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父親が頭を下げた

 すまないと、父親に頭を下げられた。  以前にも連ねた、排泄物のような弟がいる。  二度目の前科を受けて、それで両親は彼を実家に戻そうとしているという意図だと聞いたのは去年の秋だ。  正月には、話をする気力がなかった。  けれどもいつかは、話さなければいけないとどこかに引っかかっていた。  GWを利用した帰省。  話すなら早い方が良いと、夜行バスを降りたその足で資料を作った。  少なくとも資料があれば、聞きたい内容は聞けるだろうと、そう思った。  結論から言えば、両親は何

    • 人生で初めてクレームを入れた

       約六年ぶりに機種変更に行ったら不快な出来事に行き合った。  三大キャリアで、何かあった時のサービス料として料金が高い訳だから、もうちょっと何とかしてくれファッキン。  要約するとこんな感じの愚痴である。 1.経緯 約六年使っていた携帯電話が、最悪日に三回は充電が必要な状態になった。  再来週にちょっと遠出をするため不安を感じ、  仕事を理由に先延ばしにしていた機種変更に向かうことにした。  ほぼ六年ぶりのため、えっちらおっちら調べると最近はどうやら予約が必要らしい。  思

      • 大人げないとは分かっているが

         『自分がしてもらっていないことを、他の人がしてもらう』ことが神経を逆撫でる。  それは弟に下駄を履かせては「姉弟を平等に育てた」という環境に起因するものだと理解している。  理由が分かっているから、きっちり境界線を引けば問題ない、と思っていた。  よそはよそ、うちはうち。  内側で駄々を捏ねる子供を、そう宥めた。  三年程前に転職をした。  異種業。未経験。それにしては、いきなり実務に投げ込まれた。  引き継ぎには足りなさすぎるメモと、残されていない資料。  ろくな教育も

        • まるで硝子の靴のような、

           胸を射抜いた服に出会った。  大学に上がった年だった。  ――お洒落な服は、痩せていて可愛い子のもの。  田舎には、うっすらそんな不文律があった。  オーバーサイズの女の子が、ロリータを着て駅前を歩いていた。閉まりきらない背中を、安全ピンで止めて。  知らない誰かのそんな話題が、笑い混じりに夕食に並んだ。  田舎の人の目と無遠慮な噂。  自分も太っていたから、きっとそう言われるんだろうな、と思った。  刺さっていたのはそれだけではなかった。  七五三の七歳の時に、貸衣

        父親が頭を下げた

          緑豊かな懐かしい異郷

          「お前達は頭が良いから、机の前に座ってるだけで稼げるだろう」  盆に帰省して、父方の叔父にそう言われた。  私も妹も曖昧に笑って、それから「そんなに楽じゃないよ」と返した。  父の実家は農家である。  姉一人、兄三人、そうして父の五人兄弟。  一番上の姉は他所に嫁に行って、長男の叔父が家を継いだ。  叔父は勉強したかったらしいが、祖父がそれを許さず、高校に行けなかった、とは聞いた。 「お前達は頭が良いから」  折に触れて彼はそう言う。  果ては学者か、医者か。  盆と正月に

          緑豊かな懐かしい異郷

          かわいそうなこ

           二度目の実刑を食らった、排泄物のような弟がいる。  彼は小さな頃から「かわいそうなこ」だった。  体が弱くて「かわいそう」。  勉強ができなくて「かわいそう」。  姉二人に口喧嘩で勝てなくて「かわいそう」。  田舎の、末っ子長男ということもあるだろう。両親は彼を甘やかした。  弟は多動児だった。椅子に黙って座っていることができず、小学校の養護教諭から「発達障害では」と言われたことがあったらしい。  その時点で療育してくれていたら、何か違ったかもしれない。  けれども母は、

