見出し画像

(連載小説)和巳が"カレシ"で、かすみが"カノジョ" もうひとつの学園祭のミスコン ⑦

「おはようございまーす!。今日は1日どうぞよろしくお願いします。」

いよいよ学園祭当日「もうひとつのミスコン」の本番の日となり、和巳はキャンパス内の指定された出場するファイナリスト用の楽屋を兼ねたメイクルームにやってきた。

見ると同じファイナリストの千穂が既にルームに来ていて、軽く談笑していると「チームかすみ」の副チーム長で本日のサポート役の実憂がやってきた。

そのうち実憂と打ち合わせを兼ねてあれこれ話をしているうちに他のファイナリストのメンバー全員とそれぞれのサポートスタッフも揃ったので、事務局のスタッフから本日の進行スケジュールと諸注意事項等の説明があり、それが済むといよいよ着替えとメイクが始まった。

メイクに関しては参加者としても自分で上手に女の子メイクができる訳でもなかろうと云う事で、事務局の方で女装子用ののメイクは女子向けのとは少しテクニック的に違うこともあってその関係のノウハウに長けたプロのスタッフをスポンサー企業や美容室、また女装サロンなどから出張メイクに来てもらっており、それぞれが選んだ衣装に着替えた後はメイク台に座り、手際よく各自がメイクされていた。

大体どんな衣装を着るかとかまたどんな感じの女子になりたいか、どんな感じのメイクがお好みか等は事前に打ち合わせをしており、それらの情報や希望事項に沿って実際の衣装との兼ね合いを考えながらメイクは進んでいた。

和巳のメイクはたまたまいつもバイト先の着物屋さんでメイクしてぐださっているスタッフさんがお越しだったのでその方にお願いしてメイクをしてもらっていた。

「相変わらずかすみちゃん肌きれいねー。それにいつも着物着たところしか見た事なかったけど、こうやって洋服着てるの見るとこっちも着物の時と変わらず実は本当は元から女の子だったみたいな感じよねー。」

「そ、そうですか・・・・・この洋服似合ってますか?・・・・・よかった・・・・・。」

などとお互い顔見知りと云う事もあってコンテスト本番前ではあるけれど割とリラックスした雰囲気の中でメイクをしてもらい、「じゃあいつものように”女の子になるスプレー”を掛けちゃいましょうね!。えいっ!。」とそういつものメイクさんに言われ、仕上げにいつもお店で使うフローラルの香りのデオドラントスプレーを掛けてもらった。

「あん・・・・・これ掛けてもらうと本当に女の子になった気分になっちゃう・・・・・。」

とスプレーを掛けられた和巳はその瞬間外見も心も女の子のかすみになり、周りを見ると他のファイナリストたちのメイクも終了しているようで、そこにはそれぞれが選んできた衣装に身を包んだ5人の「年頃の女子大生」がいた。

どのファイナリストもプロのメイクさんの技のおかげでパス度の高い一見しただけではこれが実は男子だとは分からないハイレベルの女子に仕上がっており、それぞれ恥ずかしそうにしていたり、また鏡に映った自分を見てきょとんとしたりうっとりしたりしている。

そして細かいメイクやウィッグの調整・手直しをしているうちに時間となったようでファイナリストたちは事務局のスタッフに促され、控室からセミステージに移動し、舞台の袖でステージの登場順に整列して出番を待っていた。

すると「それでは大変お待たせい致しました!。これより栄えある第1回渋谷学院大学”もうひとつのミスコンテスト”決勝大会を開催させていただきます!。まずは第1次ウエブ審査を通過してこの本選に進んで参りました5名のファイナリストをご紹介させて頂きます!。皆さんどうぞステージにご注目下さい。」とMC役の司会者が開会を告げ、エントリー番号順に女装したファイナリストがランウェイを歩き始めた。

まず最初は流行りの人気アイドルグループがステージ衣装としてよく着ていそうな中高の制服をアレンジした衣装の千穂が登場し、続いて有名女子校風のデザインの清楚なセーラー服を着た里香がランウェイへと進む。

