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キャリアに向き合い直面した葛藤~監査のやりがいとは?~

このまま、この会社で働き続けていいのか。

監査法人に勤め始めてから年数を重ねるごとに、漠然としたキャリアに対する不安を感じるようになりました。
また、Xの運用を始めるようになってからは、「監査のやりがい」や「キャリア」について、様々な角度からの意見や考え方を耳にする回数が増えています。

今朝にも、公認会計士が監査業務から離れる根本的な原因として、『監査業務は「単調でつまらない」』という点があげられていました。
記事の内容も、概ね現場で感じる感触と大きく異なるものではありません。

今回の記事では、それらの経験を踏まえ、現在私の中で渦巻く葛藤について、思い浮かぶがままに書き綴っていこうと思います。

内容は独断と偏見に満ち溢れたものであり、あくまで私のこれまでの浅い経験や知識を基に発信するものです。
もちろん、組織や業界を代表した内容ではなく、異論・反論含め、率直な皆様のご意見をいただければ幸いです。私個人としてもとても学びになります。拡散&引用は大歓迎です!!!


①. 監査のやりがいとは?

①-1. 簡単な自己紹介

こんにちは。公認会計士のSHIRAKIと申します。

数年前の論文式試験に合格し、現在も監査法人で働いています。
監査法人では、多業種の会計監査(IFRS・US基準)、会計・規制関連のアドバイザリー、監査対応サポートなど、幅広い経験させていただきました。
運良く声がかかり、数年の海外駐在も経験させていただき、他にもこれまで様々な成長の機会をいただいてきております。

①-2. 監査法人での業務について感じること

私は非常勤で監査法人に入社しましたが、入社時から「いつかは辞めるんだろうな」と考えているところはありました。
しかし、いざ仕事を始めてみると、共に働く監査チームメンバーは良い方がばかりで、求められる知識や仕事のレベルも高いと感じる場面も多く、成長を感じられる環境に身を置けているという実感もあり、これまで前向きに監査法人で勤められてきました。幸いにもある程度の評価もいただけております。

年次があがるとともに、新しい業務やエリアを担当でき、加えてチームマネジメント(プロマネ)の経験も求められることで、監査法人は会計士として若いうちから成長できるとても良い環境だと感じました。

クライアントの置かれている状況や環境も様々で、複雑化する会計基準の解釈が分かれることもあります。また、クライアントから報酬を貰う立場でありながら、必要な依頼や指摘をしていく必要があり、うまい具合で落とし所を見つける力などの絶妙なコミュニケーション力が養われる環境でもあると思っています。

何より、公認会計士として生きるうえで、市場で一般に求められる経験(会計・内部統制・ソフトスキル)を養う絶好の環境であることは間違いなく、今後のキャリアを見ても、ファーストキャリアとして良い選択をできたなと感じています。

このような前向きな部分がある一方で、これまでに感じた葛藤について、以下でいくつかあげていきたいと思います。


② 自分は何がしたいのか?

自分の力で周りの人を助けて喜ばせ、感謝されるような仕事をする

私の中で、仕事というものを考えるうえでの一つの軸となっている考え方です。

より具体的には、「自分の知識と経験を活かしてサービスを提供し、社内のメンバーやお客さんと同じ目標・課題に向かって取り組み、その対価として報酬をもらえる」といった具合のものです。

もっと深堀りすれば、色々と考えるべきことはありますが、ここでは以下の観点で自分の仕事をする環境について考えることとします。

  1. 自分の提供できる価値(知識・経験)を高められるような環境か

  2. 社内やクライアントと同じ目標・課題に向かって取り組むものか

  3. サービスを通して感動を与えたり、感謝を受けられるものか

  4. 報酬を通して、十分な評価を受けられているか


③. 誰のために働いているのか

今現在、監査という仕事に対して、大きな悩みのタネになっていることの一つがこれです。
ありきたりですが、将来を考えるにあたっては、やはり大きな枷になります。

③-1. 世の経済発展のためだと言われても。。

御存知のとおり、公認会計士法第1条では、「国民経済の健全な発展への寄与」が歌われています。
この使命を全うする一つの例が、まさに会計監査であり、制度の設計上、監査人が監査によって保護すべきはステークホルダー(投資家と債権者)であると言えると思います。

一方で、監査法人の監査報酬は被監査会社から支払われます
企業は監査法人に「わが社の決算書が正しいことを証明して下さい」と依頼し、監査法人は監査を引き受けるため、監査報酬は被監査会社が直接監査法人へ支払う流れ、というのが建付けなのでしょうか。

