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聖杯戦争候補作

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つのが某所に投下した亜種聖杯戦争の候補作。落選多数。 鯖や鱒はご自由にお使い下さい。
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#洋楽

【聖杯戦争候補作】Save My Soul

夜、ベッドの上で不意に目が覚めた。 今までの人生が偽りで、思い出した記憶が本当の人生だったと、すぐに理解できた。身を起こし、顔を洗う。 記憶は鮮明だ。死の瞬間まで。夢ではない。 ■ 僕は、生前の父を知らない。 僕が生まれる前に、父は死んだ。新婚旅行の時に豪華客船が爆発、沈没し、母だけが生き残った。正確には、母の胎内に宿っていた僕と……父が救い、母に託した赤ん坊、エリザベスも。 成長した僕は、全てを知った。吸血鬼ディオのこと、吸血鬼が作り出す屍生人(ゾンビ)のこと、

【聖杯戦争候補作】The Frog and The Scorpion

◆ 「ハルミ……! サトシ……!」 忘れはせぬ。あの絶望を、怒りを、苦悩を。殺され、復讐を誓い、地獄から甦った時を。当の仇に謀られ、必要なき殺しを行い、さらなる悲劇を生んだとしても。地獄で死んで、神々の奴僕となっても。俺の生前の記憶が薄れ、死後の記憶が薄れても、なお。妻と子を、その死を、忘れた時はない。 復讐。復讐こそが、今の俺の存在理由だ。地獄の力で奴を殺す。そのためだけに……! 『……では、ひとつ機会を与えよう。とある戦場が用意されている』 これは、俺か。あるい

【聖杯戦争候補作】United We Stand

「ライダー。おれの望みは――――『おれのおやじを殺す』ことだ」 夕刻の自室。喚び出したばかりの己のサーヴァントに望みを問われ、学生服の男、『虹村形兆』は、そう告げた。万能の願望器にかける望みとしては、あまりにささやかな、個人的な願い。 ライダーは少し沈黙した後、口を開く。 「……恨みでも、あるのか」 無表情のまま、ふん、と鼻を鳴らす形兆。見知らぬ男だが、これから命を託す相棒だ。しっかり説明しておかねば、相手も納得はできまい。特に善良な奴であれば。手の中の宝石、ソウルジェ

【聖杯戦争候補作】Eye of the Beholder

■ 燃え盛る炎から、巨大な怪物が産み落とされる。かつて世界を滅ぼした神が。ああ、なんと、素晴らしい。 「ホラホラ、化物が動きはじめたぞ。お前がこいつの産みの親ってわけさ」 ざまあみろ。救世主ヅラして、お前は怪物を世に放したのだ。なにが救済だ。なにが愛だ。くたばっちまえ。くそくらえ。弟と同じことをいいやがって。来世も再生もありはしない。世界は滅び、人間は簡単に死ぬ。死ねば終わりだ。それまでに何をするかだ。 「貴様をひきむしって、はずかしめてやる。その上でこいつをくれてや

【聖杯戦争候補作】Satz-Batz Night By Night

その日、京都市内の全てのテレビ、モニタ、携帯端末に、なんらかの画像が表示された。記録に残らないほどの一刹那。けれど、それは何度も繰り返され、人々の潜在意識に微妙な影響を与えた。 ◆ これから、戦争が始まる。 大規模テロが起きる。 ミサイルが落ちる。 大勢の人が死ぬ。 鬼神や悪霊が徘徊する。 京都は地上の地獄と化す。 天変地異が発生する。 世界が終わる。 そんな噂がSNSに流れ、広がっていく。リツイートが増え、まとめサイトが取り上げる。大多数の人々は、苦笑とともに無視する

【聖杯戦争候補作】Hungry Ghost

はっきり言っておく。人の子の肉を食べ、その血を飲まなければ、あなたたちの内に命はない。                      ―――『ヨハネによる福音書』6:53 ◇ 腹が減った。 子供の頃から、空腹は慣れっこだ。訓練も兼ねて、何日か食事ができないこともザラにあった。あの世界ではそれが普通だった。飢えて死ぬ奴も大勢いた。体が資本のあの組織に入って、ようやく毎食にありつけた。一宿一飯の恩義というには、随分と仇で返してしまったけれど。 この空腹は、そういうのとは違う。

【聖杯戦争候補作】God Save The Queen

夜。自分の部屋で頭を抱え、その少年は悩んでいた。甚だ悩んでいた。 金髪をオールバックにし、眉毛はなく、カミソリのように鋭い目つき。長ランにボンタン。明らかに不良だ。ケンカをすれば、相手が大人数でない限り負け知らずの彼であったが、今回の事態はそういう次元の話ではない。 聖杯戦争。英霊を使役して殺し合い、何でも願いを叶えてくれる聖杯を獲得するための魔術的闘争である。魔術師でもない彼に降り掛かった突然の理不尽。絶望し、悩み苦しむのも当然だ。その上、彼の悩みはそれだけではなかった

旧き文明の地であるロワ海と聖杯海の諸相について

おれだ。ゾンビじゃない。なんか死んだがロックの力で復活した。もはやおれはジーザスも同然だ。 さて……ようやく銃撃戦も終わり、時間に余裕が出来た。そろそろおれの古巣のひとつである「ロワ海」と「聖杯海」について語るときが来たようだ。 これを読んでるやつの多くはとっくに知っているだろうが、知らないやつもいるだろうし、おれの状況整理のための備忘録でもある。だらだらやる。 おまえは『バトル・ロワイアル』を知っているか? 20世紀末に出現したヤバイ級パルプ小説で、社会問題にもなり、数