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書いた小説群をきまぐれにUP。すべて短編。
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Sometimes I feel blue

Sometimes I feel blue

 高く遠い空だった。つらくなるくらい綺麗な空だった。雲ひとつなく晴れていて、太陽は控えめな顔をして西に傾いていた。鳥が黒い影となって僕の頭上を風と共に横切っていった。軽やかに飛ぶ鳥を目で追って、追って、追った。鳥は東の空へ向かってゆき、次第に小さくなって、やがて見えなくなった。それから、一歩ごとに重石を持ち上げるような気持ちで、僕は鳥たちと反対の方向へとゆっくり歩き出した。

 歩きながら、僕は不

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糺の森の記憶の池

糺の森の記憶の池

 葵橋の真ん中に、女がひとり立っていた。すらりとした佇まいで、北側の欄干に手をおいて賀茂川の上流を見るともなく見ていた。美しい女だった。

俺は自転車に乗って橋を西詰から渡ろうとしていた。古い自転車で、ペダルをぐいと押してもそれほどタイヤは回らない。怠けた速度で、その女に俺は近づいていった。通り過ぎた信号機の根もとには花が供えられていた。

「ねえ、貴方」

 女に声を掛けられた。こち

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