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OJTトレーナーの「振り返り方」 第4話

OJTは単なるコミュニケーションではなく、その目的はあくまで育成であるが故に、トレーナーは様々なジレンマに向き合うことになります。本コラムでは新人トレーナーが葛藤に遭遇し、乗り越え、成長していく一年間のストーリーとしてOJTに対するヒントをまとめました。<目次>

ウィル・シードがOJTトレーナーに研修を行う中、ご質問が多い項目として「振り返る」があります。昨今では仕事内容や職場環境に多様性が生じ、新入社員の仕事も不確実性が増してます。新入社員であっても、自ら考えて経験学習サイクルを回せることが求められるようになりました。本コラムを通じて、新入社員の成長を促す「振り返り方」について考えていきたいと思います。

4ヶ月目:振り返りのフレームワーク

【登場人物】
中田稔(25):総合電機メーカーの商品企画部に勤務。入社4年目。佑介のOJTトレーナー
佐藤佑介(24):商品企画部に配属された新入社員。大学院卒

【ストーリー】
佑介が入社して4か月。太陽がまぶしい季節になった。夏休みを取る人もだんだん増えてきている。

先日、稔はBARのママ・マスコから効果的な問いを投げるという話を聞き、「あなたは、どう変わりましたか?」という質問を見た時に、自分の本当の気持ちに気づいた。

(自分を変えたい。もっと自信を持ちたい…)

そこから、稔の行動は変わった。

稔は「リフレクション」「内省」「振り返り」などの題名がついた本を探し、数冊購入した。読みながら大事だと思うところに赤線を引き、付箋を貼りながら、何度も何度も繰り返し読んだ。

(振り返りをする方法って、いろいろあるんだな…)

稔は新たな学びに手ごたえを感じていた。

この学びを活かすために、まずは自分で実践しようと、毎日OJTに関する「1行日記」を書くことにした。振り返りの問いは、「今日、OJTで学んだこと、気づいたことは?」だ。

早速ノートに気づいたことを書き始めると、稔の手が止まった。

(そういえば、ここ数日、佐藤さんからの報連相がないな…)

稔は確認することにした。

翌日――。

出社して稔がエレベーターに乗ると、佑介が息を切らして入ってきた。

佑介「中田さん、おはようございます」
「おはよう」

他の社員がエレベーターを降り、2人になったタイミングで稔は佑介に声をかけた。

「そういえば、ここ数日、仕事の報連相がないよね」
佑介「…」
「報連相は、社会人としての基本だよ。今日は振り返りをする日だから、その時いろいろ話そうか」
佑介「はい…」

佑介は少し気まずそうに下を向き、しばらく沈黙の時間が流れた。

夕方、振り返りの時間になった。

稔は、BARマスコのママに「反省部屋に入れられているよう」と言われたことを受け、佑介との振り返りの方法を変えることにした。

「これから振り返りの時間を始めます。できれば20分。長くても30分で終わります。これまでは改善点や反省点に焦点を当てて話してきたのですが、今日から振り返りのやり方を変えたいと思います」

稔が話すと、佑介がうなずいた。

佑介「実は、僕も反省を中心とした振り返りのやり方を変えたいと思っていました」

(そうだったのか…)

稔は佑介の言葉に軽くショックを受けた。

「じゃあ、お互いに変えたいということで。佐藤さん、KPT法って知ってるかな?」
佑介「いいえ、聞いたことないです」
「KPT法は、Keep、Problem、Tryの頭文字を取ったもので、『続けること』『改善すること』『次にすること』という視点で振り返るフレームワーク。ポイントは、Keepから話し始めること。Problemに目が行きがちなんだけど、Keepで良かったところや続けることを話すことで、しっかり今を振り返ることができ、次に行動する時に役立つ、というものです」
佑介「なるほど。面白いですね」

稔はホワイトボードにKeep、Problem、Tryと書き、佑介に付箋紙を渡した。

次々と付箋に書き込む佑介の姿を見て、稔は振り返りの手ごたえを感じていた。

<終>

5ヶ月目に続く

【稔のOJTメモ】
・ 「1行日記」で毎日のOJTを振り返る
・ KPT法で「良いところ」にも目を向ける


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