論文紹介#1:”Induced Pluripotent Stem Cells and Their Use in Human Models of Disease and Development”

こんにちは。飛び級で大学院に入学し、iPS細胞を使って研究を行っている土屋諒真と申します!

突然ですが、勉強の一環として論文の紹介をしていきたいと思います!

まずは、1週間に最低1本ずつ頑張ります!

(あくまで僕の理解と解釈、見解ですので、間違いがあった際には教えて頂ければ幸いです。また、著作権には細心の注意を払って配慮をしておりますが、何か不備がありましたらご連絡をお願いいたします。)

今日は最初の解説ということで、僕が勉強をしている分野から、”Induced Pluripotent Stem Cells and Their Use in Human Models of Disease and Development” という論文の紹介を行っていきます!

まとめ方とてもヘタクソだったと書き終わって非常に感じています。。次回以降はもっと簡潔に、要点のみ書きだせるように工夫します。。

参考文献
Karagiannis, P., & et al,. (2018, October). Induced Pluripotent stem cells and their use in human models of disease and development. American Physiological Society.

目次
I. 要約
II. 病態モデルの再現
III. 医学的応用
IV. 毒性スクリーニング
V. まとめ

I. 要約

 iPS細胞とはある特定の遺伝子(OCT3/4、KLF4、SOX2、およびcMyc)を細胞に導入することで、細胞がリプログラミング(初期化)され、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力ほぼ無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞のことです。

 人工的に作られた(induced)、多能性(pluripotent)の幹細胞(stem cell)からiPS細胞と呼ばれています。現在では様々な種類の細胞に、ほぼ無限に増殖できる能力から移植用の組織や臓器の原材料にする細胞治療・再生医療や、疾患を再現することで病態解明や創薬スクリーニングへの応用が期待されています。実際にiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞の移植手術(2017年)やiPS細胞由来の角膜上皮細胞シートの移植(2019年)などがすでに臨床的に行われています。この論文では、Induced Pluripotent Stem Cells and Their Use in Human Models of Disease and Developmentと題してiPS細胞への分化方法や病態モデルの再現、応用について紹介がされていました。このnoteでは特に病態モデルの再現と医学的応用、創薬スクリーニングにフォーカスあてて紹介をしていきます!

II. 病態モデルの再現

 iPS細胞の応用例として、疾病の再現があります。iPS細胞は誰の細胞からでも作製することができるうえに、初期化において遺伝子配列が変わることがないため、単一遺伝子疾患だけでなく、多因子遺伝子疾患も細胞の状態で病態を再現することができます。したがってある病気を患っている患者さん由来のiPS細胞を疾病の原因となっている細胞に分化誘導をすることで、患者さんの体外で疾患を再現したモデルを再現することができるのです。そして、先述した通りiPS細胞はほぼ無限に増殖する能力があるため、iPS細胞を用いて再現した疾病モデルに対して疾病に有効な沢山の化合物の検証を効率的に行ったり、異常のある遺伝子のみゲノム編集を行ったりすることなどが可能になります。
一部を抜粋して紹介します。

A. 神経疾患

 本論文では3つの神経疾患(①筋萎縮性側索硬化症(ALS)、②アルツハイマー病、③パーキンソン病)が紹介されていました。

①筋萎縮性側索硬化症(ALS)について

 ALSは運動ニューロンという神経が徐々に死滅することによって進行していき、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく難病指定の病気です。世界で約40万人、日本国内だけでも約9千人が患っているといわれています。
この論文で紹介されている研究では、まずALSの原因の一つとされるTar DNA binding protein-43 (TDP-43)遺伝子という遺伝子の変異について焦点を当てていました。ALS患者の死滅した組織の運動ニューロンにみられるタンパク質であるTDP-43ですが、その変異型TDP-43遺伝子をもつALS患者由来の細胞から作製されたiPS細胞を運動ニューロンに分化させたところ、ALS患者がもつ死滅後の運動ニューロンに特異的な細胞質凝集体が形成されていることが確認できました。なお、近年ではこの細胞質の凝集が細胞死を誘導しているのではないかと考えられています。
 ALS患者に特異的にみられる遺伝子変異としてvesicle-associated membrane protein-associated protein B (VAPB)遺伝子というものもあります。小胞の輸送に関与しているとされるタンパク質ですが、このタンパク質の遺伝子に変異がある患者由来の細胞から作製されたiPS細胞を分化させた運動ニューロンは、通常の細胞に比べてVAPBのタンパク質レベルを増加させることができなかったと報告されていました。ただし、細胞質の凝集体は確認されず、TDP-43遺伝子の変異とは別のメカニズムであると考察できます。(別の報告ですが、この変異型VAPBは細胞死を誘導する因子の発現を上昇させるという研究成果もあるようでした。)
さらに、superoxide dismutase 1 (SOD1)遺伝子の変異もALSに関連しているといわれています。SOD1遺伝子に変異があるALS患者由来のiPS細胞から作製された各種神経細胞の中で、運動ニューロンのみが細胞質の凝集を示すことが確認されているようです。

