地球最初の人間を、俺たちが作った

ここは東京国際FEEL大学研究所本部である。

研究員カワサキ「よしっ」
研究員ワタナベ「ついに、完成だ。」
研究員カワサキ「うむ。これは現段階での我々の科学、それから考古学技術を注ぎ込んだ、いわば人類の英知の結晶である。」
研究員ワタナベ「その通りだ。カワサキ。」
研究員ワタナベ「これまでの復元には発掘場から採掘されたごく一部分の骨を継ぎ接ぎし、足りない部分は言ってみれば想像力で補ったものだった。それが「複製」のこれまでの概念だった。」
研究員ワタナベ「だが、これは違う。」
研究員ワタナベ「我々はごくわずかな骨からもD N Aのデータを抽出し、明文化する技術を身に付けた!」
研究員カワサキ「その通り。」
研究員カワサキ「そのおかげで複製の根拠を「ホネ」のみに頼ることはなくなった。」
研究員カワサキ「これは画期的だ!」
研究員カワサキ「「DNA」はものすごい力を秘めている。」
研究員カワサキ「DNAからは性別だけでなく個人の性質までも取り出すことが出来る。」
研究員カワサキ「例えば髪質。それから眼の色はもとより、シミが出来やすかったり風邪を引きやすい、血液型なんてことも分かってしまうのである。」

※北海道新聞8月8日朝刊参照

研究員ワタナベ「そうだ。」
研究員ワタナベ「意外とおばあちゃん子だったり夏、プール学習の時に家から水着を着て来るタイプだったり、「苦髪楽爪っていうのに、お前髪の毛生えるの早くない?」みたいなのもな。」
研究員カワサキ「そのデータの集積がここにある。」
研究員ワタナベ「(突っ込んでくれ…!)」
研究員ワタナベ「ここまで一年かかった。長かったな。」
研究員カワサキ「ああ。」
研究員カワサキ「よし。」
研究員カワサキ「スイッチ、ポン!」
研究員ワタナベ「(え?!」

ウイーンウインウインとコンピュータがうなり始める。研究員二人がパソコンの画面を前に目を見張った。
そして、目の前には「チキュウサイショ原人」の素顔(東京国際フィール大学研究所考察)が現れた!

研究員カワサキ「?!」
研究員ワタナベ「???!!」
研究員ワタナベ「こっこれは…!」

ガチャッ

研究所長オサムシ「ただいま。」
研究員カワサキ「ガバァ!」
研究員カワサキ「所長。お疲れ様です。」
研究所長オサムシ「お疲れ様」
研究所長オサムシ「ワタナベくん。神奈川医学研究科からのメールに目を通してくれたかな。」
研究員ワタナベ「はっいや、あの…」
研究員ワタナベ「えと、その、」
研究員ワタナベ「特に問題はないと言うことだそうです」
研究所長オサムシ「なるほど。」
研究所長オサムシ「どうした。カワサキ。何故パソコンのウインドウの前でジタバタしておる。」
研究員カワサキ「なんでもありません。」

プルルルルル!

研究所長オサムシ「おっ。前田研究所からの電話かな。」
研究所長オサムシ「もしもし?」
研究員カワサキ「…」
研究員ワタナベ「…」
研究員ワタナベ「何故だ?!」
研究員ワタナベ「何故、「チキュウサイショ原人」の顔が所長と瓜二つなんだ。」

パソコンには、原人、もといオサムシ所長の顔が映し出されていた!!

