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片思いの同級生と富士登山に行った話

大学時代、ずっと片想いしていた友人との話。

大学卒業後、 
彼から「富士山に行こう」と誘われ、 
二人で登ったことがある。 

その時私は社会人。彼は大学院生だった。

お互い陸上経験者だったとこともあり、登山自体は案外あっさりと終えた。 

登山後は、二人で富士急ハイランドに行った。 

僕はあまり乗り気でなかったが、彼の「どうしても」という願いで、FUJIYAMAに乗ることになった。 

順番を待っている間は、登山や学生時代の話など、他愛もない無い話で盛り上がった。  


そしていよいよFUJIYAMA乗車となった時、
買ったはずのファストパスチケットが無いことに気づいた私は大慌て。 

そんな私の愚行を、彼は笑って許してくれた。 
私達は再び、最後尾から2人して並んだ。  




その日の夜は、彼たっての希望で、マップ探した居酒屋で飲んだ。 
ホテル周辺の街角で見つけた、地元民で賑わう小さな居酒屋。

そこでは、互いの事について語り合った。 
 
彼は、私のことを好いていた。  


普段の言動からそれは伝わっていたのだが、
酔った彼は案の定、クサいセリフで今日も私を褒める。 


お酒も入ってきて、話題は互いの好みの人の話になった。
彼は私に、好きな人のタイプを聞いてきた。 
咄嗟のことで返答に困ったが、「自立してる人かなぁ」と当たり障りなく応える。

私も彼に、好きな人のタイプを尋ねた。 
彼はこう答える。
「俺は年下がいいかな。今は恋愛って感じじゃ無いけど、26歳くらいで彼女作って結婚したい。子ども欲しいし!」  


屈託の無い笑顔で話す彼を横目に、 
私の心は鉛のように沈んでいった。   

彼は端正な顔立ちで、運動神経も頭も良かった。 
女子からも人気のある、いわゆる「モテる男」だった。 

しかしこれまで、彼女は出来た事がなく、 
酔った時には抱きついてくるし、 
LGBTの話題にも自ら話を振ってくるような人だった。

そんな彼に対して、いやそんな彼だったからこそ抱いていた、わずかな期待。  


そんなちっぽけな可能性を信じて抱いていた、 
彼への密かな想いを恥じた 


彼はきっと、早くにいい奥さんと出会って結婚する。

沈み切った心とは裏腹に、私は彼の話を笑顔で聞いていた。 




しかし、込み上げる気持ちは抑えきれなかった。 
居酒屋からの帰り道、声を上げて泣いた。そしてゲイであることをカミングアウトした。    

もういっそ、好きだったことも伝えようとしたが、彼の負担が増えるだけだ。 
そこには触れなかった。

声を荒げて泣く私を見て、彼は笑っていた。
「お前、飲んだら泣くタイプなのかよ」
そう言いながら、彼は私の話を聞いていた。 
何を話したか、詳細ははあまり覚えてない。  

だが、「今までどんな思いで生きてきたか、ゲイとして社会に出て、今何を辛いと感じているか。」 
きっとそんなことを話していたように思う。   


大学時代からずっと抱いていた彼への気持ち。 
こんなにも見事に、あっけなく目の前で崩れ去っていく感覚。


『失恋』という、涙の本当の理由は言えなかったが、彼はただ私の話を「うんうん」と聞いてくれていた。 


僕の突然の大泣きに彼は驚いていたが、 
カミングアウトにはそれ程反応を示さなかった。

聞けば、風の噂で、私が「バイセクシャル」であると聞いていたそうだ。(そこでは何故かバイになっていた) 


このとき私はハッとした。 
つまり彼は、 
私が『男性を「性の対象」としてみている』 
ことを承知の上で、旅行に誘ったことになる。

2人で四日間の旅行に行くことに抵抗は無かったのだろうか。 

そこに関する、彼の真意は分からない。 
だが、この長旅に誘ってくれたこと。 
このことは、彼が僕を人間的に好きでいてくれた確かな証拠だろう。それがたとえ恋愛感情では無いにしても。。。 

そんな彼の思いに、より一層胸が締め付けられる。




最終日。 
この日は静岡から、 
高速バス→飛行機→電車を使い、 
九州まで帰るという長距離の移動だった。  


前夜の愚行もあり、彼と僕との間には、どんよりとした気まづさが流れていた。 
移動中、二人は殆ど無口だった。

感情の整理はたった半日でつくはずも無い。 

飛行機の中、込み上げる思いと共に自然と涙が込み上げてくる。

この時私が、窓側の席に座っていたことは幸運だった。外の景色を見るフリをして彼に背を向け、涙を見せぬようにした。 


飛行機は福岡空港に到着した。   
ここで彼とはお別れだ。 
私は電車で、彼は高速バスでそれぞれの家路に向かう。   

別れ際、彼からは「ありがとう」と一言
私も「おう。」と返答し、それぞれお互いの向かう先へと背を向けた。

家に着くまでの電車の中で、
私は旅行中にした彼との会話を思い出していた。

彼は覚えているだろうか。 
「来年は、御殿場ルートから登ろう」と下山中に約束したことを。
覚えていても、来年は無いだろう。



そして、僕は一人暮らしのアパートに着いた。

明日からはまた仕事が始まる。 
重い体を動かして明日の準備をしていた時だった。 
彼から旅行中に撮った写真が送られてきた。  



写真をゆっくりと眺める心の余裕は、 
当時の私には無かった。  

しかしそんな中でも、 
ひとつだけ目に留まる写真があった。   

富士山頂で外国人に撮ってもらった一枚の写真。
日の出をバックに笑顔の彼と、7月の極寒の中、肩をすぼめてやつれた私。 

その写真の中の彼の手は、私の腰に添えられていた。

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