②アルツハイマー病(AD)

 ADは、アミロイドβ(AB)tauという2つのタンパク質の立体構造が欠落・変異が生じてしまうことが原因となる進行性の脳疾患で、記憶や思考能力がゆっくりと障害され、最終的には日常生活の最も単純な作業を行う能力さえも失われる病気です。
 紹介されている実験では、iPS細胞のADを患っている患者(家族性及び散発性それぞれ2人ずつ中1人ずつ)モデルは健康な人のモデルに比べてAβ、リン酸化tau、そしてtauをリン酸化させるGSK-3βの値が有意に高いということが示されました。さらに同報告にて、Aβを生産する酵素であるセクレターゼのタンパク質分解作用を阻害することでAβの産生量を減らすβ-セクレターゼ阻害剤によってtauのレベルが下げられることが示されました。また、γセクターゼの触媒サブユニットとして機能するタンパク質であるprensinilin-1, -2 (PS1 and PS2)に変異のあるヒトiPS細胞由来のニューロンにおいてもγセクレターゼ阻害剤が異常値を示すAβの値を効果的に改善するということを発見しました。β-セクレターゼ阻害剤がリン酸化tauレベルを減少させるのに対し、γ-セクレターゼ阻害剤はリン酸化tauレベルを増加させることを示すほか、γ-セクレターゼ活性を調節することによってリン酸化tauレベルを低下させることができるという報告もあるようです。

なにを言っているのか、、、という部分もあるかと思いますが、要するに、iPS細胞モデルを使うことで同じアルツハイマー病でも異なる原因を持った患者に対してどの治療が効果的なのかという判断に使えるほか、疾患の進行具合や候補となる治療薬の決定にもつなげることができるのです!

これらの疾病に共通することとして、発症年齢の遅さがあげられます。したがって病態解明のためにニューロンも老化させる研究もされてきたのですが、iPS細胞を用いてそのような実験が進んでいます。一方で、上記で述べたような研究で用いられてきたiPS細胞モデルはニューロンのみで構成されていることから細胞外の要因による研究は不十分とされています。さらに、3Dでの培養をより促進することで、細胞同士の相互作用をより正確に理解し、実際の状態により近い環境を作り出すことができると期待されています。

B. 肝臓疾患

 α1-アンチトリプシン(A1AT)欠損症、家族性高コレステロール血症、グリコーゲン貯蔵疾患1a型、Crigler-Najjar症候群、遺伝性チロシン血症1型など、肝臓に生じる様々な遺伝性代謝障害は、患者由来のiPS細胞から分化した肝細胞様細胞(HLC)を使ってすでに再現され、その機能性やそれぞれの疾患の主要な病理学的特徴などを徐々に解明してきています。
 例えば、A1AT欠損患者から作製されたiPS細胞由来のHLCを用いて、この疾患の原因となる遺伝子変異を操作・修正することで、A1ATタンパク質の構造と機能が回復することが報告されています。また、iPS細胞由来のHLCにおけるオートファジーのタンパク質分解の一連の流れが抗てんかん薬であるカルバマゼピンによる治療で増強されることや、肝臓毒性を導くアセトアミノフェンなどの薬物に対する感受性を増加することを示したという報告もあります。
 尿素のサイクル障害に課する研究もiPS細胞を使って進められています。新生児型であるI型と成人型のII型をそれぞれ分化させ、II型においてはミトコンドリアのβ酸化機能不全やミトコンドリア構造の異常など、疾患で見られる尿素サイクル不全を再現することに成功しました。

