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青森の産地と接して見えてきた、レストラン向け農産物流通の課題

中小企業診断士のフクダです。

私は2012年から2013年にかけて、青森県鰺ヶ沢町の生産者の方々とさいたま市の飲食店・食品製造業を結びつけようとお手伝いしてきました。はじめて1次産業の方々と接して、ぶつかり、解決できなかった課題が、その後の「さいたまヨーロッパ野菜研究会」へとつながっていったので、当時のことを振り返ってみます。

東北物産市の、その先でできることは何か

東日本大震災の後、職場のミッションとして「被災した東北エリアの自治体支援」が加わりました。
2011年はさいたま市が開催した展示会に、東北の自治体・食品関係企業を招いて、東北物産市を開きました。1年目はそれなりに売れたのですが、2年目も開催を企画したところ、ほとんどの自治体から断られました。
理由を聞くと、東北から旅費や人件費をかけてイベント販売しても、せいぜい売れる金額は数万円から十数万円。経費を差し引いたら利益が残らない。確かにそのとおりです。

じゃあ、自治体としてどんなご支援があったら嬉しいですか?と伺ったところ、「継続的に売れる販路を紹介してほしい」という声が多く上がりました。
当時、スーパーやデパートでも、頻繁に「東北物産市」が開かれていましたが、そこに並んでいるものは加工食品がほとんどでした。農水産物、畜産物などでも、もっと売れる商品があるんじゃないか。
東北の食材を、さいたまの飲食店や食品製造業で継続的に使えたら、東北とさいたま双方にメリットがあるんじゃないか。

お付き合いのあった地元の飲食店オーナーや食品製造業の方々にもお話を伺いました。東北の美味しい食材、知られざる食材で面白いものがあればぜひ使いたい。でもなかなかツテや情報がないんだよね。と、皆さん乗り気でした。

さいたまの飲食店と鰺ヶ沢をつなげたい

とはいえ、東北の産地にツテがあるわけではありません。
過去にお仕事で関わった方々のネットワークから、野菜料理専門の料理教室を運営されているSさんにたどり着きました。

Sさんは青森県鰺ヶ沢町のご出身で、毎年、料理教室のお客さんを連れて鰺ヶ沢の食材紹介ツアーなどを企画されていました。そこでSさんにコーディネータをお願いして、地元飲食店や食品製造業の方々、飲食店コンサルタントの先生にも同行していただき、「鰺ヶ沢の食材宝探し」の視察に向かいました。

青森県鰺ヶ沢町は日本海に面した小さな町で、海のもの、山のものに恵まれています。
現地を訪問すると、地域の宝物食材は驚くほどたくさんありました。
30年以上無農薬で栽培されてきた奇跡のりんご(有名な木村さんとは違う生産者です)、地域内でだけ流通している超大粒の枝豆「毛豆」、糖度18度の極甘メロン、珍しい西洋野菜やハーブ、配合飼料や抗生物質を使わずに育てた豚肉など。
地元の直売所には、新鮮な野菜や果物、山菜、海産物、手作りの漬物などがバリエーション豊かに並び、驚くほど安い価格で売られています。
生産者も個性的な方々が多く、彼らの農業や地域への思いに、大いに心を動かされました。
シェフたちからも「美味しいしストーリー性もある。ぜひ使いたい!」との声が多くあり、手応えは上々でした。

ところが、これらの食材のうち、今も埼玉で使われているものはごくわずかです。食材の質とは別のところで、大きな障害がありました。

商流・流通インフラという大きな壁

地方で大規模に農業経営している生産者は、収穫物のほとんどをJA経由で市場に卸しています。鰺ヶ沢でりんごやメロン、すいかなどを作っている果樹生産者は、収穫期になると1日数百個、数千個という収穫物を箱詰めして市場に出荷していました。収穫作業は時間との戦いですから、できるだけ短時間で効率よく作物を出荷していくことが最優先になります。
そんな中で、メロンを1箱ずつ、レストランに宅配便で個別発送してくださいと言われても、忙しくて対応できないのです。仮に、1箱が市場出荷の倍の値段で売れるとしても、その手間にかかる時間でメロンをもっと多く市場出荷したほうが利益になります。

畜産物の場合はもっと大変でした。豚などは生きたまま出荷して、と畜場で解体され、さらに精肉加工業者でスライス肉などに切り分けられます。牧場は、自分のところでは解体やスライス加工ができないので、出荷した豚の肉を業者から買い戻して売ることになります。1頭単位で安く買うことはできますが、人気のあるロースや肩ロースばかり注文されると、人気のないウデ肉などが余ってしまいます。

受注や請求の手間も問題でした。今では「食べチョク」や「ポケマル」といった、生産者が一般消費者に直売するためのプラットフォームがたくさんありますが、当時は、お金と手間をかけて受注システムを作らないといけない状況で、自社の販売サイトを持っている生産者もごくわずかでした。

地元の直売所で注文をとって出せないか?と交渉してみると、こちらも驚くことがたくさんありました。
まず、直売所は基本的に、生産者に注文を出せないのです。何をいくつ直売所に出すかは生産者自身が決めるので、在庫の把握とコントロールが非常に難しいことがわかりました。また、直売所に並ぶ商品は市場出荷の規格に合わないB品や少量生産の商品が多く、一定品質・一定価格で出せる商品はわずかでした。さらに、直売所の出荷組合は多くの生産者が加盟しているため、少数の生産者のためにイレギュラーな対応をすることも難しい、とハードルだらけでした。

何より、このハードルを乗り越えて絶対に流通網をつくろう!という鰺ヶ沢側のパートナーを見つけることができませんでした。いくら、消費地側がよかれと思って提案しても、産地側の経営者層が魅力を感じないのであれば、一人相撲になってしまいます。

得られた教訓

Sさんや鰺ヶ沢町の方々に協力していただいたにもかかわらず、その後永くお取引に結びついた生産者はわずかでした。このときの経験から、次に農産物の流通に関わるときは、この3つが大きな「勘どころ」だと認識しました。

  • 流通インフラと受発注の仕組みが何より大事

  • 関係者全員が「ちゃんと儲かる」事業構造をつくる

  • 外から指示を出すのではなく、組織の中に入り込んで関係者と交渉する

このプロジェクトでは自分の農業・流通業に対する知識不足・ノウハウ不足を痛感しました。いま考えると、もうちょっとうまくやれたのにな、と思うことがたくさんあります。それでも鰺ヶ沢の方々やSさんとはその後交流が永く続き、今でも大好きな場所です。

鯵ヶ沢のプロジェクトをきっかけにできた飲食店との繋がり、そして課題意識が、その後さいたまヨーロッパ野菜研究会の結成へと繋がっていきます。


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マイナビ農業で、私の開業についてご紹介いただきました!



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