研究員カワサキ「ワタナベ。なんかしたのか」
研究員ワタナベ「まさか!!」
研究員カワサキ「俺も頭をフル回転させて考えたが、どうしても心当たりがない。」
研究員ワタナベ「ちょっと待て。」
研究員カワサキ「?」

ワタナベは眼鏡を取り外し、おもむろにハンカチを取り出した。そうして眼鏡を念入りに拭いて、顔にかけ直す。

研究員ワタナベ「これでよし。」
研究員ワタナベ「眼鏡を吹く時間だった。」
研究員カワサキ「DNAと言ってもそれは予想値に過ぎない。我々が試みたのは千分の一を五万分の一くらいまでの確率に高める試みに過ぎなかった。」
研究員カワサキ「せっかく、努力しても、それは小手先だった、ってことか…」
研究員カワサキ「「お前自身の小ささをよく見てみろ。」何か地球からそう言われたような気がしたぜ。」
研究員ワタナベ「ああ。」
研究員カワサキ「まさか、DNAに所長が触れて、細胞がごたまぜになったってことが…」
研究員カワサキ「まさかな。」
研究員ワタナベ「そんなことあるわけないだろう。」
研究員ワタナベ「細胞の取り扱いに対しては研究所に入りたての頃みっちり教わっただろう。」
研究員ワタナベ「それも所長から。」
研究員ワタナベ「我々はプロ中のプロだぞ。バスケットマンがドリブルを、研究員が細胞の取り扱いを間違えるなんてこと、あるはずがない。」
研究員カワサキ「上手いこと言うな。」
研究員ワタナベ「ウフッ」
研究員カワサキ「それもそうだ。それに偶然細胞が紛れ込むなんてこと、唐突にここで空から降ってきた精子が落っこちた可能性しか考えられない。」
研究員カワサキ「混ざりようがない。」
研究員ワタナベ「ああ。それは俺も考えた。」
研究員カワサキ「(空から?)」
研究員ワタナベ「でも似過ぎてないか?」
研究員ワタナベ「髪の毛はくせがあるからパッと見分からないけど、この顔どこから見ても所長だぜ。」
研究員ワタナベ「所長の妹とか孫とかおばあちゃん、てわけでもない。これはまるで…「所長そのもの」だぞ?!」
研究員カワサキ「ブフーッ!」
研究員ワタナベ「?!」
研究員カワサキ「ちょ、やめてくれ!」
研究員カワサキ「冷静に考えると何かおかしい…!何故、チキュウサイショ原人が、ウチの所長に…てかチキュウサイショって何だよ?」
研究員カワサキ「ウフッふふふ」
研究員ワタナベ「た、たしかに…」
研究員ワタナベ「一年かけて、俺たちは所長を…この手で生み出そうとしていたのか…?!」
研究員カワサキ「やめろ!」
研究員カワサキ「俺を煽るな!」
研究員カワサキ「ウハハハハハハ!!」
研究所長オサムシ「どうした。騒がしいぞ。」
研究員カワサキ「!!!」
研究員ワタナベ「すっすみません」
研究員ワタナベ「カワサキくんが地球に、もといツボにはまってしまったみたいです。」
研究所長オサムシ「何のだ?」
研究員カワサキ「(このばかやろう)」
研究員カワサキ「所長、なんでもありません。」
研究員カワサキ「ちょっと、シフトキーと「れおにわは」を押したらトリップするコマンドをワタナベくんが開発してしまいまして。」
研究所長オサムシ「ふむ」
研究所長オサムシ「勉強熱心なのもいいが、お遊びもほどほどにな。」
研究員ワタナベ「あいすみません。」
研究員カワサキ「(コイツ、サザエさん読者か…?)」

バタン!

研究員ワタナベ「とはいえ、これを3Dプリンタで合成して、その上カラフルな粘土で色付けしていくのが我々の次の仕事だぞ。」
研究員ワタナベ「どうする。」
研究員ワタナベ「このままで行くのか?」
研究員カワサキ「うーむ」
研究員カワサキ「わかった。じゃあこうしよう。吟味してたデータをもう少し考慮し直せばいい。」
研究員カワサキ「俺たちがDNAから採取したデータは10000件。その中でこのチキュウサイショ原人に使用されたものは実は100あまりに過ぎない。」
研究員カワサキ「偶然(多分)所長に似てしまったのは確率の問題だろう。どうしてこんなことが起きたのかは分からないが、もう一度組み替え直そう。」
研究員ワタナベ「そうだな。」