C. 血液疾患と免疫疾患

 血液疾患と免疫疾患は血液系に異常があることが原因であるとされており、この疾患の病態理解には造血細胞や疾患を再現した動物モデルが必要不可欠となっています。そこで、患者本人から直接得た細胞は解明に最も適している一方で、入手できる量は限られています。そこでiPS細胞の出番です。

 造血幹細胞数が少ないことが原因となる常染色体劣性小児疾患であるファンコーニ貧血(FA)では、FA患者の線維芽細胞からiPS細胞を正常な表現型を持つ造血系へ分化することに成功しています。
 また、貧血で一般的な遺伝型はβ-thalassemiaであるとされていますが、この疾患の治療法としてiPS細胞の技術が期待されています。実際にβ-thalassemia患者由来の細胞から作製されたiPS細胞モデルを造血前駆細胞に分化させ、マウスに移植したところ、ヘモグロビン濃度が回復し、正常な造血を確認できたとの報告があり、iPS細胞を用いた自己細胞移植療法の可能性が有効であると期待されています。
 TLR3またはUNC93B変異を有する乳児は、単純ヘルペス-1(HSV-1)脳炎を発症しやすいことが知られていますが、中枢神経系における責任細胞自律免疫応答を理解するために、TLR3またはUNC93Bが欠損している先天性免疫不全症の患者からiPS細胞を樹立し、神経細胞系統に分化させたところ、神経細胞およびオリゴデンドロサイトはHSV-1に対する免疫応答の低下を特異的に示したが、神経幹細胞およびアストロサイトはHSV-1に対する免疫応答を示さなかったという報告があります。

D. 心臓病

 MYH7遺伝子(R633HまたはR442G)に変異を有する肥大型心筋症(HCM)患者のiPSCに由来する心筋細胞の調査によって、変異型心筋細胞はより高い頻度でサルコメアの乱れと細胞サイズの増大を示したうえに、これらの細胞で異常なカルシウムハンドリングを再現し、不整脈波形の増加や異常な活性化T細胞核因子(NFAT)シグナル伝達の理解に繋がっています。
 もう一つ、LEOPARD症候群についてご紹介します。PTPN11遺伝子の変異によって引き起こされるRAS/MAPK症候群の一種であり肥大型心筋症を呈するLEOPARD症候群ですが、患者由来のiPSCsから分化した心筋細胞はコントロールに比べて大きく、心筋の肥大化に重要な因子であるNFATC4の核内輸送が亢進し、サルコメア構築が促進されていたことがわかりました。

III. 医学的応用

A.細胞治療

 最も患者さんに直接的な影響を与える応用として、細胞治療や創薬などが期待されています。
 例えば、2017年に報告されたiPS細胞を使った細胞治療には加齢黄斑変性症(AMD)の治療があります。AMDでは、患者は黄斑変性が進行すると視野の中心からぼやけた領域が拡大していきますが、患者自身の線維芽細胞から作製した自家iPSCから網膜色素上皮細胞を作製し、免疫抑制剤を使用せずに網膜下にシート状の細胞を移植した結果、視力は安定しており、この病気の変性作用は抑制傾向にあることが示唆されたとのことでした。
 自分の細胞由来のiPS細胞を使った細胞治療には免疫の拒絶反応が起こらないというメリットがあります。ただし、安全性の確認や分化誘導に長い期間と大きなお金がかかることが課題となっています。現在、健康なドナー由来のiPS細胞株が専門機関でストックされているが、それが必要となった際には移植後の組織拒絶反応のリスクを最小限に抑えるためにHLA(ヒト白血球抗原)ホモ接合ドナーの血液から作製されています。ストックされた細胞株が幅広い人々に供給されることも課題の一つだが、現状ではドナーとレシピエントのHLA型がある程度一致する必要があるが、北欧人では78%マッチすると推定されるほかではアジア人63%、アフリカ人に至っては45%とあまり十分とは言えない状況だとされています。
写真ではドナーの細胞はHLAタイプを考慮すると患者4人のうち1人のみ使用することができると示されています。

