母さんが死んで、父さんが猫になった①

僕たちのとうさんが猫語でしかしゃべらなくなった。

僕は17歳。高校二年生の大和タケル。

事の起こりは10月2日。その日、母さんの告別式が終わった。

僕と妹、父さんの三人は葬儀を終えるので疲れ果てて、三人とも特に中身のある話なんてせず何日間は泥のように眠った。

その一週間後

父さんが………

ミチヨ「えっ?何?一体どういう事?」

タケル「俺だってわけわかんねーよ。帰ったらこうなってたんだから。」

タケル「父さん…」

父さん「…」

タケル「父さん。通帳は一体どこにあるんだよ?」

父さん「にゃ」

ミチヨ「ひっ」

ミチヨ「お、お父さん?」

父さん「にゃーん」

ミチヨ「??」

ミチヨ「どうしちゃったの?」

タケル「分からない。とにかく帰ったらこうなってたんだ。」

タケル「昨日までは、普通の父さんだったのに…」

父さん「にゃん」

ミチヨ「ぞぞっビクビクっ」

父さん「にゃんにゃん、にゃん」

タケル「父さん…一体どうしたんだ?」

ミチヨ「呪いよ。」

ミチヨ「母さんの呪いよ…」

タケル「はあ?!」

ミチヨ「母さん、31で死んじゃったじゃない。若くして私たちを産んで、苦労して育てて、何も楽しいことしないままで死んじゃったじゃない。」

ミチヨ「悔しかったのよ、母さん。」

ミチヨ「私たちのこと羨んでるのかもしれない。」

タケル「…」

あたりを見回すタケル。父さんと目が合う。

父さん「真顔」

タケル「いや、」

タケル「よくわかんないけどとにかく今は、父さんをどうするかだよ。」

タケル「ミチヨが帰ってくる前からこんな感じで、らちがあかないんだよ。まず、給食費の振込が滞ってるし、母さんしか知らない手続きやカードの切り替えとか、やることが山積みなんだから」

