SS&SF 友達が落ちた日 Jelly Beansシリーズ

あらすじ
クラスメイトに馴染めそうに無いトムは、母親の手伝いで仮想空間に入る。そこで子供を見かけた。

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クラスには男の子が二人と女の子が四人の構成になる。その中でターニャと言う子は孤立をしていた。僕は自分の人工授精の話はせずに溶け込もうと苦労しているが確かに難しい。共通の認識が無い。人工授精の子達は、暗黙知としての知識の基盤がある。相手が判る事は僕も判るし、相手が判らない事も判る。しかし自然交配の子供達は統一感がまったくない。仮想空間の中のオブジェクトと同じだ。

「ターニャは、何しているの?」僕は声をかける。ちらりと僕を見るが興味無さそうに紙の本を読んでいる。「本の方が面白い」邪魔しないでくれと言いたいのは理解したので「じゃあまた」と言って集団に戻る。

「あの子はいつもあんな感じね」「本好きなんでしょ」僕が居た施設の子供達は自由に行動はするが基本は団体行動が得意だ。遊ぶ場合は遊ぶし、一人になる場合も一斉に同じ行動をする。

レポートに書けるだけの情報を集めるとまた家に戻る。「孤立している子との、コミュニケーションも必要だな」明日はターニャとのコネクションが必要だろう。どのような形にするか頭の中で整理した。

「今日は何を食べる?」アメリアはロボット宅配で食事を予約するのが好きだ。「中華にしよかな」僕は「チャーハンは、おいしいですね」と言うとアメリアは嬉しそうに「じゃあ、餃子ラーメンチャーハン定食にしましょう」と二人分を頼む。体に悪そう……

ダイブ室で夜の仕事を始めていると、前回と同じように視界に子供が映る。もしかしたらサポートAIのNPCかもしれない。僕は気にしないようにした。「こんにちわ」気がつくと幼い女の子が声をかけてきた。

「こんにちわ」マイクで直接会話をする。メッセージと違い、範囲内に居る人との対話はできる。「あなたは……新人さん?」どうやら先輩のようだ。「はい、最近ここでデバックしてます」彼女は、少し眉をひそめると「もっと優先度の高い場所あるわ」と手を引っ張る。

見せられたのは形が崩れている壁だった。「ここは危険なの、塞いだ方がいいわ」リストに無い場所だ。「判りました、ここをリストに追加します」ふと見回すと彼女が居ない。

「トム、新しい不具合を追加したの?偉いわ、壊れたオブジェクトに接触すると影響が出そうね」アメリアは、僕にそこの修復を頼む。時間がかかりそうなので、禁止区域にして対応する事にした。数日はかかるだろう。

朝になりクラスに入ると友達がざわざわしている、「何があったの?」「ターニャが教室を飛び出したの、クラスでケンカがあって……」どうやら男子生徒のヒューイとケンカになったらしい。「ヒューイったら酷いのよ、本を取り上げて」「ちょっと見せてもらっただけだよ」ヒューイが弁解をする。僕は校内を探す事にした、人工授精の子供達の間でもケンカはある。その場合は当事者同士ではなく第三者が仲介をすれば誤解を解きやすい。

「ターニャ」閑散とした学校の中を探す。廊下を歩いていると科学教室の扉が開いている、中に入ると教室からベランダへの扉も開いていた。「ターニャ、居る?」彼女はベランダの手すりを触っている。近づくと僕を見る。空虚な目は、何も見てないように感じる。

「転校生さんは幸せ?」精神的に落ち込んでいるようだ。「何も面白く感じない、お父さんもお母さんも私に興味が無い」手すりから身を乗りだすとそのまま頭から落ちる。誰も居ないベランダを僕は凝視していた。

アメリアが僕を迎えに来ると自動運転の車で自宅に戻る。「数日は休んで」やさしく自室のベッドに寝かせてくれた。大騒ぎの学校でいろいろと聞かれたがショックで何も話せなかった。人の死を初めて見る僕は動揺をしている。誰かと居たいと感じる、昔の仲間と話せるだろうか。

深夜に、アメリアの仕事が終わると、僕はダイブ室に入る。特殊なツールを使えば、政府機関のシステムに侵入できる。偽装オブジェクトの中にツールを埋め込むとダイブする。なるべく誰も来ない場所、そうだ、あの不具合の場所に行こう。僕が禁止区域の場所に行くと、小さな子供が僕を見ている。

「どうしたの?人間は寝てる時間じゃないの?」僕は不思議に感じる。NPCなのだろうか?AIとしては判断力が高い。でもここで、違法ツールを使うのはまずいと感じた。AIでも通報する可能性もある。「あの……友達が自殺をして」僕は彼女に今日の出来事を話をした。

「私はマーサ、あなたトムね?覚えたわ」小さな娘は僕の隣にちょこんと座ると少しだけ考えていた。「あなたを助けられるわ」「え?」「その代わりに私たちも助けて」彼女は、交換条件を話す。

続く


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