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ポイント、差し上げます

気付かぬうちに、僕たち一人一人には新しく開発されたばかりのアプリがインストールされていた。
どうやら国の偉い人たちが決めたことらしい。
僕はテレビやニュースに無頓着な生活を送っているから詳しいことはよく分からない。
でも周りは当たり前のようにアプリに溜まっていくポイントを使いながら生活をしている。

「助けてくれてありがとう!100ポイント送るね」
「君は何回遅刻すれば気が済むんだ?罰として3分の1のポイントを没取する」

生活をしているだけで勝手にポイントが増減していくこともあった。
これはどういうことなのか、流行りに詳しい友人に聞いてみた。

「すごい!ひそかにあなたを応援してくれる人がいるんじゃない?その人からのプレゼントだよ!」

なるほどなぁ。そんな風に見てくれる人を知れるならポイント制度も悪くない。
生きているだけで、言葉を交わさずとも評価し合えるなんて現代的で面白いぞ。
見知らぬ誰かに感謝をされ、認められることなんてこれまで一度もなかった。
出歩く機会を増やすほどに受け取るポイントは増えていく。
僕の心は小さく喜ぶ感覚を覚えた。
でもな、人と同じようにポイントに踊らされてても仕方ないよな。
どうせなら僕はこの制度を逆手にとって、誰もが認めるほどの圧倒的な存在になりたい、という欲
が芽生えてきた。
一定数貯まると、どんどんランクアップしていくらしい。
それだけ認められ、感謝をされ、人に影響を与えられる存在に近づいている、ということだろう。

「見たことのない世界を見てみたい」という想いが膨らみ、僕は高みを目指したくなった。
たとえば、盛大にポイントサービスキャンペーンを行ってみたらどうだろうか?
友人、家族、道ゆく人見知らぬ人にも、小さな子どもにも。
自分の残数なんていったん無視だ!
どんどん分け与えた。貯めている必要なんてないんだ。
ギリギリまで使った方がワクワクするし、額が大きい方がキャッシュバックも多い。
どうやら、選ばれる人たちは貰うよりも与えるポイントを多くする傾向にあるようだ。
見よう見まねで戦い方を真似するうち、信じられない勢いでランクアップしていく。
ステージが上がる度に、景色がどんどん変わっていった。
これまでとは桁外れの応酬をしている人たちばかりと出会うようになった。
たまに微々たるポイントが減ることもあったが、そんなことはどうでもいい。
減った分以上に増やせばいいだけの話だ。
僕はこれまで共に過ごしてきた周りの人たちとは違うんだ。
もっと高みを目指していくべき存在なんだ。
もっと影響力のある人になりたい。すごい人たちに認められたい。
「ポイント」という最強の武器を持った僕に怖いものなど何もない。
気づけば、最後に友人と会話をしたのがいつか分からなくなった。
次元の低い雑談なんてしている人たちとはもう話が噛み合わない。

「ねぇ、ちょっと急にポイント使いすぎじゃない?顔に疲れが出てきてるよ?気をつけないと…」

友人だった人からそんなメッセージが届いていたことにすら気づかなかった。余計なお世話だ。
僕が存在するべき世界に仲間入りできるまであと一歩、もう少し。
ほんの少し前までぼんやりと生きてきた僕とは思えない変化だろう?
刺激的で、高揚感に包まれた毎日だ。
たかが可視化されたポイント。その存在が僕の価値を高め、認め、満たしてくれる。
勝ち方を知った僕はもはや無敵なんだ。
睡眠欲や食欲という感覚すら忘れ果てた。
何も足りないものなどない。
とうとう憧れのステージに辿り着くことができた。
ああ、ここに来るために僕は生きてきたんだ。
「ポイント制度を利用しよう」と心に決めてからたった一ヶ月だったと、この時初めて気づいた。
夢の場所で最初の一歩を踏み出す。
今度は眩しくて真っ白で何も聞こえない世界・・・・・

続いてのニュースです。
「原因不明の突然死が今月に入ってから急増していることが明らかになってきました。
この度、試験的に導入されたライフポイント制度による健康被害が懸念されています。
過剰にライフポイントを使ってしまうことは身体に危険を及ぼす可能性があります。
くれぐれもご利用はペースを守り、計画的に…」

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