ことば for 3331

2012千代田芸術祭「3331 アンデパンダン」にて
千葉弘美と共同で作成・出品したインスタレーションの映像パート

生活の場でもある東池袋再開発地域での2007年と2012年の記録
及び
そこかしこにこびりつき、漂うことばたちの収集


3331/2012;おのれが誇らしげに提示した仮説に溺れるおまえ

・最近、わたしの周りでは毎日の様に風景が変わる
・昨日あったはずの建物が速やかに解体され、
・更地になり、アスファルトで舗装され
・グリーンのフェンスで囲まれる
・風景が消え去ると同時に、わたしの記憶は消える
・そこに何があったのか、もうわたしは覚えていない
・舊いものはかつて新しかった
・新しいものはいずれ舊くなる
・普通であれば、すべてのものは
・いずれ懐かしいものへとゆっくりと変貌を遂げ、
・その後完全に忘却されるはず
・だがあらかじめ忘却の状態にあるわたしには
・湧きあがるこの懐かしさの正体がわからない
・この、胸を締め付ける感覚の向こう側が見えない
・懐かしさに満ちた、グリーンフェンスとアスファルトの空疎な領域
・わたしは戸惑う
・やがてある日、植物たちがそこを不法に侵食し始める
・隙あらば根を張り蔓を絡め、刈り取られようとも
・絶える事なく伸びて行く
・その姿には舊いも新しいもない
・まるでこの空疎さを別の何ものかで埋め合わせる様に
・ひたむきに外周を満たして行く
・わたしはふと考える
・わたしが立っているこの場所も
・かつてはこの様なグリーンフェンスで囲まれていたのではなかったか
・だがしかしそれはひとつの可能性でしかない
・なぜならばわたしはそれを覚えていないのだ・・・

・追憶売りました
・学習したことは多少この身体が覚えているようですが
・自分がこれまでしてきたことは何も覚えていません
・気持ちのいいものですよ
・思い返すことが何にも無いって
・自分のアカウントをすっぱり消去するのと
・同じ様な気分じゃないですかね〜
・積み重ねとか経験とか、無くたって何とかなりますよ
・逆に過去の結果
・(失敗だけじゃなくって成功も含めて)
・に縛られて
・できなくなることの方が多いんじゃないかなあ
・知らないひと相手の方がむしろ誠実になれるものですよ、人間って
・またある程度貯まってきたら売るつもりです

・わたし、ちょっと先の未来が見えるんです
・なんでも、
・時間を認識する機能に異常があるみたいで
・事故で変な化学物質を吸い込んでしまって
・ダメージを受けてから
・でも、過去のことちょっと前のこと以外
・ぜんぜん覚えてないんです
・いまを中心にして、ぐるりと円を描いた
・未来と過去の範囲しか
・わたしの記憶は存在しないんです
・先のことがわかるので、危険なこととか
・だいたいのことには対処できます
・条件反射で生きてるんですよ
・ほとんど
・狭い範囲の未来と過去を行ったり来たりして
・輪っかの内側に立って歩きながら
・輪っかを転がして前に進むの
・でも皆さんの生き方とそう違わないでしょ?
・え?否定するんだ、そこ

・数十年前の記憶などぼくは持っていない
・だってそのころはまだ生まれてないから
・手が届きそうな過去だけど
・もうその記憶を持っている動物は
・地上に存在しないだろう
・(もしも植物の話が聞けたなら!)
・だから遺物を手に取り、想像するのだ
・ぼくたちはほんのちょっと前のことも
・ほんとうはほとんど知らない
・知ったつもりで昔はああだった、
・こうだった
・っていうけど
・ぜんぜんそんなことはなかったかもしれない
・ということを
・遺された欠片たちが教えてくれる
・歴史を道具にして
・妄言を事実とすり替えようとするあいつらより
・歴史をおもちゃにして
・いろいろあったかもしれないねって思ってる方が
・よっぽどほんとうのことに近いと思うんだ

・悲しみから逃れるために
・嫌なことを思い出さないようにするために
・わたしは過去を振り返らないのだ
・振り返ったが最後
・わたしはくよくよと
・記憶の沼地に嵌りこみ
・決して抜け出すことができない
・「後悔の念」と言う名の呪いが
・わたしにとめど無い嗚咽を与え続ける
・どうにもならない
・取り返しがつかない
・いまさら戻れない
・すべての時間はすでに失われている
・恥というものは
・失われた時間に
・永遠に刻まれてしまうことへの畏れである
・わたしの過去はすべて
・刻み込まれた恥ずかしさの碑(いしぶみ)である
・そこから逃れ
・無垢になるということは
・すべての記憶を持たないということである
・無垢なるものには恥ずかしさの概念がない・・・

・ぼくは記憶と感情の結びつきを解きほぐして
・自由になりたいんだ
・どういうこと?
・あの光景をありのままに見つめるために必要なんだ
・感情や時系列から自由になって
・現象そのものだけ目の当たりにしたいんだ
・だって大事なのは瞬間だけだから
・そう、
・ぼくたちは瞬間にしか生きてないのに
・その瞬間を捉える術を知らないんだ
・瞬間を理解したいが為に
・瞬間をひも付けして
・出来事にこじつけてしまう臆病さが
・全てをダメにしてしまうんだ
・だからぼくは感情を捨てて
・記憶の海に飛び込む
・この海のひとつぶひとつぶが
・他のつぶと何の関係も持たない
・純粋なフラッシュバックで出来ている
・心の傷になんか邪魔させるもんか
・もはや何ものもぼくの瞳を曇らせることは出来ない
・いまとなっては!

・結晶化された記憶

・暗い淵に佇むのが好き
・光から遠ざかれば
・時間からも逃れられる気がして
・淵の奥に進めば進むほど
・何もかもが永遠に近づくから
・果てしなく伸長されるスローモーション
・外からみれば一瞬の出来事
・無限に折り畳まれるわたしの思考
・何度繰り返したって怖くない
・だって知ってるんだよ
・真っ暗なドロップひとつぶ
・最後に待ってる事を


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