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【AZアーカイブ】趙・華麗なる使い魔 第1回 趙・貴族光臨!!

「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ!!
 神聖で、美しく、生命力に満ち、そして強力な使い魔よ!!
 私は心より求め、訴えるわ! わが導きに応え、ここに現れなさああああい!!」

ドガーーーーーーーーーン ズズズズン ビリビリビリ

ルイズの召喚失敗による爆発は、もはや何十回目であろうか。
日も傾き、他の生徒たちの使い魔召喚はとっくに終わっていた。

「ミス・ヴァリエール、日没まで猶予を与えましょう。それでダメなら、残念ながら…」
教師のコルベールがリミットを定めた。生徒たちは使い魔を愛でたり、飽きて居眠りをし始めたりしている。これでダメなら、彼女の進級は認められない。留年である。

「留年なんて絶対イヤ!お願い、早く出てきて! げほっ、はい早くホラ!ホラ早く、大丈夫、ね、いいから、ちょっとでいいから、ホント、ね、お願いします」
目に涙を浮かべたルイズの思考は、もはやハマーのそれであった。フライング土下座も出来そうなくらいに。

簡潔に言おう。彼女の望みは叶えられた。神聖で、美しく、生命力に満ち、そして強力な者が召喚されたのだ。

いきなり、すうっと空が暗くなった。

ラーーーーーーー ラーーーーーーーーー

「歌声……!?」

どこからか多数の人間の歌声が響き、天から芳しい花弁と羽毛が降り注ぐ。
そして次の瞬間、一同は驚愕した!

地面から、踊り子風の衣装をしたケバい化粧の女たちが、整然と並んでせり上がって来た!手にはリボンつきの丸い手楯を持ち、人形のように硬直したポーズを取っている。

ゴウン ゴウン ゴウン ゴウン バアアアアン

しかも彼女たちは劇場のセットのような『ひな壇』の上に列を作り、その中央上方を指している。ニュッとひな壇の一番上に台がせり出し、どこからともなくスポットライトが当たる。その強い光は、宙空に怪しいシルエットを浮かび上がらせた!!

「だっ……誰!! 何者なの!!?」

そのシルエットは、手を広げてポーズを取った長身の男のようだ。肩のところに二本、線のような影も見える。…吊り下げられている? どこから?
そして影はキュルキュルと台の上に降り立った…。

ドンデンドンデンドンデンドンデン ドン ジャッジャカジャーーン

ドラムロールが流れ、男の顔にライトが当たる。

「「「き、貴族……!!?」」」

そう、彼こそは、まさに真の貴族。金髪碧眼の甘いマスクに、凛々しい眉毛と長い睫毛。長身で整った美しい体型。マントのような上着には大きなボタンと飾り紐が付けられ、体にフィットしたエレガントな衣服と靴。腰のベルトには乗馬用の鞭が吊るされている。メイジの杖だろうか?

「いかにも!! 諸君はじめまして、僕の名は麗しき貴族・『趙公明』!!
バラの運命(さだめ)に生まれた気高き騎士(ナイト)さっ!!(
ヴァヴァアアアン)」

男は背後から何本もの山百合を伸ばして咲かせ、花びらを散らせながら名乗った。BGM付きで。

「き…貴族だ!」「ゼロのルイズが貴族を召喚したぞ!」「どこの国の人だ!?」

「う……嘘…」
確かに、彼はどこから見ても完璧に貴族だった。むしろ王族かも知れない。
だとしたら、えらい事である。外交問題に発展するかも知れないのだ。彼の放つ強い魔力は、かなり遠くからでも分かるほどである。高位のメイジでもあるのだろう。

『チョウ・コウメイ』と名乗る貴族は、唖然とするルイズに台の上から優雅に会釈した。

「やあ、美しく可愛らしいマドモワゼル! 僕を退屈な『神界』から召喚して、解放してくれたのはキミだね? となったこの僕を呼び出すなんて、なかなか素敵な力をお持ちのようだが」
「……し、し、『神界』?! いま『神』と仰いましたか?」

貴族であり、神様だとは、この優男は何者なのか?コルベールを含め、全員が眠気も吹っ飛び、あっけに取られている。彼はひな壇から歩み降り、こちらに近づいてくる…。

「その通り!僕は数千年前、華麗なる戦いに敗れ、魂魄を封印されて『神』となった存在…いろいろと改装してはいるが、『神界』も新たな『仙人界』も華麗なる戦いがなくて飽き飽きしていたところさ。お呼び出しいただき、光栄の至り。感謝するよマドモワゼル。…それで、今日はいったいこの僕になんの用事だい? ええと、お名前は……」

「る、ルイズ! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです! チョウ・コウメイさま!」
思わず敬称をつける。呼び捨てにするわけにもいくまい。
「おお、素敵なお名前だ! 有難う、ミス・ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!(ヴァアアン)」