 血小板減少症に対しては同種移植(血縁または非血縁ドナーの造血幹細胞を使用)療法が唯一の選択肢になるかもしれないといわれていますが、以前よりその需要が間に合っていないことや、感染症や免疫反応のリスクといったという課題が指摘されていました。これに対しても、iPS細胞を用いることで、課題を解決してどんな患者にも対応できるような血小板を作製することができるといわれています。
 さらに、がんの免疫療法にもiPS細胞が利用できるのではないかと期待されています。がん免疫療法において、従来より”T細胞の疲弊”が課題とされてきました。つまり、腫瘍に結合しても細胞傷害活性が発揮されないということです(T細胞が機能を失った状態ではなく、慢性感染という特異的な環境によって引き起こされる、T細胞の分化がしっかり制御された安定的段階ともいわれています)。このT細胞の疲弊に関して、iPS細胞を用いた研究でT細胞はリプログラミングすることができるという研究結果が示されています。

B. 創薬

 上記の神経疾患に対する創薬の難しさは発症年齢の遅さにありますが、iPS細胞を用いることで患者本人の細胞のみではわからない初期段階における各種疾患の治療薬や予防薬の候補となりうる化合物などを検討することができます。実際に、パーキンソン病では疾患が診断される頃には、原因と考えられているドーパミン作動性ニューロンの50%はすでに失われているとも推定されており、iPS細胞を創薬のためのプラットフォームとして使っており、少なくとも25の神経疾患で新薬候補が発見されています。
 ほかにも全身の骨格筋や筋膜、腱、靱帯などの線維性組織が徐々に骨化し、四肢関節の可動域低下や強直、体幹の可動性低下や変形を生じる疾患進行性骨化性線維異形成症(FOP)においてもiPS細胞を用いた研究でラパマイシンという既存の薬がFOPを再現したモデルマウスで骨化を予防し、治療薬の候補になりうると報告が上がっています。
 iPS細胞を用いた創薬研究は薬剤が市場に出回るまでのコストや時間を大きく短縮できるといわれており、更なる活用が期待されています。

IV. 毒性スクリーニング

 先述のとおり、創薬には長い時間がかかりますが、そのプロセスもとても大変なものとなっています。安全性という観点から細胞や動物での実験でよい結果が得られても、ヒトに対する臨床試験で副作用などの問題が出ることも少なくありません。開発の初期段階からヒトに対する効果や安全性が予想・確認できれば良いのに、、、というところで期待されているのがiPS細胞です。医薬品規制調和国際会議という世界的な開発の不必要な遅れや新薬品の入手可能性を排除し、品質、安全性、効能、および公衆衛生を守るための国際会議において心筋細胞を対象とした医薬品のヒト試験に対するiPS細胞利用の承認も間近といわれています。
 実際に、例えば心筋細胞におけるイオンチャネルのふるまいの研究がiPS細胞を用いて進んでいます。心停止や死亡に至ることもあるTorsade de Points(tdP)のような不整脈の発生前に観察されるQT間隔延長ですが、その評価指標となる細胞外における電位持続時間(脱分極時の Na+電流ピークから再分極時の K+電流のピークまでの時間)は、iPS細胞由来の心筋細胞を用いて精度83%とという正確な予測を出すことに成功しています。

V. まとめ

 2006年に初めて報告されたiPS細胞ですが、現在までに様々な研究が行われ、大きく進歩してきました。実際にiPS細胞を用いて解明された疾患の原因や、治療薬臓器移植など、成果はたくさんあります。各種研究においてもコストや時間を大幅に短縮できることも期待されており、これまで実現されてこなかった医学の今後の発展も待ち遠しい分野となっています。一方で、初期化メカニズムが完全にわかっていないこと、分化誘導した細胞にガン化のリスクがあること、分化した細胞のクオリティにばらつきが生じる可能性があることなど、課題もたくさんあることからそれらをクリアしていくことも医学の後押しには急務とされています。

 僕自身、大学生のころからiPS細胞を用いた研究に携わらせていただいており、今後も続けたいと思っています。世界の医療を後押しできるように、再生医療やiPS細胞に関する情報を積極的にキャッチアップし、成果を出せるように励みたいと思います!
とても長くなってしまいましたが、読んでいただきありがとうございました!
 次回の更新ををお楽しみください!

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