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呼びたい衝動-チャーリーと14人のキッズ【A】-

4歳になりたての息子は最近、結婚という概念をおぼえた。
「おかあたんとけっこんしたい」と、定番のかわいげを発揮してくれている。さらには「おとうたん、おかあたんとけっこんしないで」と独占欲も惜しまない。

「おかあたんとずっとくらすの。おばあちゃんになってもいっちょにくらすの」と言うのは、私が少し前、息子が大人になったら、お父さんとお母さんはおじいちゃんとおばあちゃんになっちゃうなあと言ったからだ。
そのときは、「いやだ。おばあちゃんにならないで」と言っていたが、その現実は受け入れたらしい。
おばあちゃんになった私のこともちゃんと愛してくれると宣言してくれるなんて、なんて度量が大きいんだ。

息子はただただ、私のことが好きなのだ。私がただ彼の母親であるというだけで、私のことを全肯定的に求めている。

16年前、友人夫婦が子どもの靴を買うのに付き合った。私がまだ親になるなんて、想像もできなかったころ。

あのときの「こうたん」はもう高校2年生。

それでも、どうして人は親になるのだろう?
自ら望んだりするのだろう?

「お母さん」と呼ばれる日が来たら、とちょっと想像してみた。
愛が欲しいという子に、「お母さん」と呼ばれたら。
そのときには、私、泣いちゃうかもしれない。
ただただそれを聞きたくて、お母さんになるのかもしれない。
自分の子どもに会いたくて、親になるのかもしれない。

それ以上のことは、もしかしたら、どうでもよくなっちゃうのかもしれない。

息子が生後4か月の頃、ある朝、目が覚めると、先に起きた息子と目が合った。寝返りもできない彼がこちらに顔を向けて、満面の笑みでこちらに手を伸ばす。

授乳クッションに横たわり、乳房に手を添えて一生懸命に母乳を飲む息子。時折中断し、私の顔を見上げ、にやぁと笑う。
にやぁと笑って、また乳房に向かう。

このアイコンタクトは、きっと母と子だけの秘密。母親だけが知る一生モノの宝物。

「おかあたん」と呼ぶ息子。何度も何度も私を呼ぶ。
私も息子の名前を呼ぶ。何度も何度も息子を呼ぶ。

好きな人には、ただ意味もなく、名前を呼びたい衝動が起こる。でも、かつての私は、あんまり呼びすぎるとうざいかな、なんて思って、その衝動を抑え込んでいた。
今私は、夫に対して、息子に対して、思う存分、ただ意味もなく好きな人の名前を呼べる幸せを噛みしめている。

好きな人が私の名前を呼び、私も好きな人の名前を呼ぶ。

そうだ。私は、好きな人の名前を呼びたいのだ。ずっとずっとそうしたかったのだ。

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