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どうする家康 第20話 金打の音も虚しや岡崎城

今回も私にはよく理解できない話の流れでした。

そもそも原点がズレているので、その後もズレてしまうのも仕方がないのですが…

王道と覇道

その原点とは、王道と覇道です。今川義元は若き家康に「王道と覇道の違い」を問いました。家康は答えます。

「武をもって治めるのが覇道、徳をもって治めるのが王道で、覇道は王道に及ばない」

今川義元は言い放ちます。

「信長は悪しき覇道をいく者であり、自分はいつか京にのぼり、戦のない世を作る」

このやり取り。矛盾だらけです。

今川義元も家康も武士です。武をもって世に臨んでいくのが武士でしょうに。源頼朝以来の武家政権は全部覇道です。そもそも征夷大将軍という位に「征夷」という「武」の象徴があるわけですから。

それに桶狭間の戦いの時、織田信長はまだ尾張一国すら統一していません。対して今川義元は駿河と遠江そして三河や尾張の一部まで手中におさめていました。

それでよく「信長は悪しき覇道をいく者」と言わしめたなと思います。で、この悪しき覇道の信長に討ち取られる今川義元。このドラマの今川義元、笑止千万です。

という感じで始まった「どうする家康」ですから、織田家は悪しき覇道なんですよね。で、家康はいかに王道を歩んでいったかを描くのが「どうする家康」のテーマでしょうし、今回の第20話もそのテーマに沿っての話なんでしょうけどね。無理でしょう。家康の天下統一の過程が「悪しき覇道」そのものですからね。豊臣家を追い詰めていくやり方は関西弁でいうところの「エゲツなー」です。

そもそも歴史はそんな単純なものではありません。積み重ねです。圧倒的な武力による支配。当然、武力が弱まれば世は乱れます。それが室町幕府の弱体化と戦国時代の到来を招いたわけです。家康も瀬名もこの戦国時代の真っ只中。この乱世を治めるにはまずは圧倒的な武力が必要不可欠です。「徳をもって治める」というのは綺麗事です。

信長にも功罪があったはずで、彼を単純に悪とする歴史ドラマってどうなんでしょう。信長と秀吉がいたからこその家康でしょうに。

家康も圧倒的な武力で天下を統一し諸大名を黙らせました。その後、大名の鉢植えや断絶や参勤交代といった武断政治。世の中が平和になり文治政治。そして、徳川幕府が弱体化して、家康の遥か後の子孫である徳川慶喜によって政権が朝廷へ返上されたわけですよね。武士による覇道の世が終わるのに約300年の時間が必要だったのです。

このドラマの家康と瀬名なら「慶喜よ、よくぞ決断した!」と、喜んだことでしょう。

その歴史の積み重ねを無視して、家康や瀬名たちに「徳をもって治める」とか言わせるのは無責任でしょう。安易な発想です。

いっそのこと瀬名を強烈なやり手の女性として描けば良かったと思います。家康を叱咤激励し、覇王になれと煽りまくる女性です。家康もそれに乗っかり「わしは覇王になる!」と決意。それでも甘いと見た瀬名は織田と武田を激突させるべく暗躍。露見すれば潔く自害…築山殿の新たな悪女伝説が描けたかも。

このドラマ、家康や瀬名を良い人に描こうとして矛盾が拡大してる感じがしてなりません。ピカレスクロマンも魅力的だと思うのですが。

岡崎クーデター

この20話は岡崎城で起こったクーデター未遂事件がメイン。首謀者は大岡弥四郎。

クーデターが失敗したのは山田八蔵の密告とドラマでは描かれていました。この山田八蔵が情けない武士として描かれているんですよね。シクシク泣くんですよ。それも瀬名に聞こえるように。瀬名も瀬名で、他の侍女たちは聞こえていないのに瀬名だけは聞こえるんですよね。

で、八蔵が密告して瀬名を助けようとするのは分かるんです。戦で八蔵が傷を負ったとき、瀬名が自らの手で手当をしてくれたことに恩を感じてるからですね。でも、それだけで仲間を裏切るなんて軽すぎますよね。

金打

というのも、このクーデター仲間は密謀の時に「金打(きんちょう)」を打ってるんですよね。金打って、その命を賭けて誓う約束事です。やり方は色々あるみたいですが、ドラマでは刀を鞘から少しだけ抜いて音を鳴らして再び鞘に戻す作法をしていました。女性の場合は鏡などを合わせて音を鳴らしていたようです。要するに、金属の物を打ち合わせて鳴らすってことですね。

八蔵は仲間と金打をして誓ったわけです。その誓はクーデター。余程の信念がないと主を裏切ってまでして城を乗っ取ろうとまでいきません。

それなのにシクシク泣いて、問い質されて秘密をゲロするなんて武士の風上にも置けません。

その結果、大岡弥四郎は鋸引きの刑を課せられます。残酷な刑です。ドラマでは五徳が父の信長に言いつけて、その残酷な刑を課せられるように仕向けた感じでしたが、優しい瀬名は沈黙したままだったのでしょうか。ドラマの瀬名であれば助命嘆願くらいしないと。

ここでも残酷なことは織田家という鉄則が貫かれているようですね。

八蔵も金打の誓をした仲間を売ったのだから切腹して責任くらい取りなさいよ。

もっとも、金打は江戸時代以降の作法なので時代考証もしっかりとしていただきたいものです。

無間地獄

クーデター首謀者の大岡弥四郎のクーデターを起こした理由がまた笑えます。

家康が信長についてから、ずっと戦をしている。それは終わりのない無間地獄で疲れた。だから武田につきたい、とのことのようです。

いやいやいや、武田こそ信玄以来ずっと戦をしているではないか!

民は疲弊し厭戦気分が蔓延し武田が滅びる原因となったわけで。

そもそも、このドラマは武田勝頼の登場時にどういう描写をしたのか!

家中の若者たちが集められ、実戦さながらの過酷な訓練を描いておったではないか!

家康の弟の松平源三郎なんかボロボロになっていたよな。

そういう描写をしておいて、大岡弥四郎には「家康についていると戦の無間地獄」なんてセリフをよく言わせたなって思います。

このドラマ、過去の描写とか関係ないんですよね。武田についたら今以上の戦の無間地獄です。

やっぱり千代はいい

千代を演じる古川琴音さん。なんか惹かれるんですよね。魅力的な女優さんです。

服部半蔵と千代が出る限りは見ようかなって思う次第です。

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