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恨む先がお門違い

歌手の川本真琴さんの発言が注目されているようです。

CDで稼げていた時代を知っている人からすると、サブスクの微々たる稼ぎには言いたいことが出るのはわかります。
だったらいまの世の中でサブスクがなかったらどうなっていたのかをちょっと考えてみたいと思います。

それまで音楽を聞くにはCDをプレイヤーに入れて聞くことか、ラジオや有線放送から流れてくるものを聞くというのが一般的でした。
それが変わったのは21世紀を目前にした1998年あたりのこと。
元々は画像圧縮技術であったMPEGの中の音声圧縮技術であるMP3を使って、音楽をパソコンのハードディスクに取り込むことが始まりでした。
音楽をハードディスクに取り込めるということは、他のハードにコピーができるということ。
それまではデジタル音源であるCDを気軽に持ち歩くにはアナログのカセットテープか、デジタルならMDなどにダビングするしかなかったのです。
もちろん出始めの頃のMP3に変換するのは当時のPCでもかなり時間がかかる作業で、まずWAV形式で取り込んだ後、変換ソフトを使ってMP3にエンコードするという2段階が必要でした。
エンコード時間もCD1枚分に2時間かかるなど非常に時間と手間がかかる作業でした。
しかし徐々にPCのハード的性能やソフトの効率化が行われ、いまではCDからダイレクトにMP3にしてしかもほんの数分で取り込めるようになりました。

ここで問題になったのが違法コピーです。
当時インターネットが流行り始めた時期で「ファイル交換ソフト」が登場したことでデジタル社会での版権問題というのが意識されるようになりました。
それ以前にもFMラジオからエアチェックした音楽をカセットテープで何度も聞くという行為をしていたのでこれは同じ様な行為にも見えますが、「アナログは劣化品だから許可するが、デジタルはオリジナル同等だから不当」ということが分かれ目でした。
このファイル交換ソフトを作っただけなのに有罪にされたプログラマさんは本当に気の毒だと思います。
いまではクラウド上のデータを共有することが一般的になっているのですが、それが著作物であったというだけで、しかも本人が著作権違反をしていたわけではないのに……

こうして違法なファイル共有を防ぐ手段として現れたのが定額聴き放題である音楽サブスクリプションです。
結局違法共有の取締はイタチごっこになるので、だったら合法化して違法共有を止めさせるほうが得だと判断したのでしょう。
この音楽サブスクはそれまでファイル共有アプリで手間を掛けて目的のファイルを探してダウンロードするという手間をなくし、音楽を楽しむということに気軽に集中できるのですから、ユーザーにとってもとても良いツールであると思います。

さて、川本氏の発言に立ち返り、このサブスクがなかったとしましょう。
きっと違法共有のイタチごっこで、クリエイターはお金を回収できない状態で終わってしまいます。
もちろん違法共有ですから、やってはいけないことなのですが、一度「CDは買うものではない」という認識が生まれてしまったら、売上が向上することは難しいでしょう。

もちろんサブスク以外でCDを売り上げる施策は存在します。
AKB48の「握手券」がそれです。
また初回限定の「プロモーションビデオBD付き」というのもその一つですね。
手間ひまかけてCDの売上を伸ばす方法を取るか、それともCDは売れないものだとした上で少しでもお金を徴収できるサブスクを選ぶか……?

川本氏はサブスクを恨むより、画像圧縮技術の発明とインターネットの普及を恨むべきかもしれません。


ちなみにタイトル画像の理由は川本真琴さんの楽曲にちなんで。

https://www.youtube.com/watch?v=s477V7Ov1xc


ゲーム業界に身を置いたのは、はるか昔…… ファミコンやゲームボーイのタイトルにも携わりました。 デジタルガジェット好きで、趣味で小説などを書いています。 よろしければ暇つぶしにでもご覧ください。