3時間後

研究員カワサキ「ハア、ハア、何故だ…」
研究員カワサキ「何故、どうしても所長のニュアンスを消し去れないんだ…?!」
研究員カワサキ「ぷぷっ」
研究員カワサキ「うははは!」
研究員ワタナベ「けっこう、しぶといな。」
研究員ワタナベ「分かった。思い切って「蓄膿」のデータを消すか?」
研究員カワサキ「バカな!これは「鼻」を合成する上で重要なデータだぞ!」
研究員ワタナベ「じゃあ、「うるしかぶれ」はどうだ」
研究員カワサキ「アレルギーは感覚器を位置づけする上で重要なデータだ。消せない!」
研究員カワサキ「むしろこっちだ。「涙もろい」これは俺たちの希望的観測を織り込み過ぎたかもしれない。」
研究員ワタナベ「わかった。」
研究員ワタナベ「削除キーぴっ」
研究員ワタナベ「?!!?!??」
研究所長オサムシ「そういえば君たち。」
研究員カワサキ「あはっは、はい?!所長、何ですか?」

ウインドウをバスケットのディフェンスのごとく隠すカワサキ。何を隠そうカワサキは高校時代、バスケット部で主将を務めていたことがあるのである。

研究所長オサムシ「君達が一年かけて取り組んでいる「チキュウサイショの原人」だったかな…あの集合知が今週出るはずだったじゃないか。」
研究所長オサムシ「新聞社各社からの問い合わせも来ている。」
研究所長オサムシ「どうだ、進捗は。」
研究所長オサムシ「チキュウサイショの原人の顔は複製できたか。うん?」
研究員ワタナベ「…」
研究員ワタナベ「所長。」
研究所長オサムシ「?」
研究員ワタナベ「「チキュウサイショの原人」ではなく「チキュウサイショ原人」です。」
研究員カワサキ「(何言ってんだ。まじめに…)」
カワサキはまだ、ディフェンス体制にいる。
研究員カワサキ「(てか、やばいぞ。この状況。やばい俺、何故か冷静なワタナベ、迫りくる所長。俺の原因不明の笑いのツボが爆発しそうだぜ。)」
研究員カワサキ「…」

ぷ〜ん

研究員ワタナベ「バシッ!!!」
研究所長オサムシ「?!」
研究員ワタナベ「所長。カナブンです。」
研究員カワサキ「(潰さないで採る、が原則だろうが…!」
研究所長オサムシ「すまんな。」
研究所長オサムシ「(ティッシュでカナブンを採る所長)」
研究員カワサキ「(何やってんだ、こいつら…」
研究員カワサキ「いや、たしかに所長は良い人だが少し鈍感なところがある…どうして俺みたいに「ウワッきもちわるい!」ってならないんだろう、そういえば俺が研究所に入ってきた当初も、所長は…」
研究所長オサムシ「このカナブンまだ生きてるぞ。」
研究員ワタナベ「本当だ。サッ」
研究所長オサムシ「ウム?!」
研究員ワタナベ「この運のいいカナブンのDNAを合成して、初音ミクに呪いをかけたようなデザインを作ってみましょうか。ふふ」
研究員カワサキ「(いや、何考えてんだ俺は…?!てかなんでこいつら「まじめ」なんだ?!いや、俺がまじめでこいつらが不まじめなのかもしれない、この状況からすると…」
研究員カワサキ「(ワタナベがカナブンをしまった…!俺の前に置いた…!」
研究員カワサキ「(半分潰れてるじゃねえか…!」
研究員カワサキ「ウフ、ウフフ」
研究員カワサキ「(クッ!やばい…!」

カワサキは今、カイジの綱渡りのシーンを思い出していた。

二人は所長を尊敬していた。それに、恩もあった。金のない研究員は一人暮らしの家へ戻ると電気も水道も流れてないなんてことはよくある。そういう時、決まって頼りにするのはこのオサムシ所長だった。だからこそ、こんな状況は考えてもみないこと、いや「起こってはいけないこと」だったのである…!

