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OJTトレーナーの「振り返り方」 第1話

OJTは単なるコミュニケーションではなく、その目的はあくまで育成であるが故に、トレーナーは様々なジレンマに向き合うことになります。本コラムでは新人トレーナーが葛藤に遭遇し、乗り越え、成長していく一年間のストーリーとしてOJTに対するヒントをまとめました。<目次>

ウィル・シードがOJTトレーナーに研修を行う中、ご質問が多い項目として「振り返る」があります。昨今では仕事内容や職場環境に多様性が生じ、新入社員の仕事も不確実性が増してます。新入社員であっても、自ら考えて経験学習サイクルを回せることが求められるようになりました。本コラムを通じて、新入社員の成長を促す「振り返り方」について考えていきたいと思います。

1ヶ月目:ミーティングをする時には

【登場人物】
中田稔(25):総合電機メーカーの商品企画部に勤務。入社4年目。佑介のOJTトレーナー
佐藤佑介(24):商品企画部に配属された新入社員。大学院卒
阿部和美(37):商品企画部の課長。稔、佑介の上司

【ストーリー】

先輩A「来週から大学院を卒業した子がうちの部に来るらしいよ」
先輩B「えっ? 院卒? 商品開発じゃなくて、商品企画に?」
先輩A「そうみたい。すごく優秀みたいだよ」
「はあ…」

ミーティングスペースで話す先輩たちの話を聞きながら、稔はため息をついた。大学を卒業し、総合電機メーカーの商品企画部に勤めて丸3年。4月から4年目になった。

稔は真面目なのが取り柄だが、全体像を見ずに目の前の仕事に没頭してしまう傾向があり、どこか自分に自信が持てないでいる。

来週、男性の新入社員が来る予定だが、稔はその彼のOJTトレーナーに任命された。

(なぜ、僕がトレーナーに…)

稔はランチへ行こうと席を立つと、阿部課長から声をかけられた。

阿部課長「中田さん、育成計画についてたたき台、作った?」
「はい、作ってみたのですが、うまくまとまらなくて…。少し相談させていただけますか?」 
阿部課長「じゃあ、ランチしながら話そうか?」
「ありがとうございます。お願いします」

稔はマンゴカレーを注文し、席に着いた。

「あの…来週配属される佐藤くんの育成計画の件でちょっとお聞きしたいのですが、彼は院卒で電気工学を学んでいたんですよね? なぜ、商品開発じゃなくて、商品企画なんですか?」
阿部課長「中田さんも知っての通り、商品企画はお客様のライフスタイルから要望や課題を洗い出して、一歩先のくらしを提案するものですよね? 新たな商品を生み出すためには、設計やマーケティングとの連携が必要なの。その連携を強化するために、まずは技術系の人に商品企画に入ってもらって、1年間学んでもらおうという話に管理職の間ではなっています」
「そういうことですか。だとしたら、どんな育成目標を設定すれば良いのでしょうか?」
阿部課長「中田さんは、どう思う?」
「そうですね…。まずは、やはりマーケティングの基礎を学ぶことが大事だと思います。それから、設計やマーケ、営業に納得してもらえるようなプレゼン力が必要だと思うのですが」
阿部課長「そうね、それも大事よね。まず佐藤さんには、企画立案から商品化までの一連の流れを体験してもらいたいと思っています。1年間で5つ位は企画のアイデアを出してもらって。そのためにも、商品企画に必要なこと、例えば心理学や社会学、経済学も学んでもらえたらと考えています。技術系の人は知識やスキルに偏ってしまう傾向があるので、人の心の動きにアンテナがたつと良いな…と。目標を立てるときは、GROWモデルも入れて話しましょう」
「GROWモデルですね。承知しました」

稔はほっとして、席を立った。

翌週――。

新人研修を終えた佐藤佑介が商品企画部へやってきた。

「佐藤さん、こちらOJTトレーナーの中田さんです」
佑介「はじめまして、佐藤です。よろしくお願いします」
「はじめまして、中田です。今日の午後2時頃から、育成計画について話したいのですが、都合はいかがですか?」
佑介「はい、大丈夫です」

稔は開始10分前に会議室へ行き、心の準備をした。佑介は時間ピッタリに部屋へ入ってきた。

「佐藤さん、これから育成計画について話をしていきます。阿部課長と一緒にたたき台を作りました。それを説明していきます」
佑介「はい」
「まずは企画から商品化までの一連の流れについて体験してもらいます。私たち商品企画は、ユーザーの声を聞きながら市場のリサーチをして、その商品のコンセプトを作り、企画を立てます。その上で企画会議にかけるのですが、会議には、商品企画はもちろん、設計やマーケティングの管理職も参加します。企画がOKであれば、設計が始まり、試作をし、生産という流れになります」

稔はホワイトボードにフローチャートを描き、商品企画のところに赤丸をつけた。

「佐藤さんにはまず、営業同行やエンドユーザーの訪問を通じて、商品の要望や課題をヒアリングしてもらえたらと思っています。半年後の中間目標としては、そうした情報収集をしっかり行えるようになっていること、設計やマーケティング、営業の担当者と連携し合って信頼関係を作る、というのはどうでしょうか? 1年後の目標としては、商品コンセプトの立案ができ、それをもとに説得力のあるプレゼンができるようになる、と考えています。どうでしょうか?」
佑介「…」
「目標を立てる時には、GROWモデルを使います。Goal、Reality、Option、Willの頭文字をとったものですが、まずは目標の明確化をし、現状を把握、選択肢や行動案を考えて、意志を確認するということをします」
佑介「…」
「商品企画の仕事をするには、マーケティングはもちろんですが、心理学、社会学、経済学も学んでもらえたらと思います。というのは…」
佑介「中田さん、ちょっと止めて良いですか? 1つ質問なんですが、目標は自分で考えるのではなくて、上から与えられるものなんですか?」
「いえいえ。今、私が話したのはたたき台で、ここから一緒に考えていければと思っています」
佑介「そうですか。どれも数値には落としにくい目標ですね。定量的な数値目標がない場合、評価基準どうなるんですか?」
「…」
佑介「それから、今話しているのは、商品企画の業務内容、私自身の業務目標、学習目標ということで良いですか? ミーティングをする時には、目的やゴールから話してもらえたらありがたいんですけど…」

佑介が育成計画を冷ややかに眺めていたことを、稔はようやく気づいた。

<終>

2ヶ月目に続く

【稔のOJTメモ】
 ミーティングをする時には、目的やゴールを明確にする


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