見出し画像

ホーキング博士の伝記映画『博士と彼女のセオリー』イギリス、2014年

大学生のときに『ホーキング博士 宇宙を語る』を読んだはずなのに、内容すっかり忘れています。きっと、全然理解できてなかったんですね。その後、なにかのニュースでホーキング博士が離婚して、再婚したことを知りました。学者さんの離婚や結婚が世界的なニュースになるなんて、映画スターみたいだと思ったのを覚えています。

ホーキング博士の離婚と再婚、そしてまた離婚のエピソードを知っていたので、この映画のポスターの甘いラブロマンス・イメージと、ホーキング博士の伝記映画がつながりませんでした。日本語のタイトルをつけるとき、営業のためにもとのタイトルを甘くソフトにしてしまうの、できればやめてほしいといつも思っています。

さて、ケンブリッジ大学の大学院生同士だったスティーブンとジェーン。最初はつれなかったジェーンを口説き、せっかく付き合い始めることができたのに、ホーキング博士は病気を発症、余命2年と言われます。イギリス国教会のガチの信者家庭に育った、神の存在を信じるジェーン。彼女は反対を押し切って結婚し、スティーブンは彼女のサポートのおかげで博士論文を完成させます。

二人は子どもにも恵まれ、宇宙に関する理論で有名になっていくスティーブンと、子育てや夫の世話、家事に追われて自分の博士論文がままならないジェーンはイライラも疲労もつのるばかり。でも、有名になっても収入が増えるわけではないスティーブンとジェーンは、介護を雇うことができません。

そんな彼女を助けたのが、教会で合唱隊を指導していたジョナサン。妻と死別した彼は一人暮らしで、ジェーンを助けて、車いすのスティーブンの世話をし、子どもたちの父親の役割をしてくれました。当然のようにあらぬ噂がたちましたし、実際、ジェーンとジョナサンはお互いにひかれていきます。

世間の目を気にしたジョナサンが身を引こうとしますが、それをひきとめたのはスティーブンでした。「ジェーンには君のサポートが必要だ」と。普通なら嫉妬して、ジョナサンを追い出してもよさそうなところですが、スティーブンは現実主義です。

ただし、スティーブンの現実主義は、別の面ではとてもジェーンに冷たい仕打ちをすることになります。病気が悪化して命の危機を迎えたスティーブンは、一命をとりとめた後、しゃべることができなくなります。でも、ジェーンの献身的な介護で、言語療法士の力を借りて研究活動を続けられるようになります。

言語療法士の登場シーン、映画『潜水服は蝶の夢を見る』を思い出しましたが、この時代より言語療法士の使うボードは進化していました。そして、言語療法士の専門家エレインがやってくると、スティーブンの頭の良さをきっちり把握して、彼を的確にサポートするようになります。

あんなに献身的にスティーブンに尽くしてくれたジェーンなのに、彼の宇宙に関する本がベストセラーになる頃には、自動言語の機械(電動ワープロ入力→音声変換→発声)の使い方をマスターしたスティーブンが、ジェーンよりも専門家エレインを必要とするようになってしまいます。その事実を告げられたジェーンは、スティーブンとの離婚に踏み切ってしまいました。

ジェーンは、ジョナサンと新たな生活を始めます。それでも、人生の一番苦しい時期を乗り越えた二人は、特別の絆で結びついていたようです。バッキンガム宮殿でエリザベス女王に謁見する栄誉を与えられたスティーブンは、ジェーンと二人でお城に向かいます。3人の子どもたちに囲まれて微笑む映像で、この映画は終わります。

人生は山あり谷ありで、人によっては海とか砂漠もあります。山や谷ぐらいなら一人のガイドでカバーできても、海には専門家、砂漠には砂漠の専門家のサポートが必要になります。いくら愛し合っていても、パートナーのすべてを一人の男性や女性がカバーできるわけがありません。当然、離婚や再婚、事実婚が必要になります。綺麗事では、人生、残念ながら乗り切れないんです。

そういう部分をごまかさずに、がっちり正面から描いているこの映画はすごいなと思いました。国内外での評価も高いとのことですが、一部ではホーキング博士の伝記映画なのに、肝心の宇宙理論の部分が大雑把すぎて、障がい者の博士に焦点が当りすぎているという意見もあるそうです。これは、まあ仕方ないですね。

邦題:博士と彼女のセオリー(原題:The Theory of Everything)
監督:ジェームズ・マーシュ
原作:ジェーン・ホーキング『無限の宇宙 ホーキング博士とわたしの旅』
出演: エディ・レッドメイン、フェリシティ・ジョーンズ、エミリー・ワトソン
制作:イギリス(2014年)124分




この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?