中国のビッグ3: BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)を5分で理解

中国ネット業界に君臨する巨人3社、百度(バイドゥ)、阿里巴巴(アリババ)、騰訊(テンセント)はBATと呼ばれています。
このBATがどの企業を買収したとか出資したとか、ニュースが入ってこない日はほとんどないくらいで、もしかすると最も注目を集めている企業かもしれません。
この前も上海にもう10年近く住む友人と話をしましたが、このBATが中国のテクノロジー業界の中心であり、成功しつつあるスタートアップがこの3社へどんどん買収されている大きな流れがあるようです。
検索もEコマースもSNSも、ほとんど全てこの3社が提供するサービスに人々は依存しており、BATのサービスはまさに暮らしの中に深く入り込むようになっています。

前回の記事でアリババの時価総額にも触れましたが、改めて書くと2018年の1月時点でそのアリババは時価総額世界で8位の約55兆円というびっくりの額。

検索サービスのバイドゥは約9兆円。
アリババの後なのでなんだか小さいように思えてしまいますが、日本の会社でいうとSONYが約6兆円。ということで、SONYのほぼ1.5倍という、ものすごく大きな評価額なのです。

そして巨人の中の巨人、テンセント。
Facebookを抜いて、時価総額約64兆円の世界第5位。

特にアリババとテンセントが大きすぎて、少し感覚がおかしくなりそうなのですが、これが中国IT業界、そして世界を引っ張る3社です。BATの動きはビジネスをする人間なら注目するのが必須となり、今後というか、すでに中国だけでなくまさに世界を舞台に買収もどんどんと始まっています。
中国の未来を予測するためにも、そうしたBATを理解していくことにしましょう。

まずは、こんな驚きの数字から。
BUSINESS INSIDER誌からの情報を掲載。(2017年10月23日の記事
どんっ!

なんと、中国の人がモバイル端末で過ごす時間の75%以上をこの3社のサービスが握っているという状況。
特にテンセント1社のサービスで、55%の時間が消費されていることになります(!)
なんということでしょうか...。

少し突っ込んで見てみる前に、それぞれのサービスが何なのか列挙しておきます。
左は各サービス、右はわかりやすいように似たサービスも一部書いておきます。(ただし、規模が全く違うため同じように比較することはできません...)

■テンセント
Wechat: メッセージアプリ(LINE)
QQ: インスタントメッセンジャー
Tencent Games: ゲーム
Tencent News: ニュース
Tencent Music: 音楽

■アリババ
UC Browser: ブラウザ(SafariやGoogle Chrome)
Weibo: ミニブログサイト(Twitter)
Taobao: CtoCのショッピングモール
Tmall: BtoCのECサイト(楽天)※アマゾンのような仕組みではなく、各企業が出店。
Youku: 動画共有サイト(Youtube)

■バイドゥ
iQiyi: 動画ストリーミング(Netflix)
Mobile Baidu: 検索(Google)

ご存知のように、国の方針として基本的に海外のサービスは入ってきずらいようになっており、このように中国は国内のサービスがほとんどを占めています。そしてこの3社のサービスが、この中国のネットを抑えているといっても過言ではないでしょう。

テンセントはWechatを中心に据えることで、ニュースやゲーム、音楽などのエンターテイメントに繋げる施策をとっています。

一方アリババは、「全てのビジネスをしやすくする」という企業ミッションの元、TaobaoのCtoCショッピングモールや、TmallのBtoCのECサイトなど商売のプラットホームを作っているのがテンセントと異なるところです。

そしてバイドゥは、百度として日本人にもなじみがある検索サービスを提供しており、業界トップをひた走り、検索というネットの入口の一つを抑えています。

それぞれが異なる特長をもっていますが、ただし現在さまざまな事業で金融やECなど重なり合う部分が出てきており、激しくぶつかっている部分でもあります。このあたりは後述したいと思います。

