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コンフロント力

今の時代、「コンフロント力」と呼ぶべき能力が必要になる、と感じます。
 
「コンフロント」とは、英語で「直面する・対峙する」という意味です。
私たちの目の前に、目を背けて通れない数々の現実があります。それを、直視したうえで私たちには何ができるのか。
 
昔は、「見て見ぬふり」をして通り過ごす時代がありました。昨今では、現実が我々を追いかけてきて、直視せざるを得ない。もう知らないふりは出来ない。その時代変化の背景には、インターネットの情報化社会により誰もが情報を発信できるようになったことがあると思います。
 
芸能界で長年の性加害があったことが話題になっています。今まで巨大で盤石と思われていた組織が、そのことで消滅しようとしています。
 
訊くとファンですら「うすうす知っていた、噂に聞いていた」などと言う。
今に始まった問題ではなく、ずっとそこにあった。ただ、「向き合っていなかった」だけのようです。
 
ユダヤとアラブの歴史に根差す戦乱が拡大します。西側諸国に包含されている日本では、このような時に必ずユダヤ側の見解が「公式見解として」語られます。しかしSNSの個人レベルで発信される情報は、現場に耐え難い現実に直面する人々がいることを伝えます。
 
私はNPOで「子どもの貧困課題」を世の人に知ってもらうための活動をしています。いま日本の子どもの7人に1人、200万人が「相対的貧困」状態に置かれています。
 
「相対的貧困」という言葉に関する誤解があります。「相対的」だからあまり深刻なものではないのではないかという印象が持たれている。
旅行は国内旅行の質素な行先、外食を少なめに、車も洋服も高級品は我慢する、そういうことを言うんでしょう。まあ普通じゃないですか。
 
ところがこれが決定的に違います。相対的貧困の定義、すなわち親子二人の母子家庭を想定した時の月の家計14万5千円というのは、親子が一日千円以下で食事をしても全く貯金の余裕がない。すなわち生活維持以外の余裕のある消費、旅行や外食・趣味等の体験は一切できない、という状態です。
 
しかも14万5千円というのは相対的貧困の「上限値」の定義ですから、実際にはそれ以下の生活をしている子どもが今の日本には200万人いる。これらのことをデータで説明すると「私の周りにはそんな子どもを見ません」とよく言われますが、それは現代のサイロ社会において、貧困以外の層にいる方には接する機会が無く、「見えない」のです。このことをオンラインワークショップを開いて説明するととても驚かれます。
 
情報化社会の発達によって、今まで「別世界の出来事」と切り離して安心していたものを「隣人」として認識せざるを得ない。山の上から平野へと水が流れるかのごとく、格差のポテンシャルを水脈でつないだときに、水はそれを平坦にする方向に流れ出す。そんなことが起きているように思います。
 
統計学の概念に「正規分布」というなだらかな山形のカーブがあり、自然界のランダムな分布の多くはこのパターンを示します。しかし、現代の利益至上資本主義は、経済格差を自然なカーブからかけ離れた「ピーキーな」分布に追いやった。

正規分布のカーブ

近年の消費者市場は、大量生産の廉価な財・サービス及び超高級品の二極に分離しつつあります。
 
私自身の本業は生活消費財の生産技術者ですが、大量生産によって画一化されたものを廉価に提供する、その追求は極限に行き着いた感があります。
むしろ、それ以上のコスト削減、利益最大化を追求し過ぎたが余り、不正や偽装等の不祥事を起こすケースが目立ちます。
 
一方、数千万円の高級車を何台も購入するような層の市場が存在する。
長きにわたる低成長に喘ぐ日本経済において、消費欲の喚起と経済成長の加速が必要だと人は言うが、それがピーキーな富の偏在のカーブを更にピーキーに拡げることを追い求める行為だというならば、持続性のない未来へと突き進む無知と惰性の産物と言わざるを得ないでしょう。
 
これからの「コンフロント力」で目指すべきは、あらゆる分布のカーブが「なだらかな」、自然本来の分布へと移行するのを手助けすること。そのためには近しい隣人に、こんな救われない現実があったのだということを直視し、遠く離れた世界の出来事ではなく自分の生活の延長線上に繋がっていることを認識すること。つまり究極的には自分自身の課題でもあることを認めることが重要と思います。
 
これまで世の中で語られた「ビジネススキルセット」は、古典的な成功の定義に基づくものであったと思います。競争社会で相手を負かし、成功を勝ち取るための能力。その能力も引き続き必要とされるでしょう。但しあくまで分布の問題ではありますが、古典的成功能力が引続き多数を占めるならば、世の中はいびつな成長の形から脱することが出来ないだろうと思います。
 
NPO組織運営のような、マネタイズが難しくかつ、今の世の中にまだ拾い上げられていない最新の課題に取り組むことに身を投じていると、そこで求められる「コンフロント力」は、
 
・共感力
・傾聴力
・コーチングスキル
・NVC (ノンバイオレント・コミュニケーション)
・サーバントリーダーシップ
・レジリエンス
・マインドフルネス
 
といったものの総体であるような気がしています。

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