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聖杯戦争候補作

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つのが某所に投下した亜種聖杯戦争の候補作。落選多数。 鯖や鱒はご自由にお使い下さい。
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【聖杯戦争候補作】チキチキバンバン

 東京都新宿区、歌舞伎町。深夜。日本最大の歓楽街に彼はいた。高層ビルの屋上に立ち上がり、両腕を広げ、超然と下界を見下ろす。  なんという人の数、なんという大きな街であろう。  彼は胸を高鳴らせ、美しい顔を紅潮させる。かつて彼がいた場所、彼がいた時代には、このようなものはなかった。見るもの聴くもの、全てが目新しい。かつての記憶を取り戻すまでは普通にこの街で暮らしており、慣れ親しんでいたのではあるが。そして、ここは幻想の世界であり、戦場なのだ! 『ハロー、マスター。お目覚め

【聖杯戦争候補作】Pink Elephants on Parade

夜。ネオン煌めく、見滝原の歓楽街。その片隅の路地裏。派手な格好をした美女がため息を吐いている。警察帽にピンクの長髪、豊満なバストとヒップ、露出度の高い服装にハイヒール。目鼻立ちは日本人ではなさそうだ。 「はぁ……またまた、とんでもないことに巻き込まれちまったみたいね……」 彼女はたった今記憶を取り戻し、現状を把握したところだ。道で拾ったこの宝石に、こんな大それた力があったとは。 ジャパン。いい国だ。カネはあるし治安は良い。自分みたいなワルには、ちと退屈だが。いつの間にや

【聖杯戦争候補作】Manifest Destiny by Misfortune

○ コツ、コツ、コツ、コツ。 夜の京都。月の下、人気のない道を歩く影が一つ。 外套を羽織り、白い息を吐く。街灯の光を外れ、少し暗い場所へ踏み込む。 「!」 突然、その首が転げ落ち、血が噴き出す。悲鳴さえあげられぬ。瞬時に手足、胴体までも切断され、バラバラ死体が道に転がる。……顔を見れば、まだ若い女。 「あは、あはは。ダメでしょォ、女の子がこんな夜中に一人でうろついちゃァ。いくら日本の治安がいいからってさァ……」 笑いながら、ぬるりと暗闇から現れたのは……きわどいチャ

【聖杯戦争候補作】Warship March

……海行かば 水漬く屍 山行かば 草生す屍 大君の 辺にこそ死なめ かへり見は せじと言立て……        ―――大伴家持『賀陸奥国出金詔書歌』より 夕暮れ時。 冬木市の郊外、海に突き出した小さな岬。釣りの穴場として少し知られ、近くには小さな海水浴場もある。そこへ、ひょこひょこと歩いていく小柄な人影がある。杖を突いた老婆だ。彫りの深い西洋的な顔で、漁師町の住民ではない。観光客か。フードを目深に被り、腰を曲げ、皺の寄った手で木の杖を突いて歩いている。四国遍路の持つ金剛

【聖杯戦争候補作】合縁奇縁一期一会

「参ったなあ、こりゃあ…」 逢魔が時。彼の背後、闇の中から奇襲してきたのは、まさしく魔。 とっさに身を翻し、体術で攻撃をかわした。攻撃の瞬間まで、一切気配は感じなかった。連撃。被っていた笠が飛び、髪の毛が数本切断され、魔の影は再び闇の中へ身を潜めた。そして気配を消す。 彼の視力は、襲撃者の姿を捉えていた。 全身漆黒。眼球までも黒い、小柄で細身の影。手に持つ短刀には、おそらく毒。絵に描いたような暗殺者。これからもっと暗くなる。ならば、心眼を研ぎ澄ませるまで。彼は構えを取