「…あ、あの、貴方を召喚いたしましたのは…その…」
確かに『神聖で、美しく、生命力に満ち、そして強力な』存在なのだが、使い魔とするには流石に手に余る。まだ呆然としているコルベールの方を向き、間接的に説明を頼むことにした。
「…あ、は、はい、ミス・ヴァリエール。まさか貴女がこんな…その、凄い方を召喚するとは…」

「さあ、用事を言ってご覧? 不老不死かな? 力かな? それとも富や権勢? 世界征服? 華麗な戦いがお望みなら、すぐにも受けて立とうじゃないか!(くるくる びっ)」

華麗なステップで踊るように近寄る男の前に、意を決してコルベールが歩み寄る。
「…あああの、ミスタ…とお呼びしてよろしいのですかな? チョウ・コウメイさま。私どもは、その、メイジでして、つつつつ使い魔召喚の儀式を行っている最中に、彼女が」
「『使い魔』!? この高貴なる僕が!?(くわっ)」
「「ひぃいっ!!」」
ほら、やっぱり怒った。神様を使い魔だなんて、無礼というか冒涜にも程がある。

「気分を害した。僕は帰るよ。…おや? 空間移動は出来るが、次元の壁があるようだね…。…で、帰る方法はあるのだろうね? そこの頭髪の寂しいキミ!(ビシッ)」
趙公明は柳眉を逆立て、杖(鞭)を抜いてコルベールを指す。全員その剣幕に震え上がる。
「…い、いえ、あの、まだ送還については、よく分かっておりませんでして、はい」

コルベールもルイズも、覚悟を決めた。きっと彼の言う『華麗なる戦い』とやらで、皆殺されてしまうのだ。無意味にバラの花に埋もれたり、涙を零しながらスローモーションで芝居がかった動きをしたりして。

「………ふむ。まあ、この『月が二つある』世界に興味も湧いて来たよ。ないのなら見つけることが先決だね。華麗な戦いも出来そうだし……」

どうやら風向きが変わった。夕空に浮かぶ双月に、趙公明がふと目を留めたのだ。ちなみに踊り子やひな壇は、いつの間にか消えていた。

「よかろう、『使い魔になれ』という願いを叶えよう。ただし、僕はキミの下僕ではない。キミを下僕にもしないが、協力者として活動してもらうよ。ミス・ヴァリエール」
「は、はあ…それで、あの、契約というものが」
「契約? まだ何か必要なのかい?」
「『コントラクト・サーヴァント』と申しまして、ち、誓いの接吻が必要なのです」

機嫌のいいうちに、こちらに従わせてしまおう。ルイズは少し欲を出した。

「接吻…ミス・ヴァリエールのかい? ははは、実に光栄だね。しかし今の僕は実体がない魂魄体(霊体)。残念だが、唇も触れられるかどうか…(くるくる)」

なるほど、少し彼の体は透けている。とはいっても霊体なら、魔力を込めた接吻ならば触れる事は可能かもしれない。少々くどい顔だが、美青年には違いなかろう。ファーストキスの相手にしても、貴族や神様なのだから敬意の範囲内だろう。

……ひょっとしてギーシュあたりのご先祖様だったらどうしよう、とか考えてしまったが。

「で、ではミスタ、少し屈んで下さいませ。……我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」

ルイズの唇は趙公明の唇に触れ、契約は一発で成功した。シュウシュウという音とともに趙公明は『受肉』し、魂魄体は再び肉体の衣を纏う。そしてその左手には、謎のルーンが刻まれていた…。
「おお…何千年ぶりの肉体は、少し重く感じるね……そして甘美な痛みと共に刻まれた、この左手の文字は何なのかな?」
「私にはなんとも…でも、珍しいルーンですな。スケッチしてお調べいたします」

召喚と契約は成功した。ルイズは進級を認められ、強大な使い魔を得たのだ! 達成感で誇らしい気分になり、ない胸を反らせて深呼吸する。

「では皆さん、使い魔召喚の儀式は全員無事終了いたしました! おめでとう! さあ、早く学院に帰りますぞ」
そうコルベールが言うと、皆は『フライ』の魔法で飛び上がった。
「おお、これが魔法か。…おや?ミス・ヴァリエールはどうしたのだね?」
「…ミスタ・チョウ・コウメイ、私はまだ飛べないのです…」
進級はしたが、やはり魔法はまともに使えない。ルイズの誇らしい気分がひゅーっと抜けていく。

「ほう、ではこの僕が『御主人様』をお運びしよう。さ、つかまりたまえ」
趙公明はニッと笑うと、ルイズを姫抱きにしてジャンプする。そしてそのまま、風に乗るように飛翔した。
「ははははは、心地よい風だねミス・ヴァリエール!! さあ、彼らを追い抜いていくよ!」

ルイズの胸に、再び誇りが甦る。なにしろこの使い魔は、『神様』なのだ!
何千歳という事は、まさか始祖ブリミルの関係者なのだろうか?

(始祖ブリミルよ、感謝致します。こんな素敵な方に会わせて下さって…)

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