「わーまるでアイドルみたいー!。」「こっちの子はセーラー服だって!。まるで女子高生みたいでよく似合ってるー!。」

などと最初からステージに出てきたファイナリストの女装子を見て会場は大いに盛り上がった。

続いて涼子が白のレースの七分袖のフリルブラウスにピンク色のロングのプリーツスカートを合わせた一見控えめながら涼子の持つ清潔感溢れる清楚さと女の子としてのかわいらしさを充分引き出して表現している衣装でステージに現れると「えーかわいいー!。この子が実は男の子だなんて信じられないー!。」等と驚きとそのかわいらしさで会場の好意的な評判を得てランウェイを歩いていた。

そして予選2位の怜奈が舞台の袖からステージ上に進むと会場から先程までの3名よりもっと大きなどよめきと歓声が聞こえてきた。

「わーきれいー!!。」「背も高くってスタイルもよくてこの洋服とっても似合ってるー!。」

そんな大きな歓声に包まれてステージ上に登場した怜奈の衣装は衿元にビーズのヒジューをあしらった紺色のニットに同じ色のカーデを合わせ、下は最近人気の白の膝丈のタイトスカートと云うとても上品で大人びた感じのきれい目の衣装を着て出てきた。

そしてウエブ審査の時やSNS上で写真をアップする時にいつも気にしていたコンサバ風のファッションでまとめた怜奈は歓声の中を「ほらどう?、なかなかいい感じの反応だわ。もっとみんな私を見て。他の子と違って大人っぽくって上品な私を。」みたいな自信たっぷりの表情をしながら高いヒールを難なく履いて颯爽とランウェイを歩いている。

そして「それでは最後となりますエントリーナンバー5番、豊岡かすみさんの登場です!。」と司会者が言いかすみの出番になった。緊張するし、他のみんなのように自分にも会場からは好意的な反応をしていただけるだろうかと不安に思いながら、ここまで来たら今日は当初思っていた通りこのミスコンを楽しむだけだと女装したかすみは若干おどおどしながらステージ上へと進んだ。

すると「えー!!、やっぱりかわいいー!!。」「ネットで見てもめっちゃかわいかったけど実物はもっとかわいいー!!。」「この子本当は女の子じゃないのー。」などと今日これまでで一番の歓声が会場からは上がった。

今日のかすみの衣装はベージュの地色に小花柄をプリントしたワンピースで、チームかすみのみんなで相談して決めたこの衣装はシンプルだしどちらかと云えばオーソドックスだけどとてもかわいらしいし、二十歳前後の女の子らしさと且つかすみの持つ柔らかい女の子らしさも強調されていてとても似合っていた。

「わーみんなわたしの事いい感じで見てくれててよかったー。」とややホッとした感じでランウェイで小さく手を振って歩きながら会場を見るとまるでアイドルのコンサートみたいにうちわに飾りをつけて「かすみ LOVE」とか「かすみ かわいい」等と書かれたお手製のグッズを手に持っている人が結構多いのに気づいた。

もちろん「怜奈」と書かれた同じようなうちわやお手製のグッズを持っている人もいるがそちらは男性が多く、かすみを応援してくれている人は男女半々と云った感じなのと「かすみ派」の方が他のファイナリストと比べてやや女性の割合が多いように見受けられた。

かすみを応援してくれている人の中にはゼミが同じなので一緒にいる事が多い友人の難波 鉄郎(なんば てつろう)が同じゼミをはじめ、色んなところで声を掛けて人を集め、かすみの応援に駆けつけてくれていた。

鉄郎もどちらかと言えば和巳と同じ地味で目立たない系男子だったが、彼は彼なりに仲の良い和巳が女装するとこんなに映える女の子になって且つイキイキとしているのを見て積極的に友人として女の子になった「かすみ」を応援しようと決めてこうして会場を訪れていた。

そして周りを見ると同じようにうちわや応援グッズを持ってかすみを応援している人は結構女性が多く、怜奈を応援している人は大半が男性なのとは対照的だった。

もっとも会場で怜奈を応援している人は怜奈の取り巻きの男子とその取り巻きに頼まれて動員されている男子が結構数多くいるようで、それに比べてかすみを応援している人は男女問わず専用サイトを見たりこの前の女装して登校した際に実物を見てかすみのファンになった人が多いようで、かすみも鉄郎も知らない顔が多かった。

