君は友だち

「彼女、ほんとうは、どうしてあの時死ねなかったんだろう、って思っていたんじゃない?」 居酒屋のカウンターで令子は私に向かって一語一語を搾り出すように言った。

…そうなのかもしれない。彼女は、一度目は首を吊ろうとした。 そして二度目に5階建の団地の最上階から飛び降りて、命は助かったけれど骨盤や脊椎を骨折し下半身不随になった。

今の日本の救急医療は生命を助ける。でも、大きな病気や怪我をした後に生命が助かれば後遺症は残る。そして、その後遺症に大抵の医療は役に立たない。

彼女の職場の仲間は、
『よくなったら戻ってきてください。それまではリハビリを頑張って!こっちは気にしなくて大丈夫だから。』
と言った。

「どうして今の私のままじゃダメなの?」
彼女はそう言って黙り込み、秋雨の細かい粒が降りしきる窓の外に目をやった。

3年後に会った時は、
障害者雇用枠で働くようになって今は充実している、と言った。
好きな人ができた、とも言っていた。
同じような境遇の人たちの力になりたい、と言いさえした。

そして、今度はほんとうに死んでしまった。

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