そのような構造上の歪みもあり、会計監査への理解のない会社と対峙する際には、ある種の矛盾を感じてしまう場面も多々あります。

前述の通り、会計監査の目的は一義的には投資家保護ですので、昨今グローバルで発覚する会計不祥事を踏まえ、背後では、(形式的なものも多い)要求事項が増え続けているのが現状です。

しかし、正直なところ、純増し続ける手続の全てについて、"本当に社会やクライアントのためなのか?"ということを自分の中で納得できているわけではありません。
それでも対応しないわけにもいかずに、腑に落ちぬまま、報酬の支払い主である会社に追加手続に関する依頼や工数増加を打診することとなります。
もちろん、会社からはあまり良い顔をされませんので、なんとも言えぬ感情に苛まれます。

③-2.監査は難しい立場では?

もっとミクロな話をすれば、現場では、監査という仕事が疎まれてしまう場面が発生します。(信頼を築き上げたうえでは関係性は変わっていきますが。)

御存知の通り、監査は、クライアントの経理部等のバックオフィスと接することが多く、彼らに必要な資料を依頼し、膨大な資料の準備や提出管理をお願いする必要があります。
こんなもの、議論の余地なく、対応する側としては「ダルい」に決まっています。
そんな相手側の気持ちも理解しながら、(なんのためにかわからずに)報酬支払主のクライアントに頭を下げて協力をお願いする場面もあり、監査実施側もよくわからない気持ちになります。

また、せっかく会計監査に協力し、好意的に対応してくれるクライアントに対しても、単純なミスや会計上の判断相違について、ある意味チクチクと指摘や提案をしていかなければならない場面が発生します。指摘の規模によっては、その方の今後を左右するものにも成りかねません。
前向きな提案など、好意的に受け取ってもらえるような場面が発生する場面もありますが、そうでない場面もあり、このような場合では絶妙なコミュニケーション能力が求められます。

また、会社理解のためだと、監査人からビジネスや会計数値について質問が繰り返し投げかけられ、忙しい中対応する側としては嬉しい気持ちにはなれないでしょう。

スタッフワークそのものに目を向けると、過去曖昧にしてきた部分を詰めるなど監査人としてのあるべきを全うすることでは、直接的にクライアントに感謝される場面は少ないのではないでしょうか。
下手をすると、問題点を見つけるために主体的に取り組んだ挙げ句、自分の仕事量も増えて手続の進捗も遅くなる場合もあり(表面的な部分だけを見たら、)どこにインセンティブを見出すべきかが難しい仕事だといえます。(監査人としての成長や、監査人としての社会への責任に目を向けるべきですが。)

このような監査手続そのものの対応だけに目を向けず、監査期間を通じたクライアントとのやり取りで信頼性を築き上げられるかどうかが、監査人の腕の見せどころですが、それでも本来的な役回りから、疎まれ役になってしまうような場面も少なからず発生するでしょう。

他にも例をあげればきりが無いですが、これは誰のために仕事をやっているのだろうという、やるせない気持ちになってしまう場面が、きっと皆様にもあるのではないでしょうか。
何よりも、「クライアントである会社と同じ目標・課題に向かって取り組んでいる」という感覚がないことが、やりがいを見出すことが難しい要因であると感じています。(下手したら、社内でも目線が揃わない作業が発生したりします。)


④. 監査のやりがいをどこに見出すかの葛藤

④-1. 自らの成長を通してやりがいを見出す?

<監査効率化>
監査を効率化
してクライアントの負担を減らしたり、監査チームの工数を減らしたりと、日頃の工夫でやりがいを見出す方法はあります(私はこのタイプです)。
しかし、昨今のグローバルでの要求事項の増加や、形式的な作業も多数発生し、そういった思惑と相反するものが多いように思います。

<知見の提供>
知識や経験を積み、深めた知見を会社に提供したりと、監査人としての成長とともに与えられる会社への貢献があります。特に会計監査は、受験勉強やその後の研鑽を通して得られた知識を直接活かせる絶好の環境であり、専門性を絶好に活かせる場であると感じられています。

しかし、近年では独立性の定めも厳しく、監査人としての立場では、会社に寄り添って主体的に考えたり行動する力を養える場面が少ないと思っています。
監査法人では、監査経験を活かして他のアドバイザリー業務に掛け持ちで従事される方も多くいらっしゃるので、そういった立場を目指されることは良いのかもしれません。
私もアドバイザリー案件に何度か従事しましたが、その経験は貴重であったなと感じます。

<改善提案をしてみる>
"監査の過程で発見した管理体制の問題を指摘し、改善を促し、改善状況もチェックする"
こうすることで会社に貢献できている実感を感じられる場面はあります。
しかし、多くの場合それらはグレーエリアが多い分野で、クライアントとの間で意見が激しく対立したり、あからさまに面倒であるという態度を取られてしまうこともあります。
この状態で、「クライアントのために監査をしている」とは感じづらいことも多いのではないでしょうか。もう少し俯瞰的な視点で、会社や経済社会への貢献を感じられればよいですが、私も含めて多くの方にとっては難しいことなのかもしれません。


④-2. そもそも監査人として、クライアントに差別化できるの?

