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ひらがなエッセイ #1 【あ】

    あ、安部公房。

    砂に飲み込まれてその下の集落で暮らすとか、魚が空を飛んでいるだとか、笑う月に追いかけられる夢だとか、登場人物に大体名前が無いだとか、よくわからない世界観の作品ばかり書いた人。ただ、その世界の独特な空気は煙草やアルコールに似た依存性があるもので、何だかよくわからないままに手に取ったが最後、ふとした時にその空気感を求める日々が続き、その頻度は次第に増え、やがてやめられなくなってしまう。この人が生成した言葉にはそう言った効能がある。読まなくていい、読まない方がいい、なんて、みんなには内緒にして布団に潜り込んで、コソコソと楽しむ背徳感すら覚えるぐらいに。

    「孤独とは、幻を求めて満たされない、渇きのことなのである」
(『砂の女』より引用)

    と、安部公房は書いた。幻を求めて満たされない、という表現は芸術を志す者の心に宿る炎のような物で、それは私にとっては「創作意欲」であり、陳腐な言い方をすれば「モチベーション」であったりもしたのだが、彼はそれを「孤独」と言い、「渇き」と表現した。

    あっ、と声に出たのかどうかは覚えてないが、そんな感覚にさせられた事を覚えている。物事を絶対的に捉え、自分の世界の見方によって世界は形成されている、だから考え方さえ変えればこの世界は美しくもあるし、汚くもあるんだ、なんて、物事を単純に考えていた私に、考え方はどうあれ、全ての物事は相対的である、いや相対的に表現すればこそ、美しくある。と、教えられたような気がした、今でも手が空いた時にふと読み返してみたくなる。誰かが私を生成する際に調味料として大さじ二杯程を必要とする程、感銘を受けた作家だ。

「罰がなければ、逃げるたのしみもない」
(『砂の女』より引用)

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