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【AZアーカイブ】趙・華麗なる使い魔 第8回 趙・公明開花!!

◆華麗なる貴族・趙公明、クライマックス!!

『レコン・キスタ』の厳しい包囲網を潜り抜け、2隻のフネはニューカッスル城に到着した。さっそく出迎えを受けるが、念のためとして杖や武器、動物の使い魔は向こうに預けられる。

「おお、殿下! これは大手柄ですな!!」
「やあパリー、積荷はなんと『硫黄』だよ! 全てはこのプリンスのおかげさ! これで我が軍は『レコン・キスタ』に一泡吹かせて、美しく散ることができる!」
「ははは、敵方にはトロール鬼やオーク鬼、それに得体の知れない怪物どももいるとか。残った砲火をことごとく放って、奴らを粉微塵にし、冥土の土産にしてくれましょう!」
城内の将兵は歓声をあげる。もはや彼らには、それしか道はなかった。

ウェールズ皇太子は自室に入ると、小箱からアンリエッタの恋文を取り出し、ゆっくりと読み始めた。そして静かに封筒に入れると、ルイズに手渡す。思い残す事はない。
「姫から頂いた手紙だ。このとおり、確かに返却したよ」
「殿下、有難うございます。これで私のお役目は果たせました」
ルイズは深々と頭を下げ、手紙を受け取る。来る途中のフネの中で何度も亡命を勧めたが、断られた。討ち死にの決心は固いようだ。ならば、もはや何をかいわん。

ウェールズはニコリとルイズに笑いかけ、そっと『風のルビー』を指から抜くと、手渡した。
「私の形見だ。アンリエッタに渡してくれ、勇敢なる大使ルイズ殿。そして、皇太子は最期まで誇り高く戦って、立派に戦死しましたと、姫に伝えてくれればいいさ」

決戦の前夜、城のホールで行われたパーティーに、ルイズたちも参加させられる。王党派の貴族たちはきらびやかに着飾り、テーブルにはありったけの豪華な料理が並ぶ。老王ジェームズ1世の演説が済み、最後のパーティーが始まった。

「ああ、明日で終わりなのに、死んでしまうのに、なぜ彼らはこんなに明るいの……?」
「フフフ、もうすぐ終わりだからこそ、人はかえって明るく振舞うのだよ。ルイズ・フランソワーズ」
傍らに立つ趙公明が答えた。ルイズは、泣き腫らして赤い目を伏せる。
「けれど……私には理解できないわ。あの人たちは、どうしてわざわざ死を選ぶの? 姫様が逃げてって、亡命してって言っているのに! 他国に迷惑をかけるからなの?」

「戦場で勇ましく散る事は、王侯貴族の男としての名誉であり、誇りであり、また義務なのさ」
「分からない。分からないわ……女だから、なのかしら?私も貴族なのに。ただ、魔法は使えないんだけど」
「ノンノンノン。魔法が使える者が貴族なのではない。メイジなら傭兵にだって盗賊にだっている。危機にあっても敵に後ろを見せない者こそ、『真の貴族』なのさ!! いいかな、ルイズ? それに明日は、この僕が麗しき戦場に出て、反乱軍を華麗に倒してあげよう!!」

趙公明とキュルケはパーティーの主賓として、派手に宴席を盛り上げる。ルイズも少し、笑顔を見せた。ライトが飛び交い、スモークが特設ステージを包み、やんややんやの大喝采だ。ワルドとタバサは、静かにテーブルで酒食を貪っている。

翌朝。もうすぐ始まる貴族派の総攻撃から逃れるため、非戦闘員が続々と脱出船に乗り込む。ルイズたちも、ここから脱出するために中庭に集まっていた。見送りにはウェールズが立ち会う。

「お忙しい中の見送り、有難うございます。皇太子殿下」
「いや、構わないよ。最後の客人だ、丁重にお送りしなければね。昨夜はとても楽しかった」
ウェールズが微笑む。そこへ趙公明がにこやかに進み出る。
「ノンノン、僕はここに残って、数万の敵軍と華麗な戦いを繰り広げる気満々なのだが?」

「いいえ、プリンスをこのような戦場に赴かせるわけには参りません。あの愚かな野望を抱く叛徒どもに、ハルケギニアの王家は弱敵ではないと示し、 我らは見事戦死いたします! どうぞ、しっかとご検分下されますよう」

ノー、ですよ殿下。あなたはここで、いとも無念な死に様を晒すことになっているのですから」

突如、ウェールズの胸板を、背後から鋭い風を纏った『杖』が貫く。
それはワルドの『打神鞭』だ。
「それが我ら『レコン・キスタ』の望み。そして運命の然らしむる、歴史の帰結ですので」

