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小説・「塔とパイン」 #17

街のシンボルの教会と教会の前にたたずむ簡易的なストロベリーハウスの間を抜けて、住宅街を歩く。ここら辺一帯は、比較的新しい建物が多い。伝え聞くところによると、戦争のあとに建てられたものが多いからだそうだ。


それでも、十数年は経っている。ヨーロッパの建物は、百年前に建てられた家にそのまま住んでいるというのもあるそうだ。


夕闇が近づく時間帯に差し掛かり、街灯にも火がともった。この街灯も電気が使われる前、はるか昔から使われていたものだが、それをそのまま流用して「新たな街灯」として、毎夜、光を放っている。


スーパーで購入した大量の品物を自宅に運ぼうとしている人、愛犬とゆっくり散歩している人、ランニングしている人、この時間から酒を飲んで大きな声を出している人、咥えタバコで歩いている人、愛を語りあっている人、様々な人が、この閑静な住宅街に佇んでいる。


この光景は、ドイツであろうが、日本であろうが、変わらない。変わらない光景を目にすると、果たして自分はなんなんだろう?って思うこともある。


それも一瞬、頭をよぎるだけだ。


僕のアパートは最寄りの路面電車の停留所から、歩いて約10分のところにある。住宅街の中にある平均的なアパートだ。ここの大家さんはすごく気さくな良い人で、自身も同じアパートに住んでいる。年齢は一回りくらい上だそうだ。

大家さんが言うには、生まれた時からこの街に住んでいて、昔はもうちょっと活気があったそうだ。現在は人の数は増えたけども、昔のような活気はなく、どちらかというと「閑静」が似合う地区になった。


大家さんは「昔は、バーやレストランがもっとたくさんあったんだけど、今は数えるほどしかないよね」と嘆いていた。


大家さんはときどき僕にも声をかけてくれる。というか、朝、出かける前によく出くわすことが多い。帰りも、時々で会うのだけど、見つけると声をかけてくれる。


何度か食事にも連れ出してくれた。


そういうの、苦手だけど、ありがたい。いや、ずっと近所づきあいは苦手だと思ってた。もっと言うと人付き合いすら、難しいんじゃないか?とも。


大家さんの人懐っこさと、好奇心が、僕の先入観をある意味壊してくれた。気づくのがこの地に来てからだというのが、ちょっと残念ではある。


話かけられ続けると、ポツリ、ポツリと返すことになる。いまでは、それほど苦にはなってない。


今日は大家さん、アパートの前には立ってなかった。

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