2023年第74回NHK紅白歌合戦雑感


80年代に小中高校生だった、いわゆる『団塊ジュニア』世代の私にとって、子供の頃の『紅白』は観るのが当たり前の番組でした。大学生になって親元を離れてからも、年末に帰省すれば大晦日は『紅白』を家族で観ていました。
それが家庭を持ち子供が生まれ、成長と共に子供達が裏番組を観たがるようになり、いつしか『紅白』は興味のあるミュージシャンを中心に断片的に観る程度になっていました。

私はいわゆる音楽オタクの部類に入ると思うのですが、好んで聴く音楽は偏っていて、最近はテレビをほとんど観ないので音楽番組をチェックすることもなく、CMやドラマ・アニメのタイアップ曲もあまり把握できていません。そのため日本のヒットチャート上位にリストアップされるような音楽は子供経由で多少耳にする程度です。

今回の紅白も結局リアルタイムできちんと観たのはYOSHIKIの特別企画とその前後のみ、あとは時々ザッピングしながら気まぐれに眺める程度でした。
ですが一夜明けて『紅白』に関連するネット記事をみているうちに、実際どんなだったのか気になってきました。そこで、以前アプリを入れてそのまま放置していた『NHKプラス』を利用して『紅白』を最初から最後まで観てみることにしました。



最大のインパクトは何といってもK-POPグループが7組も出演していたことでした。特にYOASOBI「アイドル」の演出については世論の賛否も真っ二つに割れているようです。

『紅白』というのはその歴史的意義と大晦日のゴールデンタイムに放映するという特性上、幅広い年代を対象として多くの視聴者が関心を持てる曲を集めるという趣旨で運営された貴重な音楽番組だと思います。特に今年は旧ジャニーズ事務所所属グループが出演しないということで、一体どんなラインナップになるだろうと関心を集めていました。

このような国民的音楽番組で海外アーティストを、それもK-POPという一国の特定ジャンルを他のどのジャンルよりも大きく扱うというのは異様に思えます。これがNHKが若者の音楽嗜好を丹念に調査した結果なのか、或いは単なる業界の力関係なのか、はたまたNHKがK-POPを流行らせたいのか、真相は定かではありません。

しかしもし10代〜20代の若者の聴く音楽としてK-POPが実際にそこまでのシェアを築いているのであれば、NHKが今回ここまでK-POP偏重にしたのも理解せざるを得ないのかなとも思います。

2010年代後半、子供達から間接的に見聞きしていた個人的な体感としては、YouTubeに投稿されるボーカロイド楽曲やアニソン、そしてBTS・BLACKPINKなどのK-POPが10代の若者達の間で流行しているようでした。しかしテレビの世界は嵐を中心としたジャニーズ事務所のグループと秋元康プロデュースのAKBや坂道グループが圧倒的なシェアを占めていました。
このメディアとリアルのギャップは当時からすごく気になっていて、テレビ主導で作ろうとしている『世論』が実際の若者達の感覚と著しくかけ離れてしまっているように感じていました。

そして2023年現在、10代後半〜20代前半の女性の間では韓国メイクや韓国ファッションが大流行しており、彼女達がK-POPを追いかけるのは自然の成り行きでしょう。特に流行に敏感で比較的目立つ立ち位置の女子にそのような傾向が多い印象です。
しかしそれも外野から眺めた印象でしかなく、実際に10代〜20代の若者がどのようなジャンルの音楽をどのくらい聴いているのかという実態はそんなに単純なものではないと思われます。

Spotify再生回数ランキングで上位に位置し今回『紅白』に出演していたYOASOBIやOfficial髭男dism、Mrs.Green Appleなどは勿論多くの若者に聴かれていると思われますが、それらの可視化されやすい楽曲以外にも、特定のファンダムに強く支持されているジャンルは多々あると思われます。
例えば今回すとぷりが『紅白』に出場していましたが、ヒプノシスマイクやあんさんぶるスターズ!など二次元コンテンツとメディアミックスした企画も二次元界隈からは強い人気を誇っていますが、関心のない人には設定からして全く理解不能と思われます。
YouTube国内音楽動画の再生回数2位のYukopiはボカロPであり、ボーカロイドも根強い人気がありそうです。そしてTikTokに至っては何がどうバズるか想像もつきません。