個人的な感覚かもしれませんが、監査サービスについて、クライアントに対する明確な差別化は難しいのかなと感じてしまっております。

監査としての成果物は、定型化された監査報告書一式です。
クライアントとしては、この保証書をもらうために、(品質はさておき、)なるべく低いコストで済ませたいと考えられるのが、当然の感覚です。

監査対応のストレス低減やその他のソフトスキル面での評価など、細かい差別化はあるかもしれませんが、それらが果たして、監査人としてプライドを持つべき監査品質の面と相乗の関係にあるのかは定かではありません。

グローバルの会計不祥事には、個人ではアンコントローラブルな内容も多々あり、監査人として取り組んだ品質の評価ではなく、減点方式での評価の雰囲気が強い構造も悲しいなと感じてしまいます。


④-3. クライアントからの信頼を勝ち得る?

監査に限りませんが、クライアントから信頼を勝ち得ていると実感できるとき、仕事へのやりがいを見いだせている気がします。

相談や日頃の連絡にレスポンス早く対応する、日頃のコミュニケーションを通してサプライズを減らす、簡潔明瞭に知見を提供する、クライアントの考え方や置かれた状況を尊重して柔軟な対応を取る、など、監査人としてクライアントから信頼を得るためにできることはたくさんあるでしょう。

こういったプロフェッショナルとしての当然の立ち振舞を高いレベルで経験するというのは、よい成長の環境であることは間違いないですが、これらの話は会計監査に限ったものではなく、これまでの悩みを打ち消すようなやりがいにつながるものかは各個人の感性によるところでしょう。


⑤.  そもそも自分は「監査」が好きなのか

元も子もない話ですが、結局はこの議論に帰着する気がします。

「つまりそれって、丸付けの先生をやっているってこと?」

これは、昔私が自分の仕事を友だちに説明した際に、悪気なくふと投げかけられた言葉です。

我々のやっている仕事は、あえて単純化すれば、
「簿記・会計の知識を使い、丸付け基準(監査基準)に照らして、会社の過去の数字や集計があっているのかを、高度な専門性を駆使しながら丸付けしてあげる作業」です。

実行力や創造性ももちろん大切ですが、それ以上に、必要なことをミスなく網羅的にやり抜く能力が求められる気がしています。

会計士として必要な経験を得られる貴重な環境である一方で、このような仕事がこれまでの私の生き方や性格と合っているのか、また今後を左右する30代までのキャリアをそのような環境に捧げることが正しいのかについては、引き続き考えていく必要があるのかなと、改めて考えさせられました。


⑥. 他の業界への単純な興味

「隣の芝生は青い」とも言われますが、監査法人から他の業界へ転職された方、独立されて様々な経験を積まれている方を見ると、キラキラと輝いて見えるとともに、このままでいいのだろうかと焦燥感を覚えてしまうことがあります。

年齢とともに、未経験での転職市場での価値は落ちるとも言われます。
監査を通して、様々な経験や成長の機会を得られるのは確かですが、会計周りの知識や監査の経験のみを通して、次のキャリアで活躍することや独立して活躍することには一定の不安を感じる事も事実です。(様々と手を広げたあまり、自分の専門性やプロフェッショナルとしての成長を妨げてしまえば元も子もないですが、(笑))


おわりに

いかがでしたでしょうか。

私は監査法人でパートナーまで経験した身ではなく、上記はあくまで現場での経験で感じたものが中心となっています。

そのため、取り上げた内容というのは、監査という仕事を限られた側面から見たメリット・デメリットにしかなりません。
また、「監査」と一口に言っても、それを実施する立場や個人の知識・経験、仕事に対する考え方によって、様々な見方があるはずです。

先に申し上げた通り、私個人としてもとても学びになりますので、是非皆さまの率直なご意見をコメントいただければ幸いです。


SHIRAKI 【公認会計士】
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(1) SHIRAKI 【公認会計士】(@Ming_motivation)さん / Twitter

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