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どうしてお色気番組は無くなったのか。

お色気番組とは、基本的に下ネタ・性的な描写を扱うバラエティに限定した番組のことを指します。ドラマや映画での性的なシーンまたは濡れ場などはバラエティとの放送基準が若干、異なるため含まれないことが多い。

そもそもお色気番組はどのような経緯で始まったのかと言うと戦後、1980年代前半ごろまで男は仕事・女は家庭という時代背景がありました。そのため、男がテレビを見られるのは仕事から帰宅した後の夜の時間帯でしかなかったのです。成人男性がテレビを見る時間が夜間(主に深夜)しかなかったから、テレビ局はそのタイミングを狙って¨お色気¨を放送していたわけです。
深夜 = 男性視聴者が一番テレビを見る時間帯 = お色気を放送 = 視聴率&収益が上がる = テレビ局が儲かる・お色気番組が増えるという構図です。

今では放送できない」という意見がよく挙がるが、まず大前提としてテレビ番組の制作・放送や自主規制といった放送のルールを作っているのはテレビ局です。番組や作品を放送するかどうか、その内容が放送できるかどうか、それを判断するのはテレビ局次第であり、視聴者が決めることではありません。例えば視聴者から見て「この内容は過激すぎる」・「悪影響を与えるのではないか?」と思われていてもテレビ局側が¨この内容は問題ない¨と判断した場合は、放送してしまうといったこともあるわけです。

ケンコバのバコバコテレビ(サンテレビ)

ちなみに現在でも¨お色気番組¨を制作・放送することは可能である。
代表的に「ケンコバのバコバコナイト」・「ビビッと!TV」・「ビーチ9」などが放送されている。しかし、昔に比べると番組自体の数が少なくなっていることは確かである、ではなぜお色気番組が減少したのか?

1.テレビのコンプライアンスは1960年代から存在した

日本初のお色気番組と呼ばれている「11PM」

お色気番組や性的な内容を扱う番組に対しての規制・批判は1960年代頃から存在しています。BPO(放送倫理・番組向上機構)やBRO(放送と人権等権利に関する委員会機構)などの団体が設立される前は、「郵政省(現:総務省)」・「日本民間放送連盟」・「PTA」・「衆議院予算委員会」・「民放各局の放送番組審議会」といった所から番組内容がチェックされたり、批判や抗議も相次いでいました。

当時の代表的な例としていくつかの例が挙げられる。

コント55号の裏番組をぶっとばせ!(日本テレビ)

脱衣野球拳というイメージを定着させた番組「コント55号の裏番組をぶっとばせ!」

1969年から1970年まで放送されていたバラエティ番組ゴールデンタイムの時間帯で放送されていたこともあり、視聴者やPTAなどから「子供が野球拳をマネする」などの苦情が相次ぎ、番組は1年間で終了。

11PM(日本テレビ系列)・独占!男の時間(東京12チャンネル)
1975年、日本共産党に所属していた政治家の宮本顕治が「今のテレビには女性を軽視した番組、ポルノ番組が満ち溢れている」と批判し、お色気番組追放キャンペーンが展開された。

オールナイトフジ(フジテレビ)

1980年代に内閣総理大臣を務めていた中曽根康弘首相

1985年2月の衆議院予算委員会で当時、総理大臣を務めていた中曽根首相が「郵政省が監督権を持っている。民放の諸君とも話しあって、いやが上にも自粛してもらいたい。郵政省もチェックして、警告などしかるべき措置をとるべきだ」と発言。この影響により、放送中だった深夜のお色気番組が終了した。
エロの役割は、1990年代にVHS(アダルトビデオ)、2000年代にDVD、以降はインターネットやスマートフォンに移行していったため、お色気番組への自主規制は1960年代から始まって、1980年代に強化されたと見るのが正確である。

2.銭湯文化がなくなったこと

1960年代から1990年代まで放送されていたテレビドラマ「時間ですよ」

テレビからエロ及び女性の裸が見られなくなったのには意外にも銭湯文化と関係している部分があります。
昭和の頃(終戦後)は、市民の生活衛生施設として都市部を中心に多くの銭湯が現れ、一般庶民には家に風呂が無いのが当り前。銭湯や温泉では見ず知らずの人々あるいは知り合い同士が裸でその空間を共有していた。毎日、銭湯に通いみんなと一緒にお風呂に入る習慣があったので他人の裸を見るということにも抵抗がなかったのです。そういった時代背景がテレビにも反映されており、「裸のシーン」がたくさん放送されていたわけです。

