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経営者の強みがエグゼクティブ・ディレイラーになってしまうとき

  あるとき弟子が孔子に「どちらが賢明ですか」と同門の二人を比較して尋ねた。孔子は「Aは度が過ぎているし、Bはやや不足ぎみだ」と答えると、弟子は「A氏の方が優れているのですね」と重ねて尋ねた。これに対する孔子の答えが、「過ぎたるは、なお及ばざるが如し」だ。この返事には、物事は行き過ぎよりも慎んだ方がよいという暗示が込められている。

 経営者の能力発揮も同じようなことが言える。実力主義の組織では、周囲が納得するような実績がないと経営幹部まで上り詰められない。だが、あまりにも優秀過ぎると周りから足を引っ張られたり、部下が付いてこれず思うような評価が得られなくなることもある。そして、それはこのような外的要因からだけでなく、本人の内的要因が悪さすることもある。

 経営者の選抜基準としてコンピテンシーというものがあるが、もう一つ大切なのがエグゼクティブ・ディレイラーだ。エグゼクティブ・ディレイラーとは、これを発揮してしまうと経営者としてのレイルから脱線してしまうリスクのある特質で、例えば、権限を使って部下を軍門に下らせようとうする「権威主義」や、自分の私利私欲を満たすために権謀術数を働かせようとする「政治的振る舞い」などがある。そして、これらの特質は実は優秀な経営者の強みの裏返しの場合も多い。求心力に長ける人は、「権威主義」なり易いし、ネットワーキングが得意な人は、政治的にその能力を使ってしまう。まさに、「過ぎたるは~」だ。
 
 あらゆる組織のレイヤーで最も自己分析が必要なのは経営者かもしれない。権力が手に入れば、自分の強みをいろいろな場面で使いたくなる誘惑にかられる。それだけに、強みをしっかりと意識下に置き、誠実な価値観の下でそれらをコントロールしなくてはいけない。
 レイルから外れてしまった経営者の振る舞いを見て改めて思うところである。