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コインランドリー観察記 #5

梅雨本気、みたいな日々ですね。
コインランドリー大活躍の時期なんじゃないでしょうか。
ケチで出不精な私はコインランドリーに行かず、諦めて乾くまで放っています。
だって、雨の中持って帰ってきたらまた濡れて、雨に濡れた布が乾いた匂いになるじゃないですか。(当たり前)

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都市圏に住むことのメリット、車が無くても移動できる。
都市圏に住むことのデメリット、車を持ちにくい。

こんな雨の中自転車の籠に無理やり洗濯物を押し込めて、明日の制服を乾かしに来るなんて最悪だ。
そもそも思うが、大概の仕事について「制服、いる?」と思う。
毎日シフトが入っているので、制服の洗い時がわからない。
暇を潰そうと持ってきた雑誌は、濡れて生気を失っている。

正直惨めだなと思う。
同窓だったはずの人々が立派に働き稼ぐ中、時給1000円を重ねてやっと稼ぐ私。
お盆や年末年始、実家に帰ると近所の婦人軍団に聞かれるのだ。
「あら、お久しぶりね!いくつになったの?あら、もう26歳?」
「今お仕事は何してるの?あら、コンビニでアルバイト!何か他にしていることでもあるの?」
私が特に。と答えると
そら見ろこの沈黙、この顔だ。
私だって悲しいさ。

沈黙を破るため、別の婦人が聞く。
「そういえば、結婚とかはどうなの?彼氏は?」
「うちは先月孫が生まれて、可愛いわよ~、ホラ、見て~」
いい加減にしてくれ、あなたの娘は知っているし孫の写真も見たくもないのに毎日インスタで見てる。

もうすぐ訪れるお盆、店長は気を遣って「帰省できるようにシフト調整しとくよ~」と言ってくれるが、なんなら仕事を言い訳に免れたかった。
憂鬱な溜息が零れる。
と、窓の先に動く塊。猫だ。
扉の隙間からこちらをジッと見ている。
そう躾けられたのか、扉から先には絶対に入ってこない。
狭い軒の下へ出て、半身をやや濡らしながらも猫に触る。
あぁ、温かい。
猫は9回生まれ変わるという。
私もこんな風に90年生きるくらいだったら猫として9回生きて90年だったらな、まぁ、猫には猫の悩みがあるのかもしれないが。

にしても随分と太った猫だ。
きっと住宅街を歩き回るうち愛猫家にたんまりと餌付けられたんだろう。
と、ふと自分の腹を見ると10代のころは見当たらなかった贅肉。
あぁ、戻りたい。
10代のころは「これだけ毎日充実していたら、もう満足して戻りたいなんて言わないだろう」なんて思っていたが青いな。
多くの大人が繰り返し受け継ぎ、抗おうとして敗れてきたのだ。
10代は、輝いている。
日々自堕落に過ごしているわけではない。
常に「何か」を得たくて仕方がない。
何なんだ、その、「何か」って。

どうにも溺れてしまう悔しさに、幾つになっても子供のように、右も左も判らない、すべてが果てしなく大きく見え、飲み込まれそう。

恨めしい、この、目の前に横たわる毛の塊が恨めしい。

太ってしまえ、お前はどうせ太っても、可愛いし猫だ。
人間だったら廃人のくせに、可愛いな。憎い。

読みかけの雑誌を椅子に残し、この猫をさらに太らせるべく、そして同時に私の腹も太らせてしまえと、コンビニへ向かう。


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