タケル「立て直さないとな。生活を。」

父さん「にゃんにゃん」

ミチヨ「(怖っ…」

タケル「ミチヨは部活だカレシだって何も考えず生きてるかも知んねーけどなあー」

父さん「にゃん、にゃんにゃんにゃん」

タケル「ほら父さんだって「そうだそうだ」って言ってるぞ。」

ミチヨ「言ってないわよ。」

ミチヨ「でも、見た目も雰囲気もいつもの父さんじゃない?」

ミチヨ「中身が変わったのかしら?中身がほんもののネコになっちゃったのかしら。」

ミチヨ「ちょっとまって。」

ミチヨ「ガサガサっ」

タケル「何、それ?」

ミチヨ「にぼしよ。」

ミチヨ「ほら。おたべ」

にぼしを差し出すミチヨ。それを、受け取る父さん。

父さん「くんくん。」

父さん「…???!?!?んん???」

ミチヨ「ごくり」

父さん「パクっ」

ミチヨ「食べたわ。」

タケル「…で?」

ミチヨ「ほらね。」

ミチヨ「煮干しには栄養がある、ってことよ。」

ミチヨ「笑」

タケル「笑 じゃねーだろ」

父さん「ボリ、ボオリボおりボリッ」

タケル「めっちゃ、音鳴ってるし」

タケル「イヤ、でも食べる前に「what is this〜?!」みたいな顔してたぞ今。」

タケル「「なんや、これは〜?!」みたいな」

タケル「爆」

ミチヨ「しーん」

父さん「にゃん」

タケル「とにかく」

タケル「俺は通帳の場所がわかんねーと困るんだよ!」

タケル「父親はとりあえず精神科に連れてくとして!」

タケル「今!今どうすりゃいいんだよ!」

ミチヨ「言葉は分かるのかしら?」

父さん「にゃん。」

タケル「おっ」

タケル「なんだか分かりそうな反応をしたぞ。」

人差し指を突き上げて立ち上がり、部屋を見渡す父さん。

タケル「ん。なんだ?」

ミチヨ「分かった!ヘレンケラーよ!」

ミチヨ「点文字のように!人差し指で指し示して教えてくれるのよ!」

父さん「すたすた」

ミチヨ「父さんはやっぱり私たちの父さんだわ!猫なんかじゃなくて、言ってること分かってるのよ!」

父さん「ぴっ」

父さんの指し示した先には浄水器のカートリッジ交換ランプが点滅している

父さん「ぴっ。ぴっ。」

ミチヨ「「こ…うかん、しろ…」?」

タケル「分かったから。」

タケル「早くして。分かるんなら」

父さん「すたすたすた」

父さん「ぴっ」

ミチヨ「カレンダーの前で止まったわ!」

ミチヨ「28…15…それから、一日…?!」

タケル「いや数字」

タケル「文字。文字にしてくれ」

ミチヨ「分かったわ!雑紙の収集日ね!」

ミチヨ「タケル!父さん分かってる!言葉を分かってるみたいよ!」

父さん「ぴっ」

ミチヨ「「燃えないゴミは27日だけ?!」」

タケル「言ってねーだろ」

父さん「にゃん。にゃんにゃんにゃんにゃん」

父さん「にゃんにゃんにゃんにゃんにゃん」

父さん「にゃ、にゃにゃにゃにゃにゃん」

父さん「にゃん?にゃんにゃんにゃん」

ミチヨ「「いつも忘れるから気を付けてよ」ですって。」

タケル「いや、明らかにもっとたくさん話してただろう。」

タケル「いいんだよ今、その情報は!!」

タケル「カレンダーはいいから通帳出してきてくれよ。」

タケル「中身が人間ぽいことは分かったけど、双方向のやり取り出来ないと、意味ねーだろ。」

父さん「スタッ」

父さん「すたすたすたっぱっ」

父さん「にゃん」

タケル「あっ!通帳!」

タケル「ははは!ありがとう父さん!」

タケル「あー良かった。俺記帳してくるわ。」

ミチヨ「ちょい待てや」

タケル「ん」

ミチヨ「父さん、じゃあ耳もあたまもおかしくないみたいね。」

タケル「あっ。ああ、そうだな。」

タケル「と、考えると言葉の方だけがいかれちゃってんのか…」

ミチヨ「(いかれ…)」

タケル「そうなのか、父さん?」

父さん「にゃん」

タケル「いや、イエスみたいな顔で頷いてんじゃねーよ。」

ミチヨ「爆」

タケル「俺たちはどうなるんだよ?!」

タケル「仕事は?!」

タケル「喋れよ!喋れるんなら!」

父さん「…」

父さん「…」

父さんが口を開こうとすると、パリーン!と何かが台所で割れる音がした。

父さん「にゃんにゃんにゃんにゃん」

父さん「にゃーん…」

ミチヨ「うーん」

ミチヨ「なんだか事情があるのかもしれないわ」

ミチヨ「それも超次元的な。」

ミチヨ「それか…」

タケル「まあ、とにかくいったん精神科に連れてくしかないな。」

タケル「俺は振込と記帳、それからツタヤにビデオ返しに行ってくるぜ。」

タケル「じゃあまたな。」

ばたんっ

ミチヨ「あっ」

ミチヨ「行っちゃった…」

ミチヨ「チラッ」

父さん「…」

ミチヨ「あの、煮干し、食べますか?」

父さん「にゃん。」

続く!(勝手に)




これは、pixivで運営されているpixiv chatというチャット式小説を作るサイトにて数年前に執筆&公開していたものです。今回pixiv chat自体が運営終了するとのことで、サービスの一環としてテキスト化していただいたものを載せています。

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ポエム、詩、短歌などを作ります。 最近歴史に興味があります。