見出し画像

『冬の朝』

紅茶から浮かび上がる一本の湯気。

冬の朝の凛とした空気に、一本の柔らかな線を描き出し、いつのまにか溶けてなくなってしまう湯気。

その曲線は、おぼろげで優しく、ぼんやり眺めているうちに、なんとも神秘的な光景に感じられた。



紅茶から浮かび上がる一本の湯気。

その白い線は、いつのまにか、白い妖精へと姿を変えていく。

薄衣をまとった妖精たちが、私の目の前でたちまち軽やかに踊りだす。

森の精霊のように、白く長い衣装をまとって、優雅なステップを踏み続けながら。

音も立てずにくるりと回り、ヴェールが交差し、またほどけ、ふたたびふわりと身体を浮かせて……


ふと我に変えると、たちまち妖精たちは姿を消し、少し細くなった湯気と、紅茶カップがいつものようにテーブルに置かれていた。

紅茶カップは、何事もなかったかのように澄ました顔をして、薄く消えそうな白い湯気を上へ上へと立ち昇らせる。

夢か現実か、こたえはカップの奥底へ……

この記事が参加している募集

熟成下書き

今こんな気分

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?