しかし、高度成長期に入り、可処分所得の増加とともに自家風呂普及率が高まりはじめると銭湯は徐々に衰退していきます。家庭風呂普及の影響により、「他人と裸で共有するのは変(もう古い)」という風潮も高まりました。

そうした時代の変化と共に視聴者側にも「公共の電波でむやみに裸を映すのはいかがなものだろうか?」といった見方をされるようになってしまいました。「時間ですよ」や「混浴露天風呂殺人」などのドラマが放送されなくなったのはこのためです。

3.女性出演者の肖像権やプライバシー

1990年代を代表する深夜のお色気番組「ギルガメッシュNIGHT」

女性の場合は、男性芸能人と違って「結婚」・「出産」・「子育て」などの理由によってタレント活動を引退したり、活動休止状態になったりすることがあり、男性に比べて「テレビに出演している時間が短い」・「芸能活動が短命」なことが非常に多いです。女性アイドルグループやガールズバンドがメンバーの脱退・交代・結婚・出産などによって長続きしないこともよくありますよね。

AV女優やグラビアアイドルの場合は、特にその傾向が強く、入れ替わりも激しい業界であるため、お色気番組に出演しているときは現役でも番組が終了(または放送中の場合もある)した頃には引退しているというケースがよくあるんです。引退した人は一般人としての扱いになるため、活動が短命であれば、その分、肖像権・プライバシー権などが守られる時間も早くなっていきます。

契約時または引退時に過去の活動(アダルトやエロ関係)や出演番組を知人・家族・親戚などに知られたくないからNGにしているというパターンの人もいますね。またインターネットなど存在しなかった時代に制作された番組についてはインターネット配信することの同意をとっていないため、インターネット配信するためには改めて当時の出演者などの承諾を得る必要があります。ところが、当時の出演者と連絡をとることができなくなるということも多く,そのような番組については二次利用を行うこともできません。

昭和の頃(1950年代~1980年代)にお色気番組へ出演していた女性たちも「個人情報保護法」や「BPO」などが出来る前の時代から顔出しNG、出演番組の二次利用、ソフト化(当時はVHS)などを拒否していた女性も多く、現在ではネット・SNSなどによって番組の映像・画像が拡散されやすい時代となっているため、知らない間に自分の顔が公表されたりするのを防ぐため、NGを出している出演者がいることも少なくありません。番組の出演者に承諾を得た際、本人の判断によって放送できる作品や番組あるいは使用できる映像範囲が変わってくるという事です。

4.ビデオリサーチ・視聴率が細かく分析できるようになった

テレビ番組およびCMなどの視聴者の支持層 分布 

昔のテレビ番組は翌日~数日にならないと視聴率が分からなかったが、現在の地上波では番組放送中に視聴率が分かります。同時に「この番組を見ている年齢層はどれくらいか?」・「人気の話題はなにか?」・「今、視聴率が高いのはどんな内容なのか」・「番組を見ているのは男性と女性どちらが多いか?」・「どのシーンがもっとも興味を示しているか」といったデータも細かく分析しています。このような細胞化されたデータを見ながら番組の内容を変更したり、必要のないシーンをカットしたり、視聴率を伸ばすため人気タレントを出演させたりすることもあります。

テレビ番組およびCMなどの好感要因リサーチ 

例えば、昔の映画の再放送で「エッチなシーン」や「ヌードが出てくる作品」などがあった場合、放送と同時進行で「今は夏休みでこの時間帯は家族で見てる人が多いからヌードシーンはカットしよう」とか、夜遅い時間の再放送であれば「この時間帯は年齢層の高い視聴者が多いから裸のシーンは隠さずそのまま放送しよう」といった感じで、放送期間・時間帯・タイミング・数年単位(1分・1時間・1ヶ月・1年・2年)・芸術性があるかどうか・露出の必然性があるかどうかといったようにその時々により放送局の判断が変わるのです。
また2015年からはそれまでの世帯視聴率に加えてタイムシフト視聴率(各テレビ番組が録画再生でどれくらい視聴されたかを示す割合)、2020年からは個人視聴率(4才以上の家族全員の中で、誰がどのくらいテレビを視聴したかを示す割合)の測定が始まりました。

5.昔から自主規制があったのになぜお色気番組の放送が継続できたのか?