「ぐあっ……!!」

ドウ、とウェールズが倒れる。ワルドは杖を振って、皇太子の『青い血』を散らす。
「殿下、これは神の定めたもうた運命、いわば天数と申すもの。お恨み召されるな」
「が……はっ! 何が……運命、天数だっ……」
趙公明にも反応できなかった。『天数』は神とは言え如何ともしがたい。死すべき命は、救えない。

ウェールズの体から魂魄が飛び出し、バシュッとワルドの杖に吸い込まれる。やはり、またか。
「ワルドくん! 先日の劉環といい、今の皇太子といい、その杖に魂魄が封印された! キミが『レコン・キスタ』側についた事といい、いったい何なんだね、その杖は!!」

あの杖、『打神鞭』は風を操る宝貝、それ以上のものではない。のちに『杏黄旗』でパワーアップしたり、スーパー宝貝『太極図』がインストールされたりしたが、それ自体には、魂魄を封印する機能はなかった。魂魄の封印は、『封神台と封神フィールド』があっての事だ。

……誰が、こんな機能を? いや、本物なのか、あれは?

「プリンス、これも『天数』です。この国は我ら『レコン・キスタ』のものとなり、その支配もすぐに終わる。僕はその争いを利用して、多くの命を奪わねばならない」
「ワルド!! 目を覚まして、正気に戻って!! お願いよ!」

革命騒ぎを利用した、『封神計画』か。宝貝や神界の者どもが来ているのも、天数。つまりは……。
「なるほど、ワルドくん。キミの夢枕には『白い女神』が現れたのだね?」
「なぜ、それをご存知で? 彼女は、やがて現れる貴方をも殺せと命ぜられた。そうすれば僕は、『聖地』で永遠の命を得られると」

やはり、か。趙公明が愉しげに笑う。
「彼女は『歴史の道標』。この異世界でも、あちらと似たようなことをしているようだね。創造と破壊の神として、歴史を自分の思い通りに進めようと、地上に介入し……気に入らなければ全て壊して、新しく作り直す。まるで子供の砂遊び」

ルイズにはさっぱり、何がなんだか分からない。すでに半狂乱だ。
「プリンス! ワルド! 何を言っているの?! 神様とか歴史とか、一体何の事!?」
「ルイズ、キミは知らなくていいし、知らない方がいい。今言えるのは、ワルド子爵が我々の敵であるということ。そして彼には、『レコン・キスタ』などよりも遥かに恐ろしい存在が味方しているってことさ!!」

趙公明が『縛竜索』を振り下ろし、ワルドを両断する。しかし、それは風の魔法による『遍在』。もう一人のワルドがルイズを攫い、凄まじい速度で『レキシントン』へと飛んだ。再び振り上げた鞭は、別の遍在に背後から叩き落される。そしてそのワルドも、ふっと掻き消えた。

「皇太子の命、王女の手紙、そして『虚無の担い手』ルイズ。3つとも僕がもらった! 今はプリンスには敵わないが、いずれ始末してみせよう」
ふわりとワルドは甲板に降り立つ。艦隊は総攻撃態勢に入り、砲火が城壁を砕く。『レキシントン』は少しずつ、城から離れだした。ひとまずこの場を離脱するようだ。

「プリンス! 皇太子が、それにる、ルイズがっ!! 信じられない、あの子爵がそんな……」
呆然としていたキュルケが、今更ながら取り乱す。タバサが風竜を呼び寄せた。追撃する気か。

「フフフ……フフフフフフ、よかろうワルドくん! ならばこの僕は『悪の貴公子・ブラック趙公明』となり、キミたちの『神の正義』に立ち向かおうじゃないか!!」

武者震いした趙公明が鞭を構えて、くるるんと華麗に回転すると、髪も衣服も真っ黒になる。冥界において亡者や悪鬼を監督し、疫病神を支配する暗黒の武神『玄壇趙元帥』の相である。

「さあ、伸びたまえ『飛刀』くん! あのフネに突き刺さるのだ!!」
激しい霊力を注ぎ込まれた妖剣『飛刀』が数十メイルもの長さに伸びる。ブラック趙公明はそれを『ガンダールヴ』の力で思いっきり投げつけ、『レキシントン』の側面に突き刺す。

「キュルケくん! タバサくん! いざ、皆を連れて逃げたまえ! 僕は彼らを倒してくる! できるだけ遠くへ逃げるんだ!!」

言い放つや、ブラック趙公明は鞭を伸び続ける『飛刀』に巻きつけ、ハイジャンプした。そして剣身を駆け上り、『レキシントン』の甲板へ乗り移る。シュルシュルと『飛刀』が縮み、手元に戻った。
「う、うわああああ!! あ、あの距離から来たぁぁあ!?」
「ばっ、化け物だ! きっとエルフかなんかに違いねぇ!!」
「ノンノンノンノン、しからば反乱軍の諸君に教えてあげよう!! 我が名は麗しき貴族・趙公明!! 冥土の土産に覚えておきたまえ、あの世で役に立つはずさ!!!」