ここで、少しだけそれぞれの会社の生い立ち、歴史をBATの順に見てみたいと思います。

【バイドゥ】
本社: 北京
創業年: 2001年
創業者: 会長兼CEO ロビン・リー(49歳)
2001年当初から検索エンジンのバイドゥを提供し、2005年にアメリカNASDAQに上場。
2017年3月の時点でPCとスマホ合わせてシェアは76.9%、2位のシェンマは8.7%であり独走状態が続いています。
(参考)LIFE PEPPER 【最新版】中国検索エンジン利用者ランキングTOP5+α

【アリババ】
本社: 杭州
創業年: 1999年
創業者: 会長 ジャック・マー(53歳)
最初は企業間の電子商取引(BtoB)をサポートするAlibaba.comからスタートし、その後CtoCのタオバオ、BtoCのTmallへと拡大。
創業者のジャック・マーは元々は大学の講師というキャリア。
2014年にはニューヨーク証券取引所へ2兆5000億円以上の世界最大のIPO。

【テンセント】
本社: 深セン
創業年: 1998年
創業者: ポニー・マー(46歳)
2004年に香港証券取引所に上場。
インスタントメッセンジャーのQQがヒットした後、2011年にメッセージアプリのWechatを開始。


ここからは、BATの中で最も時価総額が高く、ユーザーのモバイル端末での行動の55%の時間を握るテンセントに少しフォーカスしてみたいと思います。

新たな図をどんっ!

こちらも先ほどと同じBUSINESS INSIDER誌からの抜粋。
緑の線がWechatのユーザー数の伸びを示しており、2011年にサービスをリリースし、2013年にはすでにMAU(月間アクティブユーザー数)が2億人。そして、2017年の2Qで9億人超え。今はMAU10億人を超えていることでしょう。
灰色の線が、テンセントがずっと提供しているインスタントメッセージのQQのMAU。元々ずっと高い状態にあり、今は主力がWechatになっています。
下手すれば競合ともなるサービスを自社で開発し、順調すぎるほど順調に成長させてきたことはこれも深掘りすると、その学びになる戦略が見えてくることと思います。

テンセントはこのWechatでユーザーを囲い、そして必要不可欠なメッセージアプリのため離脱させることなく、他のさまざまなサービスにつなげています。
上でも書いたようにニュース、音楽などで、特にゲーム事業は収益の柱として、世界最大のゲーム会社はいまやテンセントになっています。
そんなWechatをハブにしたテンセントの収益構造も下の図から理解できます。

(出典)Bloomberg The Kids Are Alright The power of WeChat will overcome any gaming setbacks.

これは売上の内訳を示しているもので、トータルの売上自体はずっと上がり続けています。
以前はゲーム事業のほぼ一本足だったものが、広告事業が急速に伸びてきており、意図した通りに分散されてきています。
これは2016年のものですので、おそらく今はまたさらに広告事業の割合が高まっていることでしょう。

ここで一番抑えておきたいのは、Wechatがこれだけのユーザーを抱えてハブの機能を果たしていることが、テンセントのさまざまなサービス展開を可能にしているということです。
Wechatのユーザーから他のサービスへ誘導がしやすいため、1ユーザー獲得コストが圧倒的に下がっているために、他企業との大きな優位性を保つことができています。
また、1ユーザーから134ドルの収益が上がっているとのレポートもあり、ユーザーをさまざまなサービスで囲い込むことができるからこそ、64兆円もの時価総額がついている理由となっているのがわかることでしょう。


そして、今最も重要かつホットな部分は決済です。
お金の流れという、この最も大切な決済の部分は、アリババとテンセントが激しくぶつかっています。
今回は書ききれなかったのですが、決済の部分を中心に、その他ECや小売などでもアリババとテンセントがぶつかりあっているところが多くありますので、そのあたりを次は書いていきたいと思います。
今日のBATの概要から、AとTのキング同士の戦いを次回紹介していきます。