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臭いう◯こと父の尊厳

 今朝自分の出たう◯このせいで、トイレがやたら臭い。しかもそのおかげで俺は父親がどういう人間か知ってしまった。

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 社会人になってから父親の苦労が身に染みてわかる、なんてのはよくある話で、自分もそれを感じていた。毎日毎日夜遅くまで働いて、やっとの思い出手にするのが一八万とか一九万。一人暮らしだとそこから家賃やら光熱費やら食費やら引いて、少しでも貯金に回そうものなら、自由気ままに使えるお金は無い。自分の生活だけでもこんな有様なのに、うちの父は母と兄と姉と俺を自由気ままに生活させてくれた。母は専業主婦で兄弟全員大卒。それだけの稼ぎがあったという事だ。会社の中で歳を重ねれば、年功序列で給料が上がりボーナスも増える。しかしそれでは足りない。父は大企業で部長にまで出世していた。役職がつくと、給料も増える。帰宅が夜十二時を回る日もあったので、給料以上に仕事も責任も増えていたのだろう。もしかしたら、家族のために更に出世しようと努力したのかもしれない。そんな事も知らずに、俺は家でダラダラする父に対して、邪魔だの鬱陶しいだ言ってしまった。そして、う◯こをした後のトイレが臭い、とも。だからこそ働き始めた頃は父を尊敬していた。

 さて、それとは別に、なぜ俺の今朝のう◯こがこれほど臭いか冷静になって考えてみた。ストレスや寝不足で匂いが変わるという話を聞いた事があるが、おそらくそれとは違う。直近で食べた物の影響をモロに受けるという話を聞いた事もあるが、昨日の晩御飯は肉うどんとサラダでありこれほど臭くなるとは思えない。

 しかしよく考えると、一昨日の晩御飯の影響が出ているのかもしれない。金曜日、久々に仕事が早く終わったのにも関わらず、うちの部長から酒の誘いがあった。家に帰りたかった。一人でゆっくり食事をしたかった。ゲームをやって寝たかった。それでも、無理に誘われた。どうせ自分の仕事の自慢だとか、何回も聞かされた面白くない鉄板トークとか、説教とか、とにかく話を聞かされる。散々喋った挙句、「お前もなんか喋れよ! 暗いやつだな! 友達も彼女もいないだろ、お前!」と言ってくる。そっちの喋るターンが長すぎるだけだ。その話を聞かされたのは、焼肉屋だった。食い切れもしない肉を大量に頼んで「若いんだから、自分で食えよ!」なんて。頼んだのはそっちなのに何故俺が頼んだ体になっている。そしてビールだけをやたら勧められて、酒もたらふく飲まされた。三軒目まで付き合わされて、結局解散になったのは終電間際だった。
 どう考えても、この焼肉が主犯格だ。ニンニクのホイル焼きやキムチの盛り合わせも食べた。そりゃこれ程臭くなる。一昨日の晩御飯が消化されて、今朝やっと出てきたというところなのだろう。

 俺は、この匂いをどこかで嗅いだ憶えがある。記憶の片隅にこのう◯この臭いがある。自分の父親だ。俺は父と同じ匂いのう◯こが出た。幼い頃、てっきり加齢と共に体の機能の劣化やらなんやらでう◯こが臭くなるのだと思っていた。本当は、単に食べたものの影響を受けるだけなのだと今日を以って良く理解した。
 父は、母が晩御飯を用意してくれているにも関わらず毎日外で食事を済ませていた。いつも「残業が長引きそうだったから、会社の近くでご飯を食べてしまった」と母に言っていた。その翌日、臭いう◯こをしていた。俺たちの誕生日も特に早く帰ってくる訳でも無かった。いつも「部下と残業していたから、帰りが遅くなった」と俺たちに言っていた。その翌日、臭いう◯こをしていた。

 この先俺に家族が出来たのなら、臭いう◯こは出さないようにしていこう。俺は心にそう決めた。

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