名乗りをあげると、ブラック趙公明は伸縮自在の宝貝『縛竜索』と妖剣『飛刀』を振り回し、『万里起雲煙』で大砲のような威力の火矢を放って、貴族派の艦隊を焼き討ちし始める。戦いの場を得たプリンスは、遊びまわる子供のように楽しそうだ。いや、まるで怪獣である。

「ハハハ! ハハ! ハーーーーッハッハッハ!!!」

しかし、艦隊はやむなく旗艦である『レキシントン』に照準を合わせ、次々に砲弾を撃ち込んできた。さしものブラック趙公明も、これだけの集中砲火には耐え切れないだろう。いやいや、スーパー宝貝『金蛟剪』こそないが、彼には奥の手がある。

哄笑するブラック趙公明の全身からツタが、根が、枝葉が伸び、燃え盛る『レキシントン』を覆い始めた。その植物は、炎熱や乗員や兵糧や『風石』を呑み込んでエネルギーを吸い取り、猛烈な速度で成長する。全長200メイルの巨大戦艦が、バリバリと音を立てて内外から破壊される。ゆっくりと高度は落ちていくが、墜落はせずになんとか空中にとどまっている。

「う……嘘っ……!!」

誰も、目の前の現実を信じられない。
趙公明がフネに乗り移ってから数十分後、空中に山のような巨大植物が現れた。彼の『妖怪仙人』としての原形、『伝説の巨大花』である。

そして、ブアアァァァアアと花が開く。そこには、巨大な趙公明の『顔』があった!!! 輝く大きな瞳の眼、凛々しい眉毛、それに口が、子供の落書きのように『花』についている!!!

「いっっっ……イヤァァアアアアアアアア!!!!!(ばたっ)」
「(ふらっ ぱた)」

キュルケは絶叫し、無言のままのタバサと同時に倒れ、失神する。
あまりにも、あまりにも常識を超えた光景であった。

「「見たまえ! 見たまえ!! 僕はさらにさらに美しく伸び広がり、増殖する!!! キミたちを苗床にして、僕の森が生まれるのさ!! 麗しいだろう!! どこだいワルドくん、勝負だ! 僕と勝負して決着をつけようじゃないか!!!」」

巨大な花からブフーッと種が撒き散らされ、地に落ちるとたちまち樹木となり、森となる。彼は男性だが、単為生殖できるようだ。森には動き回る人食い植物が闊歩し、人畜を喰らう。種は軍艦の甲板でさえ出芽し、メキメキと成長してフネを飲み込んでいく。残されたニューカッスルの将兵も、ただただ見守る事しかできない。

その頃、ワルドはルイズを抱え、高速で戦線離脱していた。アルビオン王国が滅びても、『レコン・キスタ』が滅びても、彼にはどうでもいい。
「ではルイズ、ひとまずロンディニウムへ行こうか」
「イヤ! 離してワルド、プリンスはどうなっちゃったの!?」
「彼はもう、誰にも手がつけられん。逃げるが勝ちさ」

しかし、ワルドの眼前で突如、ぽかっと何もない空間に黒い『穴』が空いた。人ひとり通れそうな大きさの穴だ。召喚用のゲートとも違う。

ワルドが警戒して上空へ逃れると、凄まじい稲妻がその穴から発射された!
スクウェア級の魔法『ライトニング・クラウド』の数万倍の威力であろう。

「フゥ……『雷公鞭』でようやく、異世界との連結口が拡がりましたね。感謝しなさい、皆さん」
「大体、師叔がなかなか捕まらないから、この異世界を発見するのに時間がかかって……」
「それに、何さ望ちゃん、さっきの小さなゲートは。こんなに人数がいるんだから、最初からもっと大きく作ればいいのに」
「うっ、うるさいのう! 異なる位相の世界をつなぐのは、結構大変なのだぞ! 今まで何とか断片的に情報を掴めていたのは、わしのお蔭であろうがっ!(ギャーギャー)」

なにやら大勢の話し声が、穴の中から聞こえる。そのうちゲシッと誰かが蹴り出され、ワルドとルイズの眼前で、空中に直立し静止した。

全身黒ずくめの不思議な衣装に身を包んだ、小柄で飄々とした青年だ。
だが、纏うオーラの強さはプリンス以上である。ルイズは思わず問う。

「だっ……誰よあんた、いきなり!!」

「誰か、だと? よろしい、名乗ってくれようぞ。
 我が名は『伏羲(ふっき)』!! 始まりの人の一人である!!!

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