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木の記憶04/今日が一番キツかった。

 木の記憶と言われて思い出すのは、20数年前に(株)九州木材市場に入社し、杉や桧・木材のことを全くわかっていなかったので現場作業から入ったことだ。原木市場は、山から来た丸太を選木機に通してフォークリフトで運び、はい積み作業(※)をし、販売までを行っている。当時、機械化が進んでいなかった現場作業は、この作業を人力で「とび」と言われる”かぎ爪のついた棒”で丸太を揃えるところから行っていて、ぼくの木材人生はそこから始まった。
 当時70代のおじいさんと20代のぼくとのコンビで丸太を揃え、とびを丸太に刺しクルッと回しながら引っ張ると丸太が簡単に動く。70代のおじいさんはくるくる回しながらしょんしょん(ドンドン)引っ張る。ぼくは力一杯丸太にぶっさし力任せに引っ張る。するととびが抜けて転んだりする。はい積み作業は、最大3mの高さで行うので、とびが抜けて落ちると生死に関わることもある。だから余計に力が入ってしまうのだ。この当時は、毎日「今日が一番キツかった」と思っていた。休憩する度に、顔を洗いタオルが真っ茶色になるほど汚れながらこの作業を続けた。
 2023年現在は、こんなきつくて危険な作業はもうやめようと機械化を進めたおかげで全く行っていない。この時の丸太の重さと、丸太から出るすぼ(ホコリ)と砂埃が汗にまとわりつき、加えてフォークリフトの排気ガスやら色々混ざった匂いは今でも思い出す。半年ほど続けた当時はコツをつかみ、ほとんど力を使わずくるくる回せるようになったが、今年ヤブクグリで筏を作った際に久しぶりにとびを握ったが、全くできなかった。ぼくは今でも、この若い頃の木を使ったキツい記憶と匂いを鮮明に覚えている。(ヤブクグリ副会長/林業係/田中昇吾)

※はい積は椪積みと書き、積み荷が崩れないように整え積むこと。

いまでは、はい積み作業は重機が取って代わっている。

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