          かわいそうなこ

          雲一つない飛び降り日和

          久し振りに自傷をした。 左腕、袖口から見えない場所に数える程。 皮膚一枚分でもしばらくはじりじりと痛んで、昔の自分はよくもまぁこれ以上を繰り返したなぁと妙に感心した。 誰かに見せる訳でもなく、心配が欲しいわけでもなく。 これで死ねると思ってる訳でもなく、安定剤よりは次の日起きられるだろうな、という打算の自傷は、多分、「これで楽になる」というパブロフの犬だ。何せ田舎の中学生はどこにも逃げられなかった。 どこにでも行ける年齢になっても、ままならないものだと思う。 残業

          雲一つない飛び降り日和

          いっそのことバケモノの形をしていたらよかったのに

           どうしてわかってくれないんだろう、とずっと、思っていた。    昔から、「おまえの喩えは分からない」と言われてきた。  言葉を重ねれば「聞いてる余裕はない」と言われてきた。  だから比喩を持ち入れば、「分からない」と半笑いで流された。    言葉と知識は武器で、盾だ。  「こどもだから」「なにもしらないんだから」と口を塞ぐ大人と戦うための武器。  武器を集めて、磨いて、構成を考えて。  言い方を変えて、感情を混ぜないで、理論的に。  言い聞かせて、言い聞かせて、血反吐を吐い

          いっそのことバケモノの形をしていたらよかったのに

          52Hz

           かれこれ二十年、好き勝手に小説を書いている。  昔は新人賞に投稿などもしていたが、最近は短編を好き勝手に書き散らしている。  同好の士と集まって、緩いグループができていた。  同時に、かれこれ二十年はメンヘラである。  人生の半分以上、精神状態が不安定ならそれがもう日常である。  毎朝死にたいと思いながら会社に向かい、理由を付けてホームから飛び出さず、体を引きずって帰ってくる。  一番酷い時よりは落ち着いたが、それでもまだ薬が要る。  自傷しなくなっただけ進歩したと思う。

          わたしのなかにいるこどものはなし

           私の中には子供がいる。  物理的に孕んだ子ではなく、昔に切り捨てなければいけなかった部分がある。  大人になれ、喚くな、と言われてきた。  納得がいかなくて食って掛かれば「五月蝿い」で封殺された。  下からもつまらないことで食って掛かるな、と言われた。  だから、その部分だけ、奥の奥にしまうことにした。  しまった後は、前よりは家の中で過ごしやすくなった。  親は「大人になった」と笑った。  あぁこの人達は都合のいい子供だけほしかったんだな、と思った。  子供の味方は

          わたしのなかにいるこどものはなし

          【むかしのはなし】勉強の話

           今も大して痩せてはいないが、もっと丸かった昔は運動が嫌いだった。  反面、勉強はちょっとだけ出来た。大体教科書を読めば分かったし、分からないものも勉強したら解けた。  多分、その頃は『勉強』が好きだったと思う。  テストで良い点を取って「凄い」と言われることは気持ち良かった。それくらいしか取り柄がなかったのもある。  中学一年の頃だった。  五つ下の弟は勉強が苦手で、あまりのある割り算に苦戦しているのを見て「なんでできないんだろう、ばかだなぁ」と思っていた。  今にして思

          【むかしのはなし】勉強の話

          薄暗かったミスドのはなし。

           祖母の家の近く、商店街の端にあったミスドは、色硝子越しのぼやけた光で薄暗かった。  立地も商店街と飲み屋街の境目で、今思えば、多分、居酒屋か喫茶店の居抜き店舗だったんだろう。  けれども小学校に上がる前の私はそんなことは分からず、ミスタードーナツとはこういう大人な雰囲気の店なのだと思っていた。その雰囲気にどきどきしながら、ショウケースの前で悩みに悩んで、いつも、D-ポップを頼んでいた。  D-ポップが好きだった。  頼んでいいのは「ひとつだけ」だったから、「ひとつ」で沢山の

          薄暗かったミスドのはなし。