「”ファンになりました、本選では会場に是非応援に行きます!”とSNSのコメント欄に書かれてたのは嘘じゃなかったのね・・・・・。でもうれしい・・・・・。」そうかすみは思いながらランウェイを歩き、またうれしさからか少し笑みがこぼれ、それを見た「ファン」から「かすみちゃん笑顔もかわいいよー。すてきー!。」と歓声が上がっていた。

こうしてファイナリスト5名の「お披露目」が終わって壇上に横一列で整列すると改めて会場からは「かわいいー!。」「これが本当は男子?。」などと改めてより一層の歓声が上がる。

そしてお披露目を終えたファイナリストはステージ上に並べられた椅子に座り、ここからは各自へのインタビューを含めたトークコーナーとなる。

もちろんトークの内容も審査の点数に関係してくると聞いていたのでかすみも予めチームかすみのみんなと「想定問答集」を作って練習をしたのだった。

何しろかすみは元々口下手で人前で話すのが苦手なのもあってこのトークも少し緊張していたが、司会者が壇上に並んでいる女装した5人のファイナリストにトーク形式で質問を始めた。

聞いていると「共通の質問」と「各自それぞれ用の質問」に分かれているようだが、幸いな事にどちらも予め想定問答集で練習した質問が多くてその分かすみは少し緊張がほぐれていた。

そのうちかすみの番になり「それでは続いてエントリー番号5番、豊岡かすみさんに色々と聞いてみたいと思います!。まずは改めて1次ウエブ審査1位通過おめでとうございます!。いやーそれにしても今日はとってもかわいい女の子になってますねー。」と司会者が話を振ってくる。

「ありがとうございます。ウエブ審査では多くの方にわたしのページを見ていただきまして、また多数わたしに投票してくださって本当にうれしかったです。」

と練習でもチームのみんなに言われていたようになるべく謙虚に振る舞いながら答えていると次の質問が寄せられる。

「ところで豊岡さんはこのコンテストにどうして参加しようと思われたのですか?。」

「はい、ある人に勧められ、聞くと初めての試みで面白そうな企画だと思ったのとそれと賞品も豪華でしたのでエントリーすることにしました。」

こんな感じで質問トークを司会者としていると「かすみどこどこ?。今トーク中か?。」と急ぎ足で翌日に控えた本家ミスコンのリハーサルを終えたあずさや美咲、純菜たちチームかすみの残りのメンバーが会場にやってきた。

「今ちょうどトークしてるとこ。ここまで練習の甲斐あってお披露目のランウェイもトークもまずまず出来てるみたい。」と実憂が説明すると、他のメンバーもとりあえず安心した感じで席に座ってステージ上を見ていてその間もステージ上ではかすみの質問トークが続いていた。

「1次審査でも、また今日こうしてステージに上がられての会場の反響を見させてもらっても豊岡さんの人気はすごいものがあると感じるのですが、ずばりグランプリ受賞の自信はありますか?。」

「いえ・・・・・そんな自信だなんて・・・・・他のファイナリストさんたち皆さんとってもお綺麗だったりかわいいんで、わたしはまだまだ勉強の余地がありますのと、今日は自分としてはまずはこのコンテストを楽しもうと云う気持ちで来させてもらってますからグランプリとかそこまで気が回ってないんです・・・・・。」

「そうなんですね。ではもう一つ、ずばり他のファイナリストの中でライバルは誰ですか?。」

「そんなライバルだなんて滅相もないですし、それに本選出場が決まってから何度か事前の説明会や撮影会などでお会いして集まる機会がある中でお互いがとても仲のいいお友達になる事ができた事もあって、ライバルとかそう云う気持ちはわたしにはちょっとないですかね。」

こんな感じで想定問答集にあった質問が多かったので、緊張はしていたがなんとか練習通りかすみは質問に答える事ができていた。

また緊張はしていたがそれは質問に対して口下手なかすみが上手く答えられるかどうかと云うよりか、女装してこんなにも大勢の人の前に出る事での恥ずかしさからのもので、その恥ずかしいと云う気持ちの初々しさは会場で見ている人や審査員に好印象を与えていた。

