「あの日から日を数えて。」

.5月某日午前0時
「いらっしゃいませ。1名様ですね。」

ファミリーレストランの女性店員は
わたしを店内へと案内する。

「テーブル席にしてもらえますか?」
わたしの要望に嫌な顔をせず、
窓際の4人掛けの席へと案内された。

「お決まりの頃お伺いいたしますね。」

マニュアル通りの対応を見送りメニューを
決める。

呼び出しボタンを押しオーダーをした。
「全部二つずつお願いします。」

少々強張った表情を見せる女性店員。
すぐさまオーダーを繰り返し
奥へと消えていった。 

待っている間は特になにかすることもなく、
窓際にうっすら映る自分の姿と
くもひとつない空に夜景が反射し
ほんのりと明るさを帯びた夜空を眺めていた。

程なくして注文した料理が台車で運ばれてきた。

「おまたせいたしました。ペペロンチーノ、チーズハンバーグ、マルゲリータピザと赤ワイングラスが二つずつございます。」

店員はわたしが座る側に一人前ずつテーブルに料理を広げていく。
並べ終わりに近づくにつれ、
あからさまに表情に焦りが見え、滞りなく
進んでいた姿に迷いが生じはじめた。

「向かい側に普通に並べてください。」

言葉を待っていたかのように
迷いが消え料理を並べる。

「ご注文はお揃いですか?では失礼いたします。」
どことなく足早に去っていったように感じたが、
心中察するところだ。

特にスマホをみたり手を止めることなく
黙々と食べた。
わたしの前に並べられた料理を食べ終わると
向かいに並べられた料理に手をつけた。
少し冷めてしまった料理を食しながら
温かいごはんの良さを実感していた。

少々、長いディナーになった。

追加で注文したホットコーヒーを
啜りながら古い友人のSNSを
見ていた。

7年前、友人の親族から亡くなった知らせを
受け、あの世へと旅立った日。

画面のなかで笑顔を浮かべるその写真は
さらに数年前のものだ。
まさか自分が急逝するとは夢にも思って
いなかった頃だろう。

物思いに耽り、友人のSNSを
読み直した。
当時、親族の意向を聞かず
急逝したことをSNSで公表した
人物がいた。

公表するまではまだよかったが、
亡くなった彼女の交遊関係への
対応がよくなく嫌悪したことを
思い出していた。

公表するだけして
対応しなかったのだ。

怒りのようなものが
込み上げてきたがその日だけは
ひそかに楽しい思い出を振り返りたかった
実際、家族ぐるみで仲が良く、
同い年ということもあって本当の兄妹のように
何か通ずるところがあったのだろうと思う。

この時期になるとふと思い出し、
彼女が好きだったファミリーレストランへと
出向き、お供えのような感じで二人分を
食すのだ。

日が経つにつれ、忘れ去られていく存在。
徐々に時が止まっていくように。
いまはお線香をあげにくる人はほとんど
いないらしい。

わたしはわたしの弔いかたとして
密かに料理を楽しむのだ。



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