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【テニミュ4th六角】越前リョーマの内面を代替するための「芥川慈郎」と「季楽靖幸」他【感想・レビュー】


 9月に入り、夏の終わりを感じる今日この頃、みなさん、テニミュ見てますか?
私は見ています。

 ミュージカルテニスの王子様4thシーズン青学vs六角。
 夏の暑さに負けない元気いっぱいの公演を2度ほど大阪にて観劇し、その後U-NEXTで配信を購入、じっくりと7日間鑑賞しました。
 そして本日の千秋楽を配信にて観劇し、一旦区切りがついたと感じたため、今公演の感想を書いていきたいと思います。

 夏空に映える晴れやかで爽やかな公演で、毎公演観劇帰りには「なんて楽しい舞台なんだろう」という感想に尽きました。
 今回のレビューでは、自分なりの本公演の注目ポイント3点を中心に感想を書いていきたいと思います。


1.本公演での「夏」と「全国大会」の関係

 今公演は、真夏の時期の公演でしたね。
 舞台上でも何度も「夏」という単語が繰り返されます。ただ、じっと聞いていると「あれ?」と疑問に思う点が出てきます

 それは、「夏の気配はすぐそこ」という歌詞であったり、「夏の計画を始めようぜ」であったり、「夏」はまだ来ていない、というような歌詞の構成である点です。

 なぜ不思議に思うのかと言うと、関東大会は7月に開催されていることが明らかになっているからです。
 7月は、当たり前のことのようですがもう「夏」ですよね。それなのにまだ夏は始まってもいない、かのような演出をされている

 これはどうしてなのだろう、と考えている時に、シングルス3のがむしゃらエンジョイ リプレイスの海堂薫の歌詞が耳に飛び込んできました。
「夏の気配 堂々来いよ」と言う歌詞です。
 この歌詞でも今まで書いてきたことと同様、まるでまだ夏は来ていないかのような語られ方をしています。と同時に、日本語として少しおかしな歌詞のように感じます。
 その時、ピンときたことがあります。
 今公演での「夏」と言うのはつまり、「全国大会」のことを示しているのではないか、と。
 そして、海堂薫の「夏の気配 堂々来いよ」と言う部分に引っ掛かりを感じたのは、「夏の気配」をそのまま「夏」そのものを指していると思うからですよね。
 しかし、海堂薫が覚悟を見せ流血の試合の中で自分なりのテニスを確立し、自信に満ちた中で「全国大会よ 堂々と向かって来い 俺のテニスを見せてやる」と言うニュアンスを感じ、「夏」🟰「全国大会」と考えるとしっくりとくる部分が多いのです。

 また、全国大会の季節は8月。夏本番といった時期であることももちろんですが、「夏の気配はすぐそこ」と言うのはベスト8への分かれ道に当たって「もうすぐそこに全国大会が見える」と解釈することもできます。
 また六角の「夏の計画を始めようぜ」と言うのは、すでに全国大会行きが決まった六角のチームメンバーたちが「どうやって全国大会を勝ち抜こうか」関東大会を飛び越して全国大会まで伸びている気持ちを示しているのだとすれば、この「夏」への違和感がなくなってくると思います。

 そして「夏」「夏」「夏」とみんなが繰り返すことで、「夏」つまり「全国大会」に対して、私たち観劇している客席も「さあ、早く夏よ来い」とワクワクしてこの先を待つことができるのです。

2.越前リョーマの内面を代替するための「芥川慈郎」と「季楽靖幸」

 実は4th関東氷帝も一度観劇の機会をいただきまして、Blu-rayも購入しました。
 魅力的な俳優陣がいる中、飛び抜けて輝いていたのが芥川慈郎だったと個人的には思っています。

 だからこそ、芥川慈郎はこの六角公演でとても難しい、そして大切な役回りを任されていたのではないかと感じます。
 第一幕では、氷帝のメンバーと共に悔しさを歌い上げたり、ベスト8への進出校について解説したりと、公演だけでは手の届かない部分を楽しく解説する役を十分に果たしていました。特にソロの歌は素晴らしく、聞き取りやすい声質も語りかけるような繊細な歌い方も、氷帝公演にはなかった彼の違う魅力を見せてくれました。

 しかし、芥川慈郎が本公演での難しく重要な役回りを果たしていたのは特に二幕だったと感じます。
 第二幕、場面の中心は六角vs青学の試合となり、他校が入りこむ余地がないように思われた中、芥川慈郎と季楽靖幸だけ、ただ二人だけがその場に存在する他校生として機能します。
 芥川と季楽の2名がそこに存在していることへの意味はとてつもなく大きいものでした。
 もちろん賑やかしとしての意味合いもありますが、この青学と六角の試合において試合のない越前リョーマの内面的な部分に光をあてると言う点で、実に大きな立ち位置だったと解釈しています。