「かすみって割とトークよくできてるじゃん。練習の甲斐あったね。」「わたしもそう思う。毎日のようにかすみの家で練習したもんね。」

などとチームのメンバーも見ていてなんとか口下手なかすみがトークコーナーをこなした事に安堵し、また初々しくて謙虚な感じが今日のオーソドックスでかわいらしい小花柄のワンピースの衣装と相まってよりポイントは高いとメンバーたちは思っていた。

そして本選の前半部分は終了し、後半のウエディングドレスを着ての審査に移るのでかすみをはじめファイナリストたちは一旦ステージから控室へと席を外し、「ではファイナリストたちがドレスに着替えるこの時間を利用しましてみなさんから大変リクエストの多かったファイナリストの振袖姿を動画ではありますが披露させていただきます。ステージの大画面をどうぞご注目下さい!。」と司会者が言うのに合わせて先日撮影した振袖姿の動画が流れ始める。

「わあーきれいー!!。」「どの子も振袖かわいいー!、似合ってるー!!。」「ほんと女の子みたいだしこのまま成人式に出れそうー!。」

と画像が流れると会場からはより一層大きな歓声が男女問わず上がり、琴の演奏や和風の音楽に合わせて振袖を着た女装子たちがポーズを決めたり舞い踊るように歩く姿を優雅な和風の趣に編集されたその動画は本当にこれが男子?と思ってしまうくらい美しく、そしてどこから見てもこれは女子そのものと云った感じで会場の誰もがこの動画に見入っていた。

その頃かすみたちは控室でウエディングドレスへの着替えに余念がなかった。

かすみは今のメイクを洋装の花嫁風のものに微調整し、パニエでスカート部分を膨らませたプリンセスラインの白のウエディングドレスに袖を通し、編み上げて着るスタイルのものだったのでスタッフさんに後ろはお願いしてリボンのように紐を結ぶとドレスの着付けが完了した。

そしてウエディングドレス用のヒールのやや高い靴に履き替えるとスタッフさんとサポート役の実憂に「わあー!とってもきれいになったねー!。せっかくだから鏡で花嫁さんになった自分を見て見ようか?。」と促され、かすみは姿見の前にドレスのトレーンを引きずりながらしずしずと向かった。

「えっ・・・・・これがわたし・・・・・。」

そこには白のプリンセスドレスに身を包んだ清楚な感じの花嫁さんが立っていて、かすみはどちらかと云うと撫で肩だったのであえてオフショルダーのドレスを選んだのだがそれが華奢な体型と相まってとてもよく似合っている。

「わたし・・・・・まるでお姫様になっちゃったみたい・・・・・。」

かすみは自分のウエディングドレス姿をきょとんとしながら見てそう思ったのだが、びっくりしているのもあって声が出ない。

そして横ではマーメイドラインの白のウエディングドレスを着た怜奈が姿見で自分のウエディングドレス姿の出来をチェックしていた。

「怜奈さんきれい・・・・・。背も高いからすらっとしててそのドレスとっても似合ってる・・・・・さすがだね・・・・・。」

そう思いながらかすみが怜奈の方を見ているとかすみの視線に気づいた怜奈はサポート役でもある麗美と一緒にドヤ顔で堂々と最終チェックをしていた。

「どう?ドレスのわたし?。成人式ではあんたに人気をかっさらわれたし、ウエブ審査では2位だったけど本選ではわたしが優勝するわ。地味で冴えないオタク系のあんたになんか負けるもんですか。」と口には出さないけど心の中で怜奈はかすみに対して思っていた。

それは麗美も同じみたいで「あらー怜奈きれいねー。わたしの去年のミスコンの時と同じくらいドレスが似合っててすてきね!。」と言いながら怜奈に「いい?東都大ミスコングランプリのカレシとして絶対に成人式の時のあの想いを晴らして今日は優勝しましょうね。特にあのかすみとあずさにだけは絶対負けちゃダメよ。」と檄を飛ばしていて、それを聞いた怜奈も「もちろんよ!。わたしかすみとあずさにだけは負けたくないもん。それに今日この中で一番きれいなのはわたしなんだからね。」と言葉に力が入っていた。

(つづく)









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?