だと、このケースで受けられる検査は抗体検査のみです。ご自身で市販にて購入するか、試験的に抗体検査を実施しているクリニックで自由診療の範囲で実施することになります。医師が医学的にCOVID-19を疑っていないケースにおいて、自分の意志でPCR検査や抗原検査を受けることはできません。

では、抗体検査を誰もが受けられるようにすることに意味はあるのでしょうか?答えは明確に、NOです

新型コロナウイルスの抗体検査では、IgM(感染初期に現れる抗体)とIgG(感染後期に現れる抗体)の2つを測定することで現在の感染状況を判定します。

細かい説明は省きますが、IgMとIgGの両方が陰性なら未感染、IgMのみ陽性なら感染初期、両方陽性なら感染中期、IgGのみ陽性なら感染後、と判断されます。では、この検査を行うことの何が問題なのでしょうか?

【課題①:精度が不明瞭である】

現状において、抗体検査の感度や特異度については不明瞭です。検査前確率(有病率)を無視してこの検査を行なった場合、偽陽性や偽陰性を常に想定することとなります。

もしこの検査でIgMが陽性であった場合、感染初期か感染中期と判断されることになります。つまり、「今感染している可能性が高い」という結果が出ることになります。この場合、不安はむしろ増大しますよね?必ず病院を受診しようとするでしょう。

医師もIgMが陽性と言われたら、精度が低いことが原因かもしれない(偽陽性かもしれない)と分かっていたとしても、PCR検査や抗原検査の実施を検討せざるを得ません。その方が喫煙や糖尿病といったハイリスク因子を持っていれば尚更です。

あまりに多くの人が抗体検査を受けるようになると、一定の確率でこのような問題が起こり、医療崩壊を加速する可能性があります。

【課題②:そもそも抗体を持っていれば安心かすら分からない】

意外と無視されがちな観点ですが、そもそも抗体検査でIgG陽性だったからといって、必ずしもCOVID-19にかからないということは意味しません。中和能(感染抑制能)があるかは別問題なのです。
一度治癒してから再感染または再燃を疑うような症例も多数報告されており、IgG陽性だったから必ずしも「免疫を獲得した」とは言えないのが現状なのです。

つまり、結果がどうであれ不要不急の外出は避けるべきという状況はしばらく持続することになります。検査を受けることによってアクションが変わらないのであれば、受ける必要はあまりない(妥当ではない)と言えます。

③政府が国の感染状況を把握したいケース

特定の地域においてどの程度の方が抗体を取得しているか?その抗体は中和能(感染抑制能)がありそうか?その抗体はどの程度持続するか?

といった疑問を解消するために、大規模な疫学研究を行うケースです。この場合において、抗体検査を選ぶことは妥当と考えます。

症状からCOVID-19を疑っている患者群(=有病率が高い)に対してはPCR検査を行うべきですが、ランダムに選んだ大多数の人に受けさせるのは不可能ですし、やめるべきです。こういった疫学研究として現状を把握する上で、抗体検査の実施は有益です。

ワクチンもできていない現状において、個人が抗体検査を受けるべきケースというのはほとんどなく、あくまで国・政府が感染状況把握するための検査と思ったほうがいいでしょう。

今後ワクチンができれば、(風疹ワクチン実施前の風疹抗体検査のように)、ワクチン実施前に抗体の有無をチェックする、などで活用可能かもしれませんね。

まとめ

最近はコロナの波になんとか乗って無駄な検査を売り出そうとする業者も沢山でてきています。もっともなことを書いていそうにみえますが、巧妙に騙しているケースも多いのです。症状がないのであれば、自ら無駄な検査を受ける必要はありません。

医者が行うのはPCR検査(>抗原検査)、政府が調査のため実施するのは抗体検査です。個人が自分の意思で受けた方がいい検査は、現状特にありません。

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