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「使い古した色」の味


本郷通り沿いに、古い喫茶店「東城」はある。「サイフォンで珈琲を淹れています」が目印。先客がいないときは、私が椅子に座ると同時にクラシックのBGMが流れ出す。

 優しい雰囲気のご夫婦が営んでいて、流れる時間もゆっくりとしている。疲れがたまっているときやボーっとしたいとき、私はここに来てホットサンドとカフェオレを頼むのだ。

 ブラックコーヒーの飲めない私は、カフェオレとチーズケーキの味でそのカフェのレベルが分かる(と、偉そうに思っている)。東城のカフェオレはとにかく「カフェオレ」なのだ。コーヒーとミルクの割合、上品な味。いろんなカフェオレを飲んできたけれど、ここのカフェオレは大のお気に入り。そして私は、砂糖をたっぷり入れる。

 ホットサンドをほおばりながらこじんまりとした店内を見渡す。テーブルや、壁や、サイフォンが使い古した時間を感じさせる色をまとっている。黄色……薄茶色かな。

 人って不思議なもので、使い古した色を見て「汚い」と思うときと「味があって綺麗」と思うときがある。このお店で感じるのは後者。ゆったりと流れる時間、照明の暖かさ、BGM、カフェオレの味、店主さんの佇まい……そういう優しいものたちが「使い古した色」とマッチして、東城のお店の「味」を醸し出しているんだろうなと思っている。


こまごめ通信vol.15(2020年6月号)掲載

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