研究員ワタナベ「所長。データは完璧に合成出来ました。あとはこれにカラフルな粘土で肉付けをして行くだけです。」
研究員ワタナベ「新聞社各社には完成図を来週中にお披露目できると思います。」
研究所長オサムシ「ほほう。」
研究所長オサムシ「何しろ一般人はかたちあるもの、わかりやすいものを喜ぶからな。」
研究所長オサムシ「これで我が研究所にも投資しようとする企業がもっとより、現れるかもしれん。」
研究所長オサムシ「金、金…そんな話はしたくはないが、しかし先立つものがなければ研究所が存続しないのも事実。」
研究所長オサムシ「君達を信頼している。」
研究所長オサムシ「データの信頼性でいうとうちは、日本一だ。」

シーーーーーーンッ!

(カナブンが、カメラのフィルムケースの中でうなる)

研究員カワサキ「…」
研究所長オサムシ「君達を信頼しているぞ。(ポン。と二人の肩を叩く)」
研究所長オサムシ「楽しみにしているぞ。」
研究員ワタナベ「はい。」

ガチャッ

ざわざわ…ざわざわ…

研究員ワタナベ「…お前の顔をな!!」
研究員カワサキ「やめろ。」
研究員カワサキ「しかし、もうこれで行くしかないのか?」
研究員ワタナベ「「鼻の形が下からみるとハート型」削除」
研究員ワタナベ「ピッ」
研究員カワサキ「…」
研究員カワサキ「ハア」
研究員ワタナベ「カワサキ。俺はもともとこう考えていた。」
研究員ワタナベ「科学といえども、それは人間の使う道具に過ぎない。」
研究員ワタナベ「そこには我々の希望的観測が、期待値が、ズレがどうしても生じる。」
研究員ワタナベ「「完璧なもの」なんてこの世には存在しない。」
研究員ワタナベ「俺たちは「真実」じゃない。」
研究員ワタナベ「あくまで、俺たちは真実を追う者だ。」
研究員カワサキ「ああ。」
研究員カワサキ「わかってるさ。少なくともそれがあるのは「俺たちの」
研究員ワタナベ「「俺たちの頭の中にある。」」
研究員カワサキ「おい。」
研究員カワサキ「自身の調子が上がってくるついでに俺もろともシフトレバーのように切り替えるな。」
研究員ワタナベ「俺たちがしたことはおそらく100年後、いや50年後にあっさりと塗り替えられるかもしれんな。」
研究員ワタナベ「科学なんてそんなものだろ。」
研究員カワサキ「…」
研究員カワサキ「「なんでもこだわり過ぎない。」黄金の中庸、ってことか…」
研究員ワタナベ「ああ。」
研究員ワタナベ「俺は別に、絶望してるわけじゃない。」
研究員ワタナベ「これで行こう。」
研究員カワサキ「ああ。」
研究員カワサキ「自分の信じるもの、それは俺自身じゃない。俺たちの手から生み出される得体の知れないパワーだ。」
研究員ワタナベ「ああ。」
研究員ワタナベ「行け。」
研究員カワサキ「スイッチ、ポン!」

…………

翌日

研究所は朝になった。人気のいない研究室Bに、粘土造形を担当するために研究員デルタが出社した。

研究員デルタ「(何よ、これ…?」
研究員デルタ「「デルタさんへ。驚かないで下さい。これは慎重にデータを吟味した結論です」って?」
研究員デルタ「てか、粘土付けする方の身にもなってみなさいよ!」

★…1000年後、古代博物館において

無邪気な子供「これが、チキュウサイショ原人かあ!」
無邪気な子供「何か、おじいちゃんに似てない?」
オサムシ丸「ふふ、まさか。」
オサムシ丸「たかし。人間は歳をとると総じて猿に似てくるものだぞ。」

チキュウサイショ「猿じゃないっつーの。」

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