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「幕末太陽傳」★4.5~局地的TOKYO2021映画祭の4日目

20年近く住んでる場所は日本最大規模の幕府公認の遊郭があった土地で、妙な暮らしやすさを感じるんですよね。すっかりタワマン街に変容しつつあるけど。一つ前に住んでいた便利な住宅街とまた違う、不思議と自由闊達な雰囲気があって、これは「土地の記憶」なんじゃないかと思います。

こんにちは、ユキッ先生です。

オリンピックの期間中、「東京を舞台にした映画を観て感想を綴る」シリーズの4日目です。

基本的に初見の作品にしようと思っていたのですが、過去地上波放映を録画していたもので、この機会にもう一度観たいな、と感じた映画を今回はピックアップしました。
1957(昭和32)年の映画「幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)」です。

でも、2回目終えたいま、あと3回ぐらいは観ないと…という気持ちでおります(いくつか確認したい箇所があったので、今回オープニングだけ2回観ました)。と思ったらこの予告動画に、オープニングの要素がわりとそのまま入ってましたね。

あらすじと概要をコピペる

日活の公式サイトがいちばんわかりやすい気がしたのでそちらから引用いたします。項目名は筆者による補足。

ここでしか観ることができない、豪華キャストの競演!
半世紀の時を超えて、銀幕に甦る!!
■あらすじ
時は、幕末、文久2(1862)年。東海道品川宿の相模屋という遊郭へわらじを脱いだ佐平次(フランキー堺)は、勘定を気にする仲間を尻目に、呑めや歌えの大尽騒ぎを始める。しかしこの男、なんと懐には、一銭も持ち合わせていなかった…。居残りと称して、相模屋に居ついてしまった佐平次は、持ち前の機転で女郎や客たちのトラブルを次々と解決していく。遊郭に出入りする攘夷派の高杉晋作(石原裕次郎)らとも交友を紡ぎ、乱世を軽やかに渡り歩くのだった。
■スタッフ・キャスト
・監督 川島雄三
・キャスト
居残り佐平次=フランキー堺 女郎・おそめ=左幸子 女郎・こはる=南田洋子 高杉晋作=石原裕次郎 女中・おひさ=芦川いづみ 杢兵衛大盡=市村俊幸 相模屋楼主伝兵ヱ=金子信雄 伝兵ヱ女房・お辰=山岡久乃 伝兵ヱ息子・徳三郎=梅野泰清 番頭・善八=織田政雄 若衆・喜助=岡田眞澄 若衆・かね次=高原駿雄 若衆・忠助=青木富夫 若衆・三平=峰三平 やり手おくま=菅井きん 貸本屋金造=小沢昭一 大工長兵ヱ=植村謙二郎 鬼島又兵ヱ=河野秋武 気病みの新公=西村晃 のみこみの金坊=熊倉一雄 粋がりの長こま=三島謙 志藤聞多=二谷英明 久坂玄端=小林旭
・脚本 川島雄三 田中啓一 今村昌平
・音楽 黛敏郎

なぜ選んだか:下町安酒会の師匠がデジタルリマスター版を絶賛してたから

人生で最初の上司(母親と同年代の、アナウンス部長みたいなタイプの渋いおじさん)と1年に1度ぐらいのペースで、昭和文化遺産の風格漂う下町の居酒屋へ飲みに行ってた時期があります。天満とか鶴橋とか九条とか西九条とか千鳥橋とか。このニュアンス、大阪の人だけわかってください。酒のアテは、鯖きずしとかかわはぎ造りの肝醤油とかベーコンソテーとかで、話題はだいたい本とか映画とか漫画とかの話で、わりと趣味が合いまして。

その師匠が、安酒会のなかで「最近劇場で観て良かった作品」として挙げていたのが2012年のことです。
で、自身でもその公開中に劇場で観たい! と調べてみたら、すでに京都のシネコンの朝帯でしかやってなかったりで、リアルタイムでの劇場鑑賞は叶わずでした。そんなことも忘れかけた折、2019年の年末年始に地上波放映する映画をチェックしていたら…放映予定があるじゃないですか! お正月、KBS京都の深夜に。このニュアンス、関西の人だけわかってください。

一応その放映直後のお正月、子どもが寝たあとで家で観たのですが、まだ息子が寝つきの安定しない時期だったので、流し見に近い状態だったと。夫が最後に「面白かった」と申しておりましたが、正直私ゃそこまで観れんかったぞと。

なのでこの機会にもっぺん観ておこう、と思った次第です。
中村〇俊が歌う大〇建託のCMや〇沢年雄が小躍りするオ〇ミ住宅のCMとともに。

興味がある現代人は多少予習しておいたほうがいいかも

冒頭で遊郭の話をして、とはいえ「遊郭」というものが一般的にどれくらい認知されているのかなと疑問に思いましたが、なんてこたあない、鬼が滅するの超大人気アニメが近々遊郭編をやるじゃないですか。話は早い。

え? 子どもに説明しづらい?? 親アホなの?

