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collection《短編小説》

彼の部屋に初めて招かれた日の前日は、緊張と楽しみから中々寝付けなかった。

彼と付き合って、そろそろ三ヶ月になる。

いつも会う時は外。
私の部屋にも上がらないし、勿論彼の家にも呼ばれた事がなかった。

私にあまり興味が無いのかな…そう不安が過ぎっていた頃だったから、嬉しさは言葉に表せない位だった。

洋服を新調して、ついでに靴、バックも…。
香水だけは、お気に入りのロリータレンピカ。
これは、私の御守り代わりだから。

彼にも、この香りは君に似合っているよ、と褒められた。

当日、彼の家に行く途中に人気のパティスリーに寄って、チーズタルトを買った。

ここのチーズタルトは好評で、いつもすぐ売り切れてしまう。
今日は何だかツイてる気がする。

高揚感を抑えながら、インターフォンを押した。
一度目では反応がなく、部屋を間違えたかと不安になった。
もう一度押そうとした時に、ドアが開いた。

いつもの美しく整った彼がそこに居た。
「いらっしゃい。どうぞ上がって」
微笑みながら私を招き入れてくれた。

「そこに座ってて。今紅茶を入れるから」
彼がキッチンへと向かう。

色白で身長が高く、正直私は彼とは釣り合って居ない事も知っている。

デートをしていれば、必ず彼に視線が注がれる。
私はその度に萎縮してしまう。
それでも彼は「君だから良いんだよ」と、耳元で囁く。

紅茶を運んで来た彼と、チーズタルトを食べながら少し緊張しながらも、お喋りをしているこの時間がずっと続いて欲しいと願った。

一時間位してから、私は睡魔に襲われた。
「ごめんなさい…何だか急に……眠気が……」
彼の薄茶の瞳が「良いよ。ベッドに運んであげるから。安心しておやすみ」

どの位私は眠っていたのだろう…。
見慣れない部屋。アンティークの家具に座る、等身大の少女や私と歳が変わらない様な、美しい人形が様々なポーズで遠くを見つめている。
精巧な創り………いや、違う!
これは、これは………
私は声にならない悲鳴を上げた。

その時、斜め前にあった真鍮の姿見に美しいメイクと、髪を整えられた球体関節人形が写った。

服はビスクドールが着ているドレスと同じ、フリルがたっぷりあしらわれた贅沢な物。
この人物は……

カチャ…

「どうだい?僕のコレクションになった感想は?」
彼はあのヘーゼル色の瞳に、笑みを浮かべながら聞いてきた。
「そうか、君はもう喋れないんだね。大丈夫だよ。もう少ししたら、完全に美しい人形になるから。何も考えられなくなるよ」
そう言って、私の唇にキスをした。

「君は完璧だ。今までの中で最高傑作だよ」

[完]


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