 そもそも、このテニスの王子様という作品では主人公越前リョーマとその父越前南次郎の父子の関係性がとても重要になってきます。

 今回、主人公の越前リョーマの内面に光を当てるために照らし出された存在として、親に支配される子どもとしての面を季楽靖幸が、親の支配を抜け出し自由を得た子どもとしての、つまり天衣無縫としての面を芥川慈郎が引き受けていたように思います。

 シングルス3のがむしゃらエンジョイのソロをなぜこの二人が引き受けているのか。それは、その場にいない越前リョーマのソロを、この2名が代替しているからと考えられます。
 芥川慈郎は「太陽が微笑んでいる」、季楽靖幸は「粘りのテニスを見せろ」と、ソロの歌詞もまさにそのような二人に与えられた面を感じさせます。芥川慈郎は天を見、季楽靖幸は(親から与えられた)テニスを見ているのです。

 この二人だけが第二幕に試合に割って入ることを許されているのは、二人の役割がその場にいない越前リョーマの代わりに、「越前リョーマの内面」を代替する存在であるからに他ならず、そしてここで表現された天衣無縫を今後越前リョーマが体得することの伏線を早くも作っているように感じられてならないのです。

 越前リョーマの内面を含めて演じることが難しいという意味なら、「季楽靖幸」は芥川慈郎と同様、難しい役と解釈できます。
 しかし、私があえて「芥川慈郎」について焦点を当ててここまでの感想を書いてきたのは、「芥川慈郎」が天衣無縫の面を請け負うということは、今この段階で誰よりも天衣無縫に近い者=誰よりも強いものを表現しなくてはならないからです。
 これは、ただ明るい人間性を演じるだけではできず、技術が伴っていなくては表現できない。氷帝公演で実力を見せつけた彼にだからこそ演じられる難しい役どころであったと、私はそう感じました。
 今公演で芥川が一番最初に歌うソロにも「テニスがとっても愛しい」という言葉があります。彼は今公演に限っては、最も天衣無縫に近く、テニスの愛しさや愛を体現するため、六角ベンチや青学ベンチを飛び回っているのです。
 いつか越前リョーマがたどり着く「テニスって楽しいじゃん」のために。


 

4thシーズンの演出について 〜マッシュアップと公演ソングの使い方〜

 最後は、第二幕の演出についてのレビューです。
 第二幕はダブルス1 不二・菊丸vs佐伯・樹 からスタートします。
 この試合はとっても楽しいです。なんと言っても、「菊丸が分身する」んですから! 菊丸の分身でテニスの王子様を知ったという人も多い、まさに名試合です。

 曲目も豊かで、佐伯のソロ曲から、菊丸の分身ソング、その後ダブルスソングと続き、本公演の学校ソングのマッシュアップと続きます。
 学校ソングのマッシュアップについては、4th氷帝公演でも耳にしました。もしかしたら不動峰公演や、ルドルフ・山吹公演でも使用された手法なのかもしれませんが、この学校ソングのマッシュアップは我々観客の感情を盛り上げるのに素晴らしい効果を発揮します

 私たち観客は、心の底からどちらかの学校を応援している、という例は少ないのではないでしょうか。歌によって、セリフによって、その一つ一つで「ああ、六角頑張って」「青学負けないで」と、公演中ずっと自分の心をフラつかせていると思います。
 そのふらついた心にガツンと響くのが、学校ソングのマッシュアップだと氷帝公演で感じました。
 氷帝公演では「青学」「氷帝!」と学校名を叫びながらの、「絶対に負けてたまるか、俺たちが勝つんだ」という想いのぶつけ合いに思わず胸が熱くなりました。

 その演出効果は、今公演でも同様です。
 「想定外 カラフルに染まれ 華やかに喜びの色に」「いつもテニスを楽しもうぜ そうさテニスを愛してるぜ」と続くマッシュアップの歌詞が、とても心に響きました。
 その前の青学の歌詞では「強くなるため痛みを知った 悔しさよありがとう」と歌われているんですよね。スポーツにとって、負けや苦しさという痛みを知ることは強くなる一歩です。悔しさよありがとうという歌詞にも表れています。でもそれだけじゃ、テニス、楽しくないですよね。

 だからこそ、六角と戦うことで「想定外」に心が「喜びの色」に染まっていく様が描かれていることを素晴らしく思うのです。
 どうして心が喜びの色に染まるのか? 六角の子達が歌い上げていますよね。「テニスを楽しんでいるから」「テニスを愛しているから」です。
 氷帝学園の「負けてたまるか」と思いをぶつけ合うマッシュアップとは違う、テニスの楽しさ、テニスの素晴らしさ、スポーツに向かい合うことの喜びを高めあうようなマッシュアップでした。

 この歌がある中で、不二と菊丸に追い詰められていく佐伯と樹が、最後の最後までボールに食らいつき、ねばり、諦めないことがさらにこのマッシュアップの価値を高めていきます。
 だってもう、全国大会の出場は決まっているんです。焦って勝たなければならないわけではないんです。だけど、がむしゃらに、一生懸命テニスを楽しめば、「諦める」なんてことは最初から頭に浮かばない。そんな二人の姿に思わず「頑張れ、負けるな」と思わせる素晴らしい演出でした。

