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人間

パンが、斜めになっていると直してしまう。
唐揚げ、おでん、早朝のコンビニでバイトをしている私が、ついついやってしまうクセに、笑ってしまった。

「いらっしゃいませー。」

朝だから、なるべく爽やかな笑顔で、対応しようと心がけていた。

「ありがとうございます。」

(ありがとうございました。)でなく、(ありがとうございます。)と、教えられた通りにやっていた。
早朝の品出しで、ある程度の売れる商品は、把握していたから、パンの発注を任せてもらえた時は、嬉しかった。
毎朝、廃棄のパンをチェックし、新商品や売れる商品をコントロールしていきながら、売り上げを上げて行く。
ただ、言われた通りに発注しても、売り上げは変わらない。
手作りのポップを書いて、パンの味や、どんなシュチュエーションで、食べると美味しいかを、わかりやすく書くことで、売り上げに変化が出たころ、商品の欠品があり、その後に、なぜか商品が売れる流れがあることを知ったので、楽しくポップを書いて、売れる商品を作りだし、廃棄の数が出た頃に、3日その商品を発注しない。
そうやって、コントロールして行くと、売り上げが上がって楽しかった。

深夜担当の岡田君は、私が、早朝5時にお店に出勤するまで、一人でバイトをしているから、いつも、目が赤く疲れていた。髪型は、真っ黒のショートヘアで、黒ぶち眼鏡をしていた。
朝九時まで、私と二人なので岡田君の行動を観察して、楽しかった。
岡田君は、頭が良くて真面目な性格で、ゴミの分別が、すごかった。スプレー缶は、絶対、穴を開けて捨てるし、人の嫌がることを率先してやる人だった。

そんな、真面目な岡田君が、重大なミスをした。

「50」

大盛り焼きそばが、50個発注されていて、早朝に、届いてビックリした。
その日、岡田君は、お休みだった。私とオーナーは、岡田君には、言わない方がいいと、出来る限りのポップを書いて、なんとか頑張った。

焼きそばは、完売した。

真面目な岡田君のミスを、真面目な岡田君に気づかれないように、みんなで頑張った結果だった。

「お、お、お、にぎりが、た、食べたいんだな〜。」

と、朝から、ふざけてくる人や、
お酒くさくて、ジャッキーチェンの酔拳のような歩きかたで、店に入って来て、ワンカップのお酒をレジに置く人など、いろいろな人がいて、一人一人対応して行く。

「お、お、お、にぎり」

と、言う人にはスマイル。

お酒くさい酔拳の人には、

「足もと気をつけてくださいね。」

と、スマイル。

毎朝、同じ顔ぶれのお客様なので、仕事や学校へ送りだす母親のような気持ちで、お店から見送っていた。

現金で支払いをするおじさんが、毎日、毎日、タバコと缶コーヒー代を、投げ捨てるように、カウンターへ置いて行くから、なんだか気持ちがすさむので、ついに、

「ちょっと待って」

っと、お金を投げて置かれた瞬間に、私が言うと、お客様はビックリして、止まった。

「ハイ、お使い下さい。」

と、私がライターをカウンターへ差し出すと、

「ありがとう。」

と、お客様は、つぶやいた。

粗品のライターだから、大したものでは、ないけれど、その出来事以来、お金を投げるようにカウンターへ置かなくなった。

大雪の日、トラックの運転席から降りて来た男の人が、レジでトラブルでもあったように、強い口調で会話していた。
私は、本を並べていて忙しかった。
その仕事が終わり、バイトのあがりの時間が来たので、帰り支度をしているとパートのおばさんが来て、さっき何があったのか聞いてみると、

「あの人かーいいんだ。言わせておけば」

パートのおばさんは、笑っていた。

「コーヒーの陳列の場所を変えたから、違うコーヒーを買ってしまって、場所を変えるなって、怒ってたんだよ。」

「エッ」

「はっ?」

私は、二度ビックリした。
確かに、缶コーヒーを買う人は、いつも同じものを買っている。きっと、見ないで商品を手に取り、車に戻ってビックリしたのかもしれない。
少し気持ちが、わかるから、明日、お店に、その人が来た時には、お会計の時に、私も気をつけようと思った。

家へ帰ると、食べ散らかしたテーブルに、さっきまでの時間の流れを感じて、笑ってしまった。
昨日の娘の言葉を思い出し、

「ママ、フェチって何?」

なんて答えたらいいのか?考えながら、片付けていた。

親が子供を育てることによって、社会がどう変化して行くのか、実母でなくても育てることが出来るのかなど、考えながら子育てをしてみたこともあったけれど、ちっぽけな考えに終わることが、わかった。
子供のエネルギーは、無限でお化けも逃げて行くような、パワーがある。
私が、早朝の仕事を選んだのは、時間を有効に使うためにだった。

私の一日は、朝から始まらない。

一日のスタートを、朝と決めるのは、良くないと、子供を育てることで
自分なりに、解決したことの一つだった。

テーブルに、食べ散らかした子供達の食器も、余裕な気持ちで片付けられる。

それは、私にとって朝だけど、朝ではないからで、私の一日のスタートは、お風呂から出た時から、心地よくゆったり眠ることからが、スタートになる。

暮らしを支える産業と情報と願いによって、家庭がある。

今も、何かを願ってる人がいる。

そして、

願いを、叶えてくれる人がいる。


「おはよう」

最近、岡田君は、仕事が楽しそう。

「ありがとうございます。」

その声に、願いを感じた。




       完







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