…失礼しました。

(うちのお子らはたぶん観ないけど、もしかしたら近い将来、自分の住む街の歴史を授業で調べたりするのかもしれん…)

いえ、遊郭そのものについてもそうなんですが、とにかく登場人物が多くて次々入れ替わるし、テンポも速くて早口の江戸ことば、さすがに世代的に知らない俳優さんは前半は見分けもつけにくいものですし。なんせ映像は白黒で、音声も通常触れてているものほどの水準ではないですから、我々世代でこの作品に興味と時間があるかたは、やはり多少の予習をしたほうがよりよい気がします。
とはいえ喜劇としての演技や演出は完成されているので、予習なしでも楽しめます。

居残り佐平次役のフランキー堺さんが、おそらく早い段階でくりいむしちゅー有田さんに見えてきますが、それはそれでまったく間違いではないし、むしろイメージぴったりなので現代人には好都合です。

開始早々、大勢が登場してわちゃわちゃするので、誰が誰で、どんな関係なんだ? と混乱しつつも、若衆・喜助役、若かりし日の岡田眞澄さんを画面に認めた瞬間、平たい顔民族のなかに突如現れたあまりの美青年っぷりに時間が止まりました

いつも誰かが誰かに喜怒哀楽をぶつけ合っている

とにかく全編にわたってドタバタ元気があるのが特徴で、気づけば10秒に1回ぐらい、誰かが誰かに怒ったり、ただトンチキに酒飲んで浮かれたり、泣いついたり、見返り目的にしなだれかかったりしています。なんだこの生命力。

3日目までに取り上げた作品というのは、「誰かが誰かに対する感情を表出しない」ことで、ドラマあるいは作品テーマが担保されていたような気がするのですが、クセの強い女郎のみならず、ここまで全員が全身全霊で困ったり、出し抜いたり、つかみ合いのケンカしたり、殺そうとしたりまでするもんで。これっておそらくこのコミュニティが「絆」とか「愛情」とかいう曖昧なものじゃなくて、シンプルに「個人」が「カネ」を中心につながれた共同体だからなんだよな、と思います。

まあ、「カネがあればたいがいのことを解決できる」を地で行くのが佐平次ですし。落語をモチーフにしたフィクションだから、というのもあるかもしれませんが、おそらく遊郭関係者なんて「感情を出さないことで得する」要素なんてゼロですわ。偽りの感情を使って駆け引きすることはあるにせよ。

遊郭という空間だからこそ群像劇が映える

あと、その感情の発露を見せられつづけてイヤにならないのは、遊郭という空間、建築デザインの賜物だと思うんですよね。あっちの部屋でトラブって、こっちが解決したかと思ったら、玄関には謎の来訪者が現れて…という群像劇をダイナミックにみせるのは、この舞台構造の妙。中央に取っ組み合いのケンカができる中庭があり、それを囲むように廊下と部屋が配置されている。大きなのれんの玄関があり、そこに複数人でガヤガヤ降りられる中央階段がある。飲み食いも寝ることもできる施設だから、台所があり風呂場がある。

こうした空間×群像劇の楽しさという点では、2006年の映画「THE 有頂天ホテル」を思い出しました。

超ウルトラハイパー都市的コミュニティとしての遊郭

さて私、10年ほど前に社会人大学院で、「都市的コミュニティ」とは何か、みたいな研究をしてまして。

端的にいえば、それは「匿名の個人の集まり、ゆるいつながり」といわれます。家族や親せき、学校や職場のコミュニティのように、「〇〇家の長男」「〇年〇組で部活は〇〇部」「〇〇社〇〇部の入社〇年目」みたいな、所属や肩書きベースでない集まりという意味です。

SNSがわかりやすいかもしれません。ハンドルネームと、共通する趣味についてしか知らない人とのつながりなら、それは「農村的」ではなく「都市的」なコミュニティです。
その原理に沿うと、現代日本の職場コミュニティというのは、どちらかというと「農村的」です。商店街もそうですね。

この作品の舞台である相模屋、遊郭に集うの面々はどうでしょうか。
先述の通り、遊郭は「個人」が「カネ」を中心につながれた共同体ですし、登場人物のなかで血縁関係がある人どうしの間にも、たいしてポジティブ要素はないです。そもそも石原裕次郎演じる高杉晋作率いる攘夷派の志士たちは英国公使館焼き討ちを目的に投宿している客だし。

「遊郭」に近いものが、海外にあるのかどうか存じませんが(少しWikiで調べましたが余談が膨れそうなので言及を避ける)、たまたま集まった匿名の人々による共同体という意味において、日本の遊郭って世界に類を見ない最強かつ最先端の施設、空間だったんじゃないか、と私は考えたわけです。
その成り立ちは、倫理的な観点からすれば必ずしも好ましいことではないですし、事実、安定的なコミュニティというわけでは決してなくて、心中やら揉めごとで死人も多く出ていますけど。

元遊郭の街に暮らしている心地よさとは?

エネルギーや野心のまだあった20代の頃に、いま住んでいるのと同じ土地で、「(昼間のハードな労働の反動として)街の(たぶん)陽気な酔っ払い」をやっていまして、酒場で貴重な複数の友人たちに恵まれた経験のある私にとっては、街にも土地の記憶みたいなものがあって、そこに吸い寄せられているのかもしれないなと、ときどき感じるんですよね。
友人たちが散り散りになったいまでも。

なので、もし将来お子らが、この街の歴史を調べることがあったら、あるいは鬼を滅するアニメとかの影響で遊郭のことを訊ねてきたら、
「オウフwwwいわゆるストレートな質問キタコレですねwww」
って超早口で語りだす自信があります。


というわけで、星4.5[★★★★☆]で。
あ! いま気づいた、0.5の星が出せない!!


カバー写真 / 小笠原に行くときに乗った船(竹芝埠頭沖)から見た街の方面。品川方面はもう少し先かな






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