見出し画像

【中国大都市見聞録2】中国大都市の空間構成をモデル化する

中国大都市に共通する特徴、トレンド、構成要素、階層性等をまとめててモデル化してみる。特に長沙・武漢・合肥・南京をベースにしている。香港は中国都市をアレンジした独特な形態を持っていて、深センは改革開放以前の街並みを持たない点で特殊事例だが、逆に中国各都市の改革開放以後の開発は深センがモデルになっている。広州・上海はともにベースのモデルに近いが、広州は経済規模が大きいためもう1つスケールの大きな単位が必要だと感じる。また上海は中心街周辺の住商混在エリアで旧租界の歴史性が色濃いためにより低層(3-4階建て)が多く、また経済規模の大きさから商業に特化したエリアや新しいCBDが広大だ。当然ながら、前述の4都市の間でも、各都市の内部でも形態は多様だが、あえて共通した要素を挙げてみる。

1. 共通する特徴

①構成要素が巨大

道路が広い、ブロック単位が大きい、建物が高い、人が多い。今回訪問した中で最も小さい都市である合肥や長沙でも、大阪と名古屋の中間くらいのサイズがある。況や深セン・広州・上海をや、だ。東京は郊外を挟んで横浜・八王子/立川・さいたま・千葉といった各都市の集合体であって、東京都市圏全体から1つの中心に向かって人が流れ込んでくるわけではないし、基本的には中層~低層のエリアが多い。一方中国大都市は基本的に高層・高密で、中心部に人がなだれ込んでくるので、東京都市圏よりも全体の人口規模が小さくても、CBDや中心商業エリアはより巨大で、より人であふれかえっている。初めて東京を田舎だと思った。

②歩きづらい

政策決定に携わる階層はみんな車で移動しているためか、都市政策に歩きやすさという視点が全くない。幹線道路は広幅員で、交差点以外の横断歩道は皆無だし、交差点でさえ横断歩道がないことが多々ある。横断歩道はあっても車に最適化されており渡れる時間は短く、片側3車線以上の道路でも信号機がないことも多い。幹線道路の交差点は立体化されていて、ちょっとしたジャンクションになっている。歩行者が地下通路を通るタイプの交差点も多い。
そして何より原付が多い。レーンが分離されておらず、ほとんど歩道を走っているので、ちょっと目をそらすと前からすごいスピードで迫ってくるし、不規則な動きをすると後ろから来た原付に追突されそうになる。どんな細い道路でどんなに歩行者がいようがお構いなしに猛スピードで走ってくる。

③ブロックの閉鎖性

大きなブロックが単位になっていて、ブロック内部の団地に入る道は少なく、内部の路地を通ってブロックの反対側に抜けることはほとんどできない。内部に複数の団地があっても、団地同士を行き来できることは稀である。閉鎖性が高い分、ブロックの中は安全で、強固なコミュニティが生まれている印象がある。

2. トレンド

①急速な地下鉄建設

2010年代から異常なスピードで地下鉄網が形成されている。大げさではなく毎年1路線ペースで増えていく都市もある。車とバスを基本としていた都市内移動が急速に置き換えられている。
各都市で同時期に建設されているため、どの都市でも地下鉄は似通っている。例えば白を基調にした車内の配色、南北線のような完全ホームドア、島形のホーム、ホーム上のデザイン、乗車側と降車側での改札の分離、QRコードによる改札、単一の改札エリアから4方面の出口につながる構成等だ。日本なら地下鉄の駅を見ればどの都市か概ね分かるが、中国では全く見分けがつかない。

②高層住宅群+ショッピングモール+広幅員街路での郊外開発

大都市郊外は上の3点セットで実に均一に作られている。巨大なブロック内に同じデザインの高層住宅群が建ち並び、別のブロックでは少し色の違う高層住宅群が同じように建ち並ぶ。駅のとなりにはショッピングモールがある。現在進行形で建設中の高層住宅や更地もたくさん見られる。

上記の地下鉄建設と郊外開発は、職住分離をはじめとするライフスタイルの近代化と密接に結びついており、そのプロセスこそが経済成長のエンジンとなっている。おそらく20年前の中国の都市では、路地で自営業を営み、団地周辺の商店で買い物するなど、徒歩圏で生活が完結するようなライフスタイルが主流だった。しかし改革開放の波が本格的に伝播すると、CBD建設・郊外の高層住宅群開発・中心部の中低層住商混在エリアの再開発が進んだ。不動産市場で流通する住宅を買い、ショッピングモールで日用品を買い、CBDに働きに行く、つまりマーケットに内包されたライフスタイルが普及していった。中国大都市の成長とはすなわち、農村や都市内部でマーケットから自律的に生活していた人々を、マーケット内部に取り込んでいくプロセスであり、それが経済成長のエンジンになっている。

3. 基本的な構成要素

最も基本的な構成要素は1階に個人商店が入り2階以上が住宅として使われている住商混在の建物群である。いくつかタイプに分かれる。

道路沿い型
中規模の道路に面して商店が並ぶ。中層・高層いずれのパターンもある。

ブロック内部団地型
道路沿い型とセットでブロックを構成する。道路に面して引き込み口が1-2か所あり、そこから内側に入ると中層の住宅群(団地)がある。団地内にも商店はあるが少ない。1つの大きなブロック内に2-3セット団地があるイメージ。

路地型
ブロック内部が低層住宅+路地で構成される。長沙、広州、上海で見られた。一番昔ながらの中国の都市に近いモデルだと思われる。

高層住宅群型
巨大なブロックの内側に高層マンションが10棟ほど建ち並び、それを1-3階建ての個人商店か柵が囲んでいる。郊外ではそのようなブロックが広幅員道路沿いに続いている。中心部では再開発地域としてモザイク状に分布し、特に駅周辺に多い。

4. 街路の階層性

大通り
片側3-5車線、沿道は高層のオフィスか中高層の住商混在。

中規模の道路
片側1-2車線、中層の住商混在。

裏通り/団地への引き込み道路
一方通行 or 車を排除、2-3階建ての住商混在で一部中層エリアもある。

路地やクローズドな中庭空間
改革開放以前からのエリアでの基本的な生活空間。通り抜けはできず、行き止まりになっていることが多い。

特に広州など大規模な都市ではさらにもう1つ上のスケールの幹線道路が加わる印象だった。

5. 都市スケールの構成要素

<中心部>

・歩行者天国化された歴史的な街並み
・大通り沿いにショッピングモールが並ぶ商業の中心
・中層(5-10階)の住商混在エリア
道路沿い型+ブロック内部団地型が典型だが、路地型も見られる。

<近郊部>

・中心部から少し離れた場所にあるCBD(中心業務地区)
所謂丸の内のようなオフィス街は、改革開放以後に行政が主導するプロジェクトとして更地から作られているため、中心部から若干離れたところにある。広州の天河区、深センの福田区や宝山区、合肥の天鵝湖周辺、上海の浦東地区などが該当する。
・駅周辺のショッピングモール
・住商混在エリア
道路沿い型+ブロック内部団地型と高層住宅群型がモザイク状になったイメージ。駅付近は高層住宅群型が多い印象。

<郊外部>

駅周辺の高層住宅群+ショッピングモール+広幅員街路での郊外開発

6. 都市ごとの差異

なんとなくの都市ごとの差異を整理してみた。今後各都市のレポートをまとめる中で変化もあると思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?