もし『紅白』が若者の支持を得ようとしてK-POP偏重を強めたのだとしても、ここまで偏りが強いとさすがに違和感がありますし、これが日本の若者の意見を反映した結果だとするならば、若者の音楽文化をここまでK-POP一色にしてしまった日本の音楽業界には猛省してほしいとすら思ってしまいます。
全ての音楽の作り手がビジネス的な成功を目標に音楽制作をするというのは全く持ってナンセンスですが、少なくとも音楽ビジネスを動かす側はもっと日本発の音楽が少なくとも国内の若者の、そして叶うならば世界の多くのリスナーの支持を集めるようなビジネス戦略を立てる必要があるのではないでしょうか。それには国内の若者達のニーズに寄り添う姿勢と、外から日本の音楽を俯瞰するという視点を築く必要があると思います。

昨年はYOASOBI「アイドル」がビルボードのGlobal Excl. U.S.チャートで首位を獲得したことが話題になりました。更にSpotifyが『Gacha Pop』というJ-POPプレイリストを公開し、このプレイリストは20万人以上のリスナーがシェアしていて、特に海外リスナーの支持を集めているようです。一定のフォーマットが確立しているK-POPと異なりJ-POPは日本の流行歌という以上のカテゴリ定義を持ち合わせていないので、海外リスナーから可視化されにくいという問題があります。『Gacha Pop』のようなサブジャンルの確立は海外戦略としても興味深いです。

グローバル進出を積極的に行うことが全てにおいてマストということではありませんが、海外で反応される楽曲は日本の若者にも好意的に受け入れられる可能性が高いと思われ、これをYOASOBIだけで終わらせず一つのジャンルとしてアピールしていくことで、J-POPの底上げに繋がるでしょう。

『Gacha Pop』のようなボカロやアニメ文化と親和性の高い楽曲はJ-POPの一部を支えていますが、元々の日本の歌謡曲はもう少し湿度の高く抒情性の強い楽曲が中心を占めています。藤井風「死ぬのがいいわ」が海外で評価されるのであれば、新旧の歌謡曲〜その流れを汲むJ-POPの楽曲にもまだまだ海外展開の糸口がありそうです。

今回の『紅白』におけるK-POP偏重は正直モヤっとしましたが、日本のポピュラー音楽を見直すきっかけになってくれればと、ポジティブに考えることにしました。



『紅白』を観ていて他に感じたこととしては、演歌枠の縮小とそれに代わる80年代歌謡曲の高齢者枠化、そして90年代も懐メロ枠になったのだという実感etc、一言で言えば「私も歳をとったなあ」というボヤキです。
見方を変えれば、『紅白』も頑張って世代交代をしているということなのでしょう。


あとはHYDEがとにかくカッコよかったですね笑
実は私、昨年の『紅白』でTHE LAST ROCKSTARSを観てからHYDE推しになったのです。『紅白』がきっかけで新しい音楽やミュージシャンを知るという人も少なからずいるのではないでしょうか。



例えば80年代、『紅白』を見ればその年のヒット曲や人気歌手が大体把握できました。一部テレビに出ないスタイルのミュージシャンはいましたが、レコードの売り上げや雑誌の記事など、違う形で概ね把握できました。

しかし今は音楽を知る手段として、特に若者ではテレビや雑誌よりもYouTubeやTikTokなど複数のSNSがメインとなっていますし、ヒットの指標もCD売上のみならずサブスクリプションや各種動画の再生回数など複合的で判りづらくなっています。そして音楽ジャンルも複雑化し、棲み分けが進んでいて、みんなが知ってる歌というのが生まれにくくなっています。

そもそもレコードが誕生して100年以上が経過し、数えきれない音楽作品が世に生まれ、必ずしも新譜を追わなくても新鮮な音楽体験をし続けることができます。しかもサブスクが普及したことで、旧譜を掘るという行為のハードルは格段に下がりました。流行を追うことに意義を求める若者や意識的に新譜を追っている音楽好きの人以外は、昔ほど今年のヒット曲にいちいち反応していないのかもしれません。

そのような状況下において『紅白』が日本のポピュラー音楽の現状を忠実に反映させるのは至難の業であることは重々承知しています。事務所の力関係や各方面からのプッシュなど、裏事情もあることでしょう。

そもそも男性チームと女性チームで対抗する歌合戦という、およそポリコレに反するような昭和の企画が令和の時代にいつまで続くか分かりませんが、例え名称や趣旨が変わっても年の瀬の音楽番組は続いてほしいし、色々ツッコミながらも音楽を楽しむ時間であってほしいと一音楽好きとしては思うところです。








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