フジテレビ「殿様のフェロモン」 / 番組に寄せられたクレームを紹介

昔はパソコンや携帯がなくテレビは貴重な情報源でした。
そのため放送事業者側(マスコミ)も「公共の電波を使って情報を伝えなければいけない」という役割や責任があったのです。だからクレーム・批判があっても簡単に番組を終わらせることが出来なかったという事情があります。

テレビ放送の電波送信として有名だった東京タワー 

当時のテレビは¨視聴率¨が需要視されてた時代でした。(※視聴率=収益)
情報源がテレビしかないので、クレームがたくさん来ても、番組の視聴率だけは取れてる(儲かっている)のでテレビ局側として問題なかったのです。

しくじり先生 イジリー岡田の回より

公共の電波お色気視聴率が伸びるスポンサーがたくさん付く収益が増える番組が儲かる類似番組が増えていく(お色気番組)という構図です。

しかし、1990年代後半以降になると時代の変化と共にこのような風潮が徐々に崩れていきます。ビデオデッキの普及、レンタルビデオ店の拡大、インターネットなどの登場によって、深夜番組を好んでいた一部の視聴者(主に男性層)がテレビから離れ、¨お色気番組¨は視聴率を落としていきます。

ビデオデッキに番組を録画すれば番組を観返すことも出来ますし、レンタルビデオ店に行けば、いろんなジャンルの作品、もちろんアダルト作品までレンタルできます。そうなると当然、番組人気が低迷し、視聴率が下がればスポンサーも減っていくので番組は儲からなくなります。そこで民放各局は、「もうお色気番組を制作・放送しても儲からないから辞めてしまおう」と自ら自粛するようになったのです。

6.テレビで裸の放送自体は禁止ではない

テレビ東京「午後のロードショー」でのヌードシーン

地上波放送においては男性、女性に限らず「裸を放送すること」は禁止されておらず、国からも許可が出ています。しかし、性を扱う番組を放送する場合は、
・「視聴者に困惑・嫌悪の感じを抱かせないように注意する
・「たとえ芸術作品でも過度に官能的刺激を与えないように注意する
・「肉体の一部を表現する時は、下品・卑わいの感を与えないように特に注意する
・「出演者の言葉・動作・姿勢・衣装などによって、卑わいな感じを与えないように注意する
など、いくつかの条件があります。こういった自主規制の範囲内で裸を放送している場合は問題にはなりません。

7.テレビ出演のギャラが安かった

ギルガメ出演時代のギャラを暴露する水谷ケイ

テレビの影響力が大きかった昭和の時代は、現在のように気軽にアダルトコンテンツに触れることが出来なかったため、地上波のお色気番組は高視聴率を獲得し、出演者のAV女優さんたちも高いギャラを貰える事例がありました。しかし、1980年代後半以降、ビデオデッキが普及してアダルトビデオに人気が集中するとお色気番組の勢いが衰えていき、テレビで裸になっていたAV女優のギャラも減少していきました。テレビ東京の「ギルガメッシュNIGHT」にレギュラー出演していた水谷ケイによると、番組でヌードを披露していたAV女優のギャラは1人1万円~1万5千円ほどで水谷ケイのようなAV女優ではない女性出演者も同じような金額だったという。つまりアダルトビデオの登場により、テレビで脱ぐよりもAVに出演した方が稼げる時代になったということです。テレビ番組で裸になった場合、1度の出演で数万円程度の収入にしかならないが、アダルトビデオに出演すると1度の撮影で数十万円~数百万円の収入になります。

Vシネマ女優として活躍していた水谷ケイ 90年代のギャラ事情を話す

テレビ出演 = 1万円AV出演 = 100万円だとしたら当然、出演女性たちはAVの方を選択します。テレビ局側としてもお色気番組に出演してくれる女性がいないと番組が成立しません。このような状況からテレビで裸になる女性自体の数が減り、アダルトビデオに出演する女性が増加。地上波のお色気番組からアダルトビデオ全盛時代へとシフトしていきました(女性が高いお金を稼げるコンテンツへ移行した)。

日本のお色気番組は「性をふざけて扱う」・「女性の裸をモノ・道具扱い」するような下品・卑猥・不快な内容が多く、¨不快な感じを与えないように注意する¨など放送基準の項目にも多数引っかかってしまったため、徐々に自粛されていったと見るのが正しい。

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