トラウマ治療:ソマティック・エクスペリエンシング(SE)体験⑪ 足は何をしたいのだろう?

ソマティック エクスペリエンス(SE)のセラピーも、そろそろ合計50回近くになるのですが、日常生活で起こる足の震えは限定的になってきたものの、セラピーを受けている時は、足の震えや、声が出なくなるという状況が度々起こります。そして、声が出なくなる話題は、以前よりも広がっているような気がしました。(以前、声が出なくなった話題は限られていたのに、今は色々な話題で声が出なくなる感じ)

以前書いたように(体験⑧)、体の中で大丈夫な部分を探してそこに意識を向けると、足の震えが一時的に止まることはあっても、またすぐに震えが始まります。私の場合、左足の震えと右足の震えが別々に起こることが多く、それはその時の感情に合わせて、どういう状況で左足が震えるか、右足が震えるか、自分でも分かっています。(耐えるような感情の時は左足、動きにつながる感情の時は右足です)

先生から何度も「足は何をしたがっていますか? 足がやりたがっていることがあれば、それをやらせてあげてください」と言われるのですが、そういう問いかけを自分の足が「じっと聞いている」という感覚があって、どうも私の足は、震える次の動作に進めないのです。ただ、先生の問いかけに対して(変な表現ですが)「足が耳になっている」という感覚が自分の中であって、「足が先生の言葉にじっと聞き耳を立てている」という感じなのです。

先生が「足はこうしたいかもしれない、したくないかもしれない、でもそうしたい可能性もある」という優しい言葉遣いをしていたので、「先生の言葉は優しいですね」と私が言うと、先生は「身体は、言葉を使わないから、優しい問いかけをしていくことで伝わるから」という説明をしてくれました。なので、皆さんも身体に対して優しい言葉を使いましょう!

先生とも話しましたが、私の足は、多分、逃げることを忘れてしまったか、分からなくなってしまったのかもしれません。耐える感情は左足の震えとなって、動きたい感情は右足の震えとなって、でも逃げるという動作を忘れてしまって、「どうしたいですか?」という先生の問いかけを、今は足がじっと聞いている感じです。

多分、ここで、逃げるという自然な動作が身体から出てくると、一つのトラウマ的な感情が「完了」することになるのでしょう。でも今は自分の足にそれを急がせたりせず、自分の足に手をあてたり、さすったり、足の気持ちを考えたりして、優しく接していこうと思います。先生からも、そのように勧められました。

以下、トラウマ体験の行動の完了について、文献から引用します。
センサリーモーター・サイコセラピー(SP)は、身体に働きかけるセラピーとして、ジェニーナ・フィッシャーらが専門としています。

「トラウマ記憶の影響を受けている患者は、成功と克服の段階に特有の行動をしたことがありません。彼らは、この喜びを探し続けています。しかしそれは逃げていき、彼らはそれを追い続けています」とJanetは書いています。近年、Van der Kolkは「トラウマを体験した人の無力感の感覚を克服するであろう行動を実行して、トラウマの記憶と関連した感覚を表現することは、トラウマの克服に効果がある」と述べています。
動きをともなう防衛反応ができなかった体験により、人は失敗した防衛行動をくり返し、トラウマの解決を延ばし、トラウマの苦しい症状を悪化させることになります。あたかも時間がそのときの脅威のまま止まったかのようであり、そして、身体はトラウマ時の出来事を再現し続けます。すなわち、脅威が認められ、動きのある防衛システムが刺激され、それから突然停止して、持続性の調節不全の覚醒と、凍りつき防衛、虚脱と麻痺が続くのです。
トラウマ的記憶が活性化するたびに、クライエントは、防衛的な反応が身体的に開始されそうになり、そのまま止まってしまうのを体験するかもしれません。
トラウマ障害のある人の、不完全なままになっている、いろいろな心身の行動について、Janetは言及しました。トラウマとなる記憶へのセンサリーモーター・サイコセラピーの取り組みは、不完全な防衛反応に対処します。そしてより適応可能な精神的な行動を容易にする統制感と「成功・克服」感と自伝的記憶の形成が完了されるように促進します。Levineが述べたように「潜在的な(手続き型)記憶が活性化し、身体的に完了されるとき、顕在的な物語を構築することができます。その逆ではありません」。
セラピストは、精神的、感覚的傾向を呼びおこすのに十分な記憶の「かけら」を想起させることを通して、クライエントが「成功・克服行動」を実行するために、失敗した防衛的な行動を「完了」するのを手助けします。「おこってほしかった」物理的な行動は、身体の気づきを通して発見されます。これらの行動が実行された時、無力な反応は、活動的で力強い反応となります。
特定状況を刺激すると、トラウマの反応は活性化されます。しかし、新たな反応が引きおこされるような方法で処理されると、トラウマ的記憶は、クライエントを強くする行動とそれらに対応する感情や認知に結合するようになります。これらの行動は、通常、もとの出来事によって喚起されるものとは劇的に異なっています

パット・オグデン, ケクニ・ミントン, クレア・ペイン『トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際』成功・克服行動(acts of triumph):動きをともなう防衛(p.348-349)

以下は、実例の紹介です。

20代前半の頃、家への侵入者によって性的暴行を受けたジェニーは、その後25年間、トラウマを受けたのと同じ日は、一晩中眠ることができませんでした。(中略)
セラピストはジェニーの身体が実行したかったあらゆる行動に気づくようにと伝えました。彼女は、自分が加害者をどれほど押しのけたかったかを感じることができたと報告しました。そして彼女は立ちあがり、残りのセッションの間中、壁に向かって押していました。襲撃されたことを想起したときに、押す衝動が、アイデアや概念としてではなく、本人の身体の気づきから出てきた点に注目することが重要です。(中略)
ジェニーは「私は脅威に取り組みました。そしてそれは終わったの」という言葉を残してセラピールームを去りました。そしてその夜、暴行がおきた時間帯がきても、彼女は平和に眠ることができました。

パット・オグデン, ケクニ・ミントン, クレア・ペイン『トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際』(p.349-350)

マーチンが戦争体験について話を始めたとき、彼の手は膝の上に静かにおかれていました。それから、セラピストは、彼の指が上向きにわずかに動いていて、保護の大きな動きを示唆しているのに気づきました。(中略)
セラピストは、マーチンに、ちょっとの間、話を中止するように頼みました。そして、その内容を打ち切って、手だけに注意を集中させることによって、身体的に何が「おこりたがっている」かに気づくようにさせました。(中略)
マーチンがトラウマのときにはできなかった、この動きをともなう防衛を、ゆっくりと再現するのを励ましました。セラピストはマーチンに、一時的にすべての記憶から離れて、ただ身体に集中して、ここちよく「ほどよく」感じるように押す方法をみつけるように指示しました。(中略)
セラピストは、マーチンにとってその動きが充分だと感じられるまで、好きなだけ長く押すことを奨励しました。防衛の場面が完全に探索されて完了したとき、マーチンは穏やかになっていました。

パット・オグデン, ケクニ・ミントン, クレア・ペイン『トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際』(p.352-354)


誰かの傷ついた心と身体を癒す助けとなりますように。