 そしてその一方で、不安も心をよぎります。
 この演出では、この後のシングルス3はどうなるんだろう。ちゃんと盛り上げられるのだろうか

 答えは、公演を見た皆さんならお分かりの通りです。
 この公演の最高潮はシングルス3にありました。公演ソングである「がむしゃらエンジョイ」をリプレイスしたシングス3戦でこの公演を締めたこと、まさに本公演にしかできない最高潮の演出方法であると思います。

 ここで少し氷帝公演の話をさせてください。
 実は、今回の二幕の演出と、氷帝公演の二幕の演出は全く同じです。最後から二番目の試合でマッシュアップがあり、最後の試合で公演ソング(六角公演ならばがむしゃらエンジョイ、氷帝公演ではDrive your dreams)という構成でしたね。
 この二つで公演の最後を盛り上げていく演出方法、実は全く同じことをなぞっているんです。

 しかし、最高潮の魅せ方、演出の仕方においては六角公演が氷帝公演を遥かに凌いでいました
 その原因はもちろん、手塚vs跡部戦にあります。正直なところ、氷帝公演のピークはどうやったって手塚vs跡部戦にあってしまうんです。その後のリョーマvs日吉は、残念ながら消化試合的な魅せ方になってしまった。超有名な「あいつこそはテニスの王子様」の方が、最後に向けてのピークの演出という点においては4thシーズンに勝っていました

 しかし、4thシーズンであのような歌を作ることはできない

 なぜなら4thシーズンは「We are prince of tennis」だからです。
 「あいつこそはテニスの王子様」のように、リョーマの強さだけに焦点を当てることはできないからです。4thでも割り切ってリョーマにだけ焦点を当てることができていれば、もう少し最高潮の演出はできたかもしれません。
 でも4thはそれをしなかった。
 その中でのDrive your dreams!は、もちろん感動しましたし、日吉の「俺たちの物語はまだまだ決まっていない」という歌詞割りにはグッときました。
 しかし、記憶に残っている部分はといえばそれくらいなのです。

 六角公演の「がむしゃらエンジョイ」に関しては、氷帝公演を遥かに上回った盛り上がりがありました
 前述した海堂薫の「夏の気配堂々来いよ 蜃気楼に消さない 俺たちのテニス」という歌詞からは、ブーメランスネイクを身につけシングルスに復活した彼の、自分自身のテニスに対する誇りや自信がありありと浮かびます
 そして追い詰められても追い詰められても笑顔を忘れず「もっと激しく行こうよ!」とさらに前のめりにテニスを楽しむ葵剣太郎からは、六角テニス部の「いつもテニスを楽しもう」という誇りを感じます。

 そして「好きがプレイで伝わってくるぜ六角のテニス」「チーム団結伝わってくるぜ青学のテニス」と、敵校のことを素直に称賛する両チームの姿はフェアプレー精神の塊、そこでマッシュアップの時同様に、私たちの心はまた揺らされるんです。
 「どちらの学校も、勝ってほしい!!」と。
 結末はもちろんわかっています。それでも、その結末に至るまでにどれだけ自分の心が演出によって揺らされたか、そこが最高潮の演出には欠かせないのです。
 その点で、本公演のピークの演出には目を見張るものがあり、もう一度見たいと思わせる力があったと感じました。


総評

 稚拙ながら、ここまで3点に分けて自分なりに注目した点について書いてまいりました。

 本公演については、前述したように本当に晴れやかな、見ていて気持ちのいい内容で、何度でも見たいと心から思う素晴らしい舞台でした。

 本公演は特別だな、というのは何度も感じています。
 地区大会や関東大会ベスト8までの「ここで勝たなければ先へ行けない」というギラついた思いや、全国大会の「ここで負けたらそれで終わり」という焦りもありません
 六角も青学もどちらも全国大会への切符は手に入れて、勝敗に関係なく「心からテニスを楽しみ、プレーができる」という状況はこの公演でしかない、いわばエキシビションのような公演であること。その公演を現地で見ることができた幸運に、とても感謝しています。
 特に青学のキャストさんたちは、毎公演ごとに成長した姿を見せてくれたこと、ケガから復活して元気に舞台の上に立っていることに本当に嬉しい気持ちでいっぱいになりました。
 また、初日から千穐楽まで配信で見ることで、新しいメンバーたちの実力がどんどんついていく姿を見ることができることも、ミュージカルテニスの王子様という公演ならではのことと本当に噛み締めています。

 立海公演の開催がすでに案内されており、この後は「絶対に勝たなければいけない立海」という「テニスを楽しむ」ということができないチームとの試合が待っています。六角公演とは雰囲気もガラッと変わっていくでしょう。
 その中で、成長していく越前リョーマの姿が見られることを本当に楽しみにしています

 それでは、立海公演のチケットが取れることを祈って。

https://www.tennimu.com/discography/tennimu/fourth/2023rokkaku/
本公演のBlu-rayは来年のバレンタイン(2月14日)発売だそうです。こぞって予約しましょう。




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