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『聞きたくて』 〜川端康成『雪国』を読んで詩を綴る〜

『聞きたくて』

聞こえぬ声が聞きたくて
静寂の中ひとり耳傾ける

音のない部屋の中で
いつか読んだ小説の
知らない誰かの言葉が
体の内側で微かに響く

波頭のように
微風のように
花の上で休んでいた蝶のように

そしてするりと手の中からすり抜けて
また外の世界へと溶けてなくなる

その声の木霊を追いかけて
窓からこぼれる淡い夕日の中
ひとりその日を待ち侘びる




昨年、川端康成『雪国』を読み、いたく感銘を受けて書いたのがこの詩になる。

私が誰よりも関心を抱いたのが、冒頭に「悲しいほど美しい声であった」と描写される、葉子という娘であった。

彼女の澄んだ声、まっすぐすぎるほど一途な生き様に心惹かれた。

たまに見せるどきりとさせるような危うさ、彼女の中に眠る燃えるようなもの…葉子の心のうちは葉子にしかわからないのだと思いつつも、数少ない台詞を何度も何度も繰り返し読んだ。

悲しいほど美しい声。

私はまだそのような声を聴いたことがない。

その非現実的な感覚こそが、葉子という不思議な人物の象徴と言えるのかもしれない。